第7話 初めまして 4


 再びゼノスさんに連れられて、違う部屋に来た。

 パタンと後ろで扉が閉まる音を聞きゼノスさんを振り返った。

 「あまり気を落とさないで下さい。旦那様はちょっと性格が悪い方なので・・・」

 私に気遣ってくれるゼノスさんは優しい。

 

 優しいがお父さんの性格はちょっとじゃないと思う・・・。

 今後会う事も無いと思うから、忘れる事にしよう。


 そんな決意をしている私の前に、ゼノスさんは服を差し出してきた。

 「外に出るにはそちらの服だと何かと問題があるでしょうから、これをあちらで着てください」

 差し出された服を受け取ると、衝立を示された。

 

 着替えた服は、動きやすそうなワンピースだった。

 生地も今まで着ていた服よりも、ずっと手触りが良い。

 今までもこういった服が着たかったな。


 衝立からゼノスさんの元へ行くと、靴とリュックが置いてあった。

 「靴はこちらを使って下さい」

 言われるがまま靴を履き替える。

 「それから、こちらには着替えと食料を入れておきました。少々、重いでしょうが我慢して下さいね」

 受け取ったリュックは確かに重い・・・。

 大体、五・六キロかな?

 中を開いて確認すると、着替えが数着と、日持ちしそうな干し肉、乾パンに水筒が入っていた。

 重いが、これから当面の食料は大切。

 

 「はい。ありがとうございます」

 お礼を言いつつ、確認していたリュックを背負う。

 「では、行きましょう」

 その声で再びゼノスさんに付いて、部屋を出た。


 案内されて付いて行くとそこは私の居た所で言えば、お店の裏側の様な所に出た。

 多分、業者がお屋敷に出入りする勝手口なのかな?

 辺りを見回しているとゼノスさんが立ち止まった。

 

 あっぶな!ゼノスさんに追突する所だった。

 よそ見しながらの、歩行はダメだよ!

 特に最近はスマホ見ながらの歩行が危なくて・・・ってそう言う事じゃない。

 

 「見送りは許可されていないですよ」

 厳しい口調のゼノスさんに、何ぞよ?と立ち止まったゼノスさんから、少し体をずらして見たら、扉の側にリアが立って居た。

 

 それを見て納得。

 こんなに大きいお屋敷なのに、誰も居ないなんて可笑しいと思ったんだよね。

 確かに私を見られるのはお父さん的にはまずいし、いくら誰にも話すなって言われても人間ダメだと言われた事をたしたくなるよね。

 一人でうんうん言ってる間にも二人の会話は続いている。

 

 「ゼノス・・・少しで良いのお願い。最後に話させて・・・」

 懇願するリアにゼノスさんは小さくため息をついた。

 「・・・分かりました。少しだけですよ」

 「ありがとう、ゼノス」


 二人の間で話がつくとゼノスさんが横に捌け、私に道を譲った。

 

 私を見たリアはいつも話すときの様に、私の目線の高さまでかがんだ。

 「短い間でしたが一緒に過ごすことが出来てリアは本当に嬉しかったです。今まで外に出てみたいなとお話されていましたが、こんな形で外に出れた事残念です。出来る事なら私も一緒に行きたかった・・・。それが出来なくて本当に申し訳ありません。外に出たら楽しい事も辛い事もあるでしょう。それでも私はお嬢様がちゃんと立って生きていけると分かっています。どうかお体に気を付けて下さい」

 そう言うとリアは私を抱きしめた。

 その言葉に、体温に、泣きそうになった。

 

 リアとは初めから、友好とは言えない関係だった。

 でも一緒に過ごす内に次第と打ち解けていった。

 そして一緒に過ごす内に、彼女が私を見る目が変わっていったのに私は気付いていた。

 

 きっと自分の子供の様に思っていてくれたと思う。

 だからこそ、此処では泣かない。

 彼女の前で泣いてしまっては、彼女の心にわだかまりとなってしまう。

 「リア、お見送りダメなのにありがとう。私もリアと一緒に居れて本当に良かった。リアも体に気を付けてね」

 私もありがとうの気持ちを込めて、抱きしめる腕に力を込めた。

 

 体を離したリアの目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

 それでも泣かない様に、涙がこぼれない様に私に向かって笑った。

 私も笑顔を返す。

「貰って下さい。屋敷を出たら中を開けて下さいね」

 そう言うと徐にリアが私の手を取って、掌に小さな袋を置いた。

 「分かった。ありがとうリア」



 「そろそろ行きましょう。これ以上、遅くなるわけにはいけません」

 ゼノスさんの言葉に、私達は離れた。

 

 最後に

 「リア、さようなら」

 「はい。お嬢様、さようなら」

 言葉を交わして、私は扉から外に出た。

 

 扉から出ると、そこには馬車が。

 ゼノスさんを見るとこれからの工程を話してくれた。

 「馬車で一週間程移動して国境付近の村まで行きます。その後はお嬢様と最後の場所に行きましょう」

 説明が終わると、馬車の扉を開けてくれて乗るのを促された。


 馬車に乗った私はドキドキものだ。

 え?初めて馬車に乗ったからとかじゃないよ?

 いや、一割位はあるかもだけど・・・。

 だってゼノスさんが言った最後って気になるでしょ⁉

 アレってどう言う事⁉

 お父さんは殺さないって言ってたけど、ゼノスさんが旦那様の為とか言って私を亡き者にしたりして・・・。

 出だしはどうであれ今度は楽しく長生きをしたいので、殺されそうになったら出来る限りの事をしよう!

 それでもこの先、不安しかない・・・。



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