第6話:ただの食事での一幕

「あーうまっ」

 美玲が無邪気にチキンをかじり、舌鼓を打っている。

「何を食べてるか分かって言ってんの?」

 向かいの席でソフィアが意味深な言葉を口にする。


「私がチキンを食べちゃダメ?」

「ソイツ、お前の隣にいるやつの親戚だったらどうするんだよ」

 ソフィアが美玲の手元を指差しながら言い放った。

「ちょっと待て、それどういうことだよ」


「単純に、心の端っこに引っかかっただけ。これ、見過ごしていいのかなって」

 ソフィアは悪びれもせずに説明した。

「だってさ、お前の大嫌いな炎に、この可哀想な鳥は焼かれてるんだぜ?」

 と言いながらソフィアも、ヒジをついた手でチキンをがぶりとやる。


「って、ソフィアさんもちゃっかり食べちゃってるじゃないですか!」

「私は別にどこでどんなチキンがどうなろうが、知ったこっちゃないからね」

「じゃあ、黙って食事に集中してもらえますか」

 僕はソフィアに憤りながら、コーンスープをすする。その向こう側で、ソフィアはスプーンを持たず、スープの器を持ち上げ、ズルズルと音を立てながら飲んだ。


「何してるの?」

「そんな飲み方、ありえません」

「別にいいだろう。年下に食事の頂き方を指図される筋合いはないから」

 ソフィアは意に介さず、また器からスープをズルズルと飲んでいく。次の瞬間、彼女の口元からあぶれたスープが、衣装を濡らした。さすがのソフィアも慌てて器を置く。


「しまった!」

「グフフフフフ」

「チッ!」

 ソフィアを笑った美玲が、舌打ちを受けるなり、「何か悪いことした?」と無言で語るような表情を向けた。ソフィアは苛立ちながら、衣装についたスープをおしぼりで必死に拭いている。


「そんな拭き方じゃ、スープが衣装に広がりますよ」

 アリスが心配そうにソフィアに声をかけた。

「あー、うるせえうるせえ、てめえらリアルに黙ってろーい!」

 ソフィアは感情をおしぼりにこめて、衣装にぶつけていた。

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