第8話 あの子の想い……(前編)

 私の名前は林野やよい……この町で生まれ育ち、現在高校3年生。えっ?好きな人は、って?もう、やだぁ~急に何てこと聞くのよ……


 コホン、好きな人は……います。勝間田くんって言うの。私はいつも『しゅうちゃん』って呼んでるけど……


 あ、本当は『おさむ』って言うんだけど、小さい頃からなぜかずっと『しゅうちゃん』って呼んでたらしいの。どうやら2歳の頃から私がそう呼んでたって、お母さんがいくら『おさむちゃん』って直そうとしたけど直らず、彼のご両親が『しゅうちゃん』でいいよ、と言ってくれたとお母さんが言ってたな……


 同じ集落の同世代の子どもは彼だけ。だから、小さい頃から遊び相手もずっと彼だけ。その頃は日が暮れるまで私のおままごとに付き合ってくれたっけ……2人しかいないから、彼はお父さん役、私はお母さん役。お人形が赤ちゃん……今思い出すと恥ずかしいけど、ホント仲良し夫婦だったと、思う……


 小学校の登下校も毎日一緒。スクールバスの席も、もちろんいつも隣。そのことで他の集落の子たちからからかわれた時、彼は自分より大きな子と取っ組み合いのケンカをしてまで私のことをかばってくれたこともあったの……

 

 学年が上がるにつれ、同性の友達と遊ぶことが増えたけど、下校後はやはり2人だけになってしまうの。そんなこともあって、集落の皆さんは私たちを本当のきょうだいのようにいつも2人一緒に見てくれたなぁ。


 彼は優しくて勉強も出来たけど、小さい頃から服のボタンがズレてたり、制服のシャツがズボンから出てたり……私、そういうの気になる方だから……小さい頃は私が直してあげることもよくあったなぁ。そうね、本当のきょうだいがいない私にとって彼はある意味『弟』みたいな存在でもあった、かな……さすがに中学校に進級してからはそんなことは……う~ん、時々はあったかなぁ。

 

 そんな『弟』から恋人に変わったのは中学2年生の冬……お互い、少しずつ意識してたけど、なかなかきっかけが無くて……


 期末試験前、勉強を教えてもらいに彼の家に行ったら、彼の両親は何かの用事で街に出掛けてたので、偶然初めて2人きりになったの。

 一通り勉強を教えてもらったお礼に、魔法瓶に入れて持ってきた紅茶とお菓子を縁側に出してティータイムを楽しんでた時……お菓子を取ろうとお互い伸ばした手が触れてしまい、気が付くとお互いの唇が重なって……きゃっ、私ったら、何話してんの!?は、恥ずかしい……

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