第3話さっきの敵は今の友

生徒会…学校の中心とまで言われるいわば生徒代表の人達が日々活動している場だ。基本的に風化を乱してはならない。生徒の見本にならないからだ。

で、俺が何をしているかって?

極寒の冷気を放つ先輩と向かい合って座っているところですけど?

めっちゃ冷や汗で出ますけど何か?

「あの、ここ暖房つけないんですか?」

すると安藤先輩(まぁ、2年生らしいし)は心底驚いた顔して

「驚きました。まさかこの気温で暖房を要求する生徒がいるとは、病院での検査を行った方がよろしいのでは?」

俺もいつも通りならこんな寒気を感じないんだけどなぁ。というかこの冷気作ってんのあんただろ?出来る事なら今すぐ止めてくれ。

「という安藤先輩もこの時期にブレザーまだ暑くないのですか?」

見た感じ暑そうではなく涼しそうな顔をしていたので試しに聞いてみる。

「率直に言うと物凄い暑いです。ぶっ倒れそうです。悪いですが、少し冷房上げていいですか?」

「いや、あんたが脱げよ」

おかしいだろ、ブレザー外せよ。

「む、あなたのそれはセクハラになるのでは無いですか?」

面倒くせーなおい、そんなんがセクハラなら世界の上司は全員刑務所行きだよ。

「いや俺は、安藤先輩の事を心配して言っているのですよ。先輩の苦しそうな顔は見たく無いですから」

すると、安藤先輩は顔を真っ赤にして、もじもじし出した。

わかりやすい反応だ。

「そ、その…先程は少し私もやり過ぎたのかもしれません。ごめんなさい強引に連れて来てしまって」

ふ、チョロいですわー

こう言う堅い系女子には少し優しげな言葉で柔らかくなるって前サイトで見たことあるけどその通りだな。もう一押ししてみるか。

「そんな!俺も悪い所があったのですから!ここはお互い様という事でここはお開きに…」

先程まで赤い顔をしていたのに直ぐに戻り、

「するわけないでしょう?」

ですよねー分かってますよー。

顔のコントロールとかどんな技術だよ、面接時最強じゃねーかよ。

「えっと、じゃあなんで俺は生徒会に呼ばれたんでしょう?」

彼女もその話題を待っていたのか、鋭い目で俺を見据えてくる…。くっ、目線が痛い…

「金崎さん、貴方昨日二羽先輩と何をしていたのですか?」

「何故、それを先輩が知っているのですか?」

俺は誰にも見られずロッカーに手紙を投函したはずだが?

「ふむ、それを説明するにはまず、これを見て貰う必要があります」

そう言って彼女は胸ポケットから一枚のカードを取り出して机の上に置いた。

二羽ファンクラブNo10安藤若葉とえらく達筆な字で書かれていた。

「これは二羽先輩をあらゆる物から守るために結成されたファンクラブと言う名の組織です。まだ一年生は少ないですが、二、三年生はほぼ8割がこのファンクラブに所属しています」

8割!?ほぼ全員じゃないか…

「てことはNo10なんてかなりすごい位置なんじゃ…」

ダン!と机を叩く音がしてビクッとなる。

「よくぞ、よくぞ聞いてくれました!」

興奮しているのか、鼻息を荒くしながら顔を近づけてくる。ち、近い近い

「私はその中でNo10以内に入るクラス、又の名を[薔薇の近衛隊]の一人なんです!すごいんです!ほらもっと讃えて下さい!」

そういうと、本当に褒めて欲しいのかバッ!と手を広げてアピールしてくる、意味がわからないがなんとなく拍手を送る、冷静な雰囲気だけど意外と暑いんだな

「しっかーし!貴方は私が目を離した隙にこともあろうかとかラブレターを投函!私が後から気づいた時にはもう、先輩が既読!先を読み、屋上には会員を数名、校舎裏にはわざと部活に倉庫の片付けを頼んだのに貴方は現れず、私は会員を連れ、校舎内を探し回ったけどどこにもおらず!見つけたと思えばだらしなく緩んだ顔の貴方と顔を赤らめた先輩がいるじゃないですか!もう、堪らなく可愛かったので写真撮っちゃいましたよ、ありがとうございます!」

