第2話「分相応」

 山城にとって芳江はやむを得ない選択肢であり、同時に分相応でもあった。

 客観的に見れば、山城には過ぎた女だったかもしれない。

 

 芳江の器量もまた、お世辞にも優れているとは言えないものだった。

 山城のように中年太りのだらしない体型ではなく、むしろ痩せ型の部類だ。あごがしゃくれて面長な糊代のりしろの多い顔であったが、それに比べて目や口は小さく、総じてしみったれた印象を醸し出していた。小顔である程度の肉感の漂う女が好みの山城にとっては対照的ともいえる外見をしていたものの、自身のそれを棚に上げて高望みをするわけにもいかなかった。

 

 芳江とは、結婚活動を通じて知り合った。山城より五歳若く、出会ったときはまだ三十二であった。結婚活動市場において芳江の年齢は十分に若いと認識されるものであり、その若さと、加えてそもそも女であるという特権により――器量の悪さを考慮しても――、他に多様な選択肢はあっただろう。

 芳江は、しかし早い段階で山城を選択した。山城の落ち着いた話しぶりや、聞き上手なところに惹かれたとのことだった。また、囲碁という共通の趣味があり、自分よりも数段格上だったことも、山城を尊敬する一因として働いた。山城としてもその珍しい共通項は、芳江に対して見いだしづらい利点のうちの一つであると感じた。

 

 山城は、しかしそのままに受け入れられなかった。器量が悪く収入も人並みであった自分を選んだのは、芳江としても分相応だと判断したからではないか、あるいはもう少し悲観的に見れば、自分は妥協点だったのではないかという発想が浮かんだ。直接問うたわけではないが、自分が内外ともに女を結婚へと突き動かすほどの魅力を備えているとは、好意的に斟酌しんしゃくすれども思えなかったのだ。


 結婚して五年になるが、芳江との行為のとき、山城はいつも複雑な気持ちになる。出社前に念入りに化粧をするのを遠目に見るときのように、三つ四つの負の感情が混在して脳内で浮遊するのだ。

 化粧の剥がれた小さい一重ひとえや口や広すぎる糊代を見ると、山城の要所はしなびてしまうことが多かった。そのため、なるべく視界に入らないように努めていた。

 細いウエストや半端な大きさの胸は、触れてもやはり山城を刺激することは少なかったが、それらに比して尻のほうはなかなかに豊かな肉付きを備えていた。上半身の細さからするとその大きさと形には意外性があり、腹周りや胸につくはずだった分の脂肪がその一ヶ所に集まっているようにさえ思えた。感触もよく、山城はいつも芳江の尻を味わうことで目的を達した。



 

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