アカズキン!!

ヤンバル

第1話 お嬢さん、お逃げなさい

家出するなら春が良い。

それも晴れて風の無い午前中が良い。

いまさら後悔しても遅いが、何事も遅すぎるという事は無い。

 

森のなかで出会うなら狼が良い。

それも口の立つ賢い同胞が良い。

いまさら望んでも遅いが、何g


 「待てゴラ!!イヌ!!尻尾だけでも置いてけ!尻尾!!」

怒声が背中に飛んでくる。

 「シ ッ ポ !!!」

見た目で判断したのが間違いだった。

見た目は、ちょっと暗そうなお姉さん。

地元のヒトっぽいし道を尋ねたかっただけなのに・・・

枝をかき分けながら私は走る。


 「殺さねえから!!シッポ寄越せ!!」

声色に殺意が有りすぎる。

棘でもあったのだろうか、腕に痛みが走る。

足を止めたら殺される。


 「あっ!」

地面から這い出た枝に蹴躓く。口に土が入る。

もうだめだ。

駆け込んでくる足音。


 「イヌは興味無ェから安心しろってw」


私の踵の側で女が立ち止まる。振り向けない。怖い。

喋ろうとすると勝手に涙が出てくる。


 「シッポだけは、もらうぞ?な?」


『そこのジャム取って頂けるかしら?』みたいな感じで言わないでよ。

殺される。殺される。殺されr


ぷちっ。

ちくっと痛みが走る。尻尾がもげるのってこんな感じなのね。

 

 「よっしゃあ!これでデルも許してくれるぜ!」


いや、尻尾がもげたらこんな感じじゃすまないでしょ。

恐る恐る尻尾の有るだろう場所に手を伸ばす。愛おしいモフモフはそこにあった。

よかった。

でも安心はできない。相手はヒトなのだ。しかもこいつは恐らく・・・


 「もう用は無ェから死んだふりとかしなくてもいいぞ」


人狼に追いつけるヒトなど居ない。居たとしたら、そいつはヒトでは無い。

閉じようとする喉に力を込める。


 「あ、あなた、赤ずきんでしょ?」

怖くてうつ伏せのままで、地面に向かって私は叫んだ。土が口から何粒か飛び出た。


 「まだシロいよ?w」


嗚呼、本物なのだ。


 「連れてってよ。私も、」


『赤ずきん』の足音が止まる。


 「始まりの場所グランマの家に!!」


そのとき、『赤ずきん』がどんな顔をしていたのか。

私はまだ知らなかった。





 

 

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