第6話 初めまして 3


振り返ったお父さんを観察する。

お母さんもリアもゼノスさんも、どちらかと言うと暗めの髪色と瞳をしていた。

ちょっとはお父さんと容姿が似ているのかと期待はしていたのだが、見事に打ち砕かれた。


それにしてもお父さんは若い。

多分、二十代後半か三十代前半くらいだろう。

お母さんも二十代前半に見えたし。

この世界では早期に結婚・出産をするみたいだ。


お父さんの顔をまじまじと見ていると。

お父さんは私にソファに座る様に勧めた。


ソファは私の部屋のよりもフカフカ。

部屋にあったソファは固めで長時間座っていると疲れる物だったのに・・・。

なんだコレ。

私の部屋にも置いて欲しい。


一人、そのフカフカを堪能していたら向かいにお父さんが座った。

お?と顔を上げると、お父さんと目が合った。


瞬時に氷付いた。

顔は微笑みを浮かべているが、目が笑ってない。


「君に来てもらったのは、幾つかお願いと報告があって呼んだんだ」


氷付いた私を無視してお父さんは話し出した。


「まず、報告から・・・君の母親と呼べるソフィアが先日、亡くなった」


柔らかい声色で話すお父さんは笑っていない目で私に告げる。


「・・・お母さんがですか?」


「そう。母親とは認識はしていたんだね。随分前に会った時は返事すらしなかったのに」


私をちょっと不思議そうに見ながら、話を進めた。


「元々、丈夫な方ではなかったけど三か月前から急に体調を壊して、寝たきりになっていたんだ」


「そうですか・・・」


「因みに葬儀・・・って言って分かるかな?」


何もものを知らない子供に聞くようにお父さんは聞く。


「はい。亡くなった方を弔う事ですよね」


「へぇ。それは誰に教わったの?」


しまった!失敗した・・・。

ここでリアの事は絶対に知られるわけがいかない。


「その・・・お母さんが亡くなる前に色々教えてくれました」


私の返答にふーんと答えて、続きを話し始めた。


「それで・・・ソフィの葬儀は既に終わっている。私はソフィと一つだけ約束をしていた。それは君を殺さない事」


お父さんは一瞬だけ私を睨むと、また微笑みを浮かべた。


「今までソフィとの約束があったので、君を幽閉と言う形でこの屋敷に置いていたけれど、ソフィが居ない今、その約束は無効になる・・・分かるかい?」


「私は要らない。と言う事ですか?」


「うん。そうだね!」


こんな話をしているのに、満面の笑みで返された。


父親は母との約束の為だけに私の面倒を【一応】見ていてくれた。

母との約束の為に殺さないでいてくれた。

その会話で面と向かった時から私の中でなんとなく鳴り響いていた警告が、イエローからレッドに変わった。


だって、【殺さない】でいる理由は【約束】。

直接、手を下さなければ良い。


私、死ぬかも・・・。

短い人生だった・・・。

絶望する私に気を良くしたのか、お父さんは尚も話を続ける。


「うん。要らないんだけど、ソフィが手塩に掛けて今まで育ててきていたのