第5話 ゴールデンウイーク

「あれ、今日誰かお客さん来たの?」


 ゴールデンウイーク中の部活が終わって家に帰ってくると、リビングのテーブルの上に母さんの秘蔵のティーカップセットが出ている。カップは三つ。珍しいな。これ、めったに使わないのに。

 あっ、オレンジの香りがする?


「さっきまで友香さんが来ててね。お茶を飲んでいったわ。」


友香が!もうこのティーセットを母に使わせるとは!なんてやつだ!


「友香は何しに来たの?」


「ポン酢のビンと、タッパーウェア返しに。それと、あなたにクッキーを焼いたからって。私とお父さんも食べたけど、こっちの包みはあなたにって。」


着替えて、手を洗ってきてからクッキーの包みを開ける。一つ手に取ってみると、Aってアルファベットの形のクッキーだ。


「あら、私達のは普通の丸い形だったわ。」


僕はクッキーを包みから全部出してみる。Aだけじゃなくていろいろあるな…。バラバラのアルファベットを眺めて、すぐわかった。


A K I R A…。僕の名前。


じわじわと心がとても幸せな気持ちになる。

あんまりきれいな形じゃない。お菓子作り得意じゃないって言ってたっけ。

僕のために作ってくれた、そのことに友香の僕への気持ちを感じる。


「あらあら、ごちそう様だこと。」


母さんが笑いながらティーセットを片付ける。

今日は部活で調子が悪くて、もっと練習しろって怒られた。暗くなっていた気持ちがすっと消える。また、頑張ろう。


このクッキーはどうしよう。やっぱり食べたほうがいいな。取っとくのは中学生みたいだし。あ、でも食べる前にケータイでクッキーのAKIRAを激写しよう。


「母さん、何やってるんだ?啓は。」

「さあ。」


友香にラインした。

『AKIRAありがとう』

『♡クッキー、入れ忘れたよぅ!』

『それは大失態ですね♡』

『入ってなくてもわかってるでしょ。』

『ラインに♡入れてよ。』

『クッキーの前に入ってるよ。』

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