第2話 ルームメイト:報告

「今日さ、面白い子と知り合いになった」

 ルームメイトに紅茶を振る舞いながら切り出してみる。独り言よりはマシという相手だった。

「面白い子?」

「〝能面さん〟いるでしょ」

「ああ……」

「あの子が生徒会に来て私が対応することになった」

 ふうん、という相槌で会話が途切れる。張り合いのないことおびただしいけれど、関心のある振りよりはマシだ。好き勝手なことを喋るのはお互い様。私はテレビ人形劇の話をし、彼女は将棋の話をする。時には同時に。王様の耳はロバの耳。

「話してみたら感じのいい子で、友達になれそうな気がしたんだよね。人形劇にも興味持ってくれたみたい」

 ガラスケースに頭を突っ込みそうになって助けてもらったことやクリアファイルの件を挙げていく。

「いい匂いのする女の子なんてほんとにいるんだね。なんだろ。シャンプーとかじゃなさそうだったし。香水も違いそうだし」

「なんだ、いい匂いって」

 珍しくまともな反応があった。

「えぇと。松ヤニ? 家具? 雛人形?」

「いい匂いか、それ。わけわからん。職人の家の子とか?」

「なんだか知ってる感じなんだよね」

「あんたが友達になれそうとか言うの珍しい」

「そうなんだよね」

 私には友達らしい友達がいたことがない。人嫌いではないはずだけれど思い描くような友達に一致する子が見つからず、仲良しごっこに見えてしまう女子のコミュニケーションも苦手だった。このルームメイトのように、自分のペースを崩さず踏み込んでこない友達未満の相手が気楽だ。

「よく見たら私の推しキャラと顔立ちも似てるし」

「なんだ推しって。あぁ、人形劇のあの人形か。……似てるか?」

「似てる似てる」

「……あんたはあの頭に角の生えてるキャラとちょっと似てるな」

「私、あんな美形じゃないよ?」

「まったくその通りだが、いや、頭蓋骨が前後に長いあたり。つのとか口の中の入れ子の口とか似合いそう」

「…………」

 どうせ見ていないと思いながらもお気に入りの番組やグッズを披露してきたのだけれど、意外と視界に入れてくれていたのだと少しだけ感心する。

「明日はどんな風に話しかけようかな」

「なんというか」

「うん?」

「デートの前日みたいだな」

 なるほど、と思ったところで消灯時刻が来た。

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