第42話 そして次のステージへ?

「ああそうか、この姿で会うのは初めてだったな」

 ごつい中年親父はそう言って一人で頷くと、おもむろに両手を前に突き出し交差させる。

獣人変じゅうじんへん!」

 どこぞのパクリのような掛け声で奴の身体が大きく膨らむ。

 耳が生え、しっぽが出た姿はもう間違えない。

「獣人十二神将、イ●カラム・ミラービ●ス」

「ジョンだろ、お前」

 姿を確認しなくても途中から何となくわかった。

 こんな馬鹿他にこの世界にいないだろうし。


「まずいだろ、獣人排斥なんて空気があるのに」

「何、すぐ戻れる」

 ふっと右手で子をぬぐうようにすると一気に身体が縮まった。

 狼耳や尻尾も消えている。

「器用だな」

「人間体でないと魔法戦闘が出来ないからな」

「ところで何でイマ●ラム閣下なんだ」

「実は俺の実名が村上マサキでな」

「本当か」

「勿論嘘だ」

 やっぱりな。

 何か疲れる。


「さて、あとは黒幕退治か」

 言われて気付いたがゲーム側の冒険シナリオの項目が少し変化していた。

『2つの街の開放』に横線が引かれ、横に『達成完了』と表示されている。

 そして新たに、

『黒幕ユパンキ一派を倒せ』

というクエストが表示されていた。

『街を開放した結果、事案の黒幕はインティ神殿ユパンキ派を率いる上級神官、ユパンキ大司教と判明した。北侵軍は未だユパンキ派の精神支配を受けている状態である。だが魔力供給が途絶えたためユパンキ派も軍を今まで通りには動かせない。

 ユパンキ派を倒し平和を取り戻せ!』

 読んでみて何だかなあと思う。

 何故黒幕がユパンキ派と判明したのか、その辺の経過が一切説明されていない。


「何かクエストの説明が雑じゃないか」

「いや、所詮こんなものだ」

 ん? まさかジョン、こいつも社員なのか。

「説明なんてどうせ後付けだからな。使徒プレイヤーとしては功績点を稼いでレアアイテムが手に入れば問題ない。違うか?」

 何だかな。

 気分的にシリアスだった俺は調子を崩されっぱなしだ。

 こうやってこの世界を仮想世界、ゲームの世界と割り切れば楽なのだろうか。


「ところでファナちゃんはどうした」

 このケモナーめやはり聞いてきたか。

「危険だから置いてきた」

 無論ケモナーが危険だから置いてきた訳ではない。

 でも結果的に連れて来なくてよかったとも思う。

 ジョンに会わせないで済んだからな。

 まあ戦闘が色々危険だったのもあるけれど。

「むしろ近くに置いておいた方が安心じゃないのか」

 俺の感覚的なものとしてはそれもある。

 でも、だ。

「この先も激しい戦闘だ。連れて行ったほうがより危険だ」

「うーん仕方ないな。せっかくファナちゃんに会えると思ったのに」

 やっぱりそっちが目的か。

 このケモナー!


「ならローサは何処にいるか知らないか。どうせこの戦闘に参加しているんだろ」

「生憎連絡は取っていないな」

「そうか、残念だな。せめて綺麗どころが一緒だと張り合いがあるんだが」

 おいおい。

使徒プレイヤーの実際の性別は不明だろ」

「人生何事も夢だ、夢みれるところは夢をみないと面白くない」

 こういう発想で生きていければ楽だなと思う。

 それとも俺がシリアスすぎるのか?

 こういう考え方をするよう心がければうつ病とかならないで済むのか。

 ちょっと考えて結論を出す。

 どっちにしろ俺には無理だ。


「なら仕方ない。ちゃっちゃと行って功績ポイントを稼いでくるか。ただデスペナが凶悪だから死なない程度に機を伺ってだな」

 デスペナとはデスペナルティ、ゲーム中で死んだ場合の罰則だ。

 普通のVRMMOなら数時間のアクセス禁止の後生き返ったりする。

 でも演算上でも世界を自然発生させた『アウカルナ』世界群ではそうもいかない。

 新たな使徒プレイヤーとして別の人間でスタートしなければならないのだ。

 まあ前プレイヤーキャラの実子だの養子の設定で財産やアイテムの一部と稼いだ能力の半分くらいは受け継がせることもできるけれど。


「そんな訳で死にたくないから仲間を募るぜ。俺は移動魔法アンカーを獣人の街カジャマラに置いてある。ほとんどのキャラの移動可能地点より北侵軍に近い位置だろう。ただ単独で行くのはデスペナが怖い。

 そこでだ、俺と一緒に移動魔法でカジャマラまで行きたい腕っこき、先着15名様までOKだ。獣人の方とは話がついているから心配ない。我こそはと思う奴は集まれ!」

 いきなり大声でそんな事をどなる。

 一瞬の間の後、わらわら集まってくる使徒プレイヤーの皆さん。

 おいおいそれでいいのか。

 俺は社員だから仕方なく行くけれど。

「よっしゃ締め切り! 行くぞカジャマラへ!」

 移動魔法の浮遊感が俺達を襲う。

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