いきなり饒舌になり、流れるようなマシンガントークを繰り広げなぜかわけもわからないお礼をされてしまった。

机をバシバシ叩く彼女は少なくとも生徒会の一員がするような行動ではなかった。

俺の生徒会というイメージが音を立てて崩れていった。いや、生徒会というイメージを自分で想像していただけでこれがあるべき姿なのかもしれない、んなわけないな…

「で?貴方は先輩に何をしていたのですか?」

落ち着いたのか肩で息をしながら俺に再度問いかけてくる。

どうせ隠してもバレるだろうし素直に言えば何も言われないであろう。

「いやぁ、告白しようとして…」

「ははぁははははぁはは!?!?」

その体からは想像も出来ないほどの大音量が周りの窓を割り、地面が裂け、校舎が勢いよく崩れ去り、世界は驚愕の渦に飲み込まれた、本当はオレの鼓膜を破らないギリギリの程度で響き渡った。

「先輩うるさいですよ!周りの人に迷惑がかかってしまいます!」

「大丈夫です!周りの部活はもちろん、先生もファンクラブの一員です!」

この学校、一人の生徒の虜になりすぎだろ!まぁ否定はしないけど!

「で!結果はどうだったのです?」

「案の定振られましたよ」

「しゃあ!ザマァ見ろ!」

あっ!こいつ思いきしガッツポーズ決めやがった!どんなに嬉しいんだよ…

「はぁ、まだ、良かったです。もし了解しちゃったのなら、理事長に頼んで社会的に抹殺して貰うところでした」

いや、怖ーよ!?そんなまでして守るのかよ、どっかの貴族ですかね?


ぐぬぬ…、しかしこのままだと負けた感が凄いな、どうにかしてこいつに自分が有利だと言わしめなければ…


俺は彼女の言葉でどこかのスイッチが入ってしまった、もう誰も俺は止められまい!

「しかし!俺は彼女のメールアドレスを交換したのだ!」

そう言い、彼女に自分の通信アプリの電話帳を見せる、そこには甲葉と書かれた神がくれた人類最後の希望が残されていた。

「そん…な…、貴方みたいな人が先輩のメアドを持っているなんて…」

ふふふ、その顔、表情、大変美味である!

「ふふふ、これがあれば俺はいつでも彼女と連絡が取れる上、様々なイベントでお呼ばれされる可能性が増えるのだ!まさに神の奇跡!これこそがエデンだ!」

俺はそのメアドをこれ見よがしと彼女の顔に近づける。

すると彼女は感極まったのか涙を流しながら近づいてくる、

「金崎さん!是非、その神の奇跡をこの私にもお恵み下さい!お願いします!何でもしますから!」

ほう、何でもだと?

何でも言うことを聞く、それは思春期を迎えた男子が皆一度は考えたことのあるであろうシチュエーションだ。俺だって育ちだかり、普通の男の子、いまこそ、俺の理想を叶える時!

「安藤先輩、今何でもと言いましたね?なら、俺の言うことを聞いて下さいよ?」

彼女はビクッと震えると怯えたように俺を見る

「な、なんでしょう?」

「彼女の二羽先輩の事をもっと教えて下さい!」

あまりの驚愕に空いた口が塞がらなくなっている先輩に俺は緊張を覚える。クソ、さすがに無理か…

「え?そんなので良いんですか?」

え?なんだと思ったの?俺結構勇気出したよ?この上を行く要求ってある?俺は脳細胞を活性化させ頭をフル回転させ考えたがサッパリ分からなかった。心理学の先生よんでいい?だめ?わかった。

「というか、先輩なんの要求だと思った…」

「そ、そんなのはどうでもいいでしょう?今から言いますからメモならなんなりとって下さい」

俺は安藤先輩から様々な情報を受け取った。

先輩もメアドが手に入って嬉しいのかグヘヘなどと少女とはあるまじき奇声を上げていた。顔はいいのにもったいない…



私は先輩のメアドをずっと見つめていた、メアドを見るだけでも日々の疲れが吹き飛ぶようだ。

「良かったら先輩のメアドも教えて下さいよ、また二羽先輩の事について語り合いましょう?」

一年下である、金崎真という生徒がスマホにQRコードを表示しながら差し出してきた。

「ふふ、仕方ないですね、先輩への愛なら負けませんよ?」

「何をご冗談を、俺ほど先輩を愛している人はいませんよ!」

「ふふふ」

「ははは」

こんなに好きな事を共有できたのは幾らぶりだろう。今日は思いがけない物が沢山手に入った、私はメアドを交換し、彼を送り出しながらそう思った。

「あっ、二羽先輩に近づけないようにするの忘れてた…」

彼女は頭を抱え、俺は手帳を見ながらグヘヘと奇声を漏らしていた。

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