未来から娘がやって来た。そして屋敷で暮らすことになった
天界 聖夜
第1話 日常とはいつだって唐突に終わりを告げるモノダ
「理沙、ヤバイヤバイヤバイよ。退路が……」
「ええ、もう前へ進むしかないみたいね」
濡らしたハンカチを口に押し当てながら俺と理沙は、身をよじるようにして炎をさけながら、慎重に
なんでこんなことに……なったんだっけ……。
この辺りで放火事件が立て続けに起こっていた。
警察も深夜のパトロールを強化したりや、民間のセキュリティー会社と協力したりと、色々と対策を講じているが。
いまだに犯人は捕まっていなかった。
そのことに痺れを切らした理沙は、自分の手で犯人を捕まえると言い出したのだ。
もちろん、俺は止めたけど。
まったく聞き入れてもらえず。
理沙がいくら超人的な身体能力を有しているとはいえ『女の子』だ。
独りで深夜を練り歩くのは『危険』だ。
だから俺も同行することにした。
++++++++++++++++++++++
「な、何かしら? この鼻をつくような悪臭わ」
理沙が鼻をひくつかせながら、駅前にある商業施設の方に視線を向け瞬間。
爆発音が響き、複合商業施設から黒い立ち昇る。
「火事だ!? 救急車と消防車を呼べ。
俺は、避難誘導をする」
男性の叫び声が響いた。
「どうやら俺たちにできることはなさそうだな。
早く避難しようぜ、理沙」
「何言ってるの龍一。
気は確かなの。
何のために夜の街を何時間も練り歩いてたと思うのよ。
犯人を捕まえるためでしょ」
「いやいや、まてまて!?
俺はそんな可笑しなことは、言ってないと思うぜ。
やっぱりそういうこと『警察』に任せるべきだと思うぜ」
「龍一の言っていることは、正しいのかもしれない。
でも目の前で助けを求めているヒトがいるなら、私は助けたいのよ。
確かに助けを求める女の子の声が聞こえたのよ」
そして理沙は走り出していた。
燃え盛る火事場に向かって、物凄いスピードで。
いっこうに消防車が到着する気配がない。
サイレンの音がまるで聞こえてこないのだ。
理沙の言う通り悠長に消防隊を待っている場合じゃないのかもしれない。
……はあぁ~~~。
結局……こうなるのかよ。
++++++++++++++++++++++
野次馬にまぎれて火災現場を見ている不審者を発見した。
フード被った怪しげな男から灯油の匂いがしたのだ。
俺以外の人間は誰もそのことに気が付いていないみたいだった。
電信柱の陰に隠れて、ズボンのポケットから赤ブルマを取り出し。
これ以上理沙に危ないことはさせられないからな。
俺は覚悟を決め。
赤ブルマを被ると、犯人に気づかれないように忍び足で距離を詰め、背中に触れて邪気を吸い取る。
そしてリュックサックからロープを取り出し、近くの電柱に縛りつけ。
先に行った理沙を追いかけるように俺も、
++++++++++++++++++++++
と……まあ……回想してみたものの……現状を打開するアイディアは、まるで浮かばなかった。
背後では、バリバリと建材の崩れる音が断続的に響いた。
オレンジ色の炎の先からは濃い
予想以上に火の回りが早く。
完全に退路を断たれてしまった。
そして俺たちがいるのは、5階の『婦人服売り場』だった。
「お姉ちゃん……私たち……ここで死んじゃうの?
私……死にたくないよ」
「大丈夫、大丈夫だから。
お姉ちゃんが絶対に、お父さんやお母さんの元までとどけてあげるから」
ヒリヒリするほどの熱気にさらされながら理沙が一生懸命、女の子を励ましていた。
燃え盛る炎の中で俺は微かな空気の流れを感じ。
「理沙!? 壁を蹴り破れ」
「わかった。この壁を蹴ればいいのね」
「ああ、思い切りやってくれ」
凄まじい威力の秘めた回し蹴りが煤けた壁に炸裂し、外壁は粉々に砕けちった。
俺は女の子を抱きかかえると、一切の迷いなくぽっかりと開いた穴に向かってダイブする。
理沙ならこの状態でも何とかしてくれると信じていたからだ。
「まったく龍一はいつも無茶ばかりするんだから」
理沙は物凄いスピードで外壁を駆けていた。
いわゆる『壁走り』と言うヤツだ。
俺たちが降下するよりも速いって……色々と物理法則を無視してないか?
まあ、それはいつものことだけど。
いち早く地面にたどり着いた理沙は、俺たちのことをキャッチしてくれたので。
どこもケガをすることなく『火事現場』から無事に帰還することができた。
「
「お、お母さん~~~」
女の子の名前を呼ぶ声と同時に母親らしき人物が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます。
娘を助けてくださいって。
ほんとにありがとうございます」
こうして、姫川理沙の武勇伝がまた一つ増えたのであった。
理沙と付き合い始めてから小説を書くネタには困らなくなった。
様々なトラブルに巻き込まれることが増えたからだ。
ほんとうに……色々なこと……あった。
「……ん?」
感慨にふけるように夜空を見上げると、何かが落下してくることに気付いた。
そのことに気が付いたのは、本当に偶然としか言いようがない。
薄ぼんやりとした星のような小さな点だったものが、見る間にその大きさを増した。
細く、速く、どこか鋭さを持ったような音が、ドンドンと大きくなって、確実に近づいてきている。
近づくにつれ加速度的に累増するその姿は、どこか神秘的で不思議と恐怖は感じなかった。
その光は暖かくて、どこか懐かしさのようなモノを感じたからかもしれない。
「ひょっとして、アレ? 隕石かしら」
「えっ! どこどこ? 私も見たい」
「ほら、あそこ!? 青白い光がこっちに近づいてくるように見えない」
「ねぇ、龍一。
隕石の落下地点って。
龍一が住んでるボロアパート付近じゃない」
理沙の言葉を聞いた俺は、凄まじい爆風のなか……全速力でボロアパートに向かって走り出す。
「逃げろぉおお」
「邪魔だ!? ど、どけぇええ」
「きゃあっ」
「おい、押すなっ!? 危ないだろう」
逃げ惑うヒトたちをかきわけて前へ、前へと進む。
そして俺は半壊したアパートを目にした。
幸いなことに俺以外の住人は、そこ避難した後だったみたいだな。
瓦礫の中から執筆に使っていたパソコンを見つけ出す。
よかった……どこも壊れていないみたいだな。
「パパに会うためにミライからやって来ました。
「えっ!? えええっ」
鮮やかな金色の髪をした幼女が挨拶をしてきたのだ。
彼女は、青白い光を放つ未知の素材で作られたボディースーツを着用していた。
宇宙服のようにも見えるが、無骨さはまるでなく『洗練』されていた。
だが、辺りには『タイムマシン』らしきものはどこにもなかったし『宇宙人』ですと言われた方が、まだ信じたかもしれないな。
「ああっ!? その眼は……信じていないですね」
「常識的に考えてだな」
「なら証拠を見せてあげます。
わたしぃが未来人であり、パパの娘だという証拠を」
姫川黎剣と名乗った謎の幼女は、腰につけたポーチから一冊のノートを取り出した。
それが全て始まりだった。
「このノートに見覚えはありませんか」
それはいつも肌身離さず、お守りのように持ち歩いている、この世に一冊しかない特別なノート。
姫川理沙と再開するきっかけになった魔法のノート。
またしても『一冊ノート』から、物語はスタートしたのだった。
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