寓魔界駆逐奏驚憚

電咲響子

寓魔界駆逐奏驚憚

△▼1△▼


お、れぞ人間ヒトが達し得る極理きわみ境地いきこれから、是から殲滅ほろびの攻めを開終かいしする。準備せよわれらが戦士リク。貴様は此れより異物ハグレを排し、我の元に舞い戻り戦果をべるのだ』


△▼2△▼


 具茶具茶につぶれた変土いど擁胞所では怨嗟の声が果てなく、果てなく、果てしなく続き。

 最早命生いのち尽きかけし群すらそれ尽きる存在ものに刈られ、それ尽きる存在ものの糧となる。その酔うな景色を診てなお僅かの感慨すら持たぬリクは、既に医成らず果て無き屍骸を踏みしだき歩く狂人か。


「もしもし、これなぞ如何いかがです」


 まことなる勇者に愚者からの供えあり。租の供物を受け、喰いさばらえる。ついぞ逝きく者への餞別たむけなり。

 がぎん。がぎん。

 酷い鉄音がねおとと供に昇降機エレベータが動作を開始する。開始されし動作は終着までまる事あらず。喩え道中、襲劇おそわれたとしても。


△▼3△▼


 がしん。到着を示す合図がり響くと同時にてきが現出する。租の腐身からだは知るより長く、永きを活き延びてきた証でもあった。


「こいつはヤバいな」


 戦士リクが弱音を漏らす。勇敢な狩人が弱音を漏らす。それ程に彼奴の図体はおおきく、からだから生じる兇刃ぶきは万遍なき死の予兆を謳っていた。

 刹那。リクは背から兇槌ぶきを抜き蟲を薙ぐ。触手えものわしながら鋼鉄てつを捩じ込む。

 断末魔。

 蟲の声帯から発せられたそれはさらなる凶兆を予見していた。


△▼4△▼


 無数の。無数の死骸。リクはり遂げた。一時は無限かと思われた存在むしを完膚なきまで殴殺した。

 この行為にりリクのなかまは平穏を取り戻すだろう。しかし、安堵に溺れる筈のリクが嗟叫さけんだ。


「増殖機か」


 リクの視線の先には怖恐おぞましき機械。役目を終えてなお蟲を造りつづける機械。その様相さまは診るに耐え難く、実地にいては手術オペのみならず処置すら困難に違いない。


「こいつら、生きてるんだよな」


 リクが吐いた言葉には哀別の情がもっていた。リクは訊ねる。


「どうする?」


 私は応える。


「速やかに処分する」


 私は雷磁銃クエーサーを抜き、標的マトに照準を合わせ引き鉄をいた。


△▼5△▼


 灰燼かいじんと化した増殖機を傍目に私は人語ことばを発する。


「あと一匹だな」

怨恨うらむなら暴走したなかまを怨恨んでくれ」

「ああ、そうするよ。出来損ないには相応ふさわしい最期だ」


 リクは人間ヒトの姿をした蟲に鉄槌を振り下ろす。


△▼6△▼


お、れぞ人間ヒトが求めし強者ゆうしゃなり。これからも、是からもわれらが剣となり盾となり、その生涯しごとを全うするのだ。汝に神の加護があらんことを!』


<了>

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寓魔界駆逐奏驚憚 電咲響子 @kyokodenzaki

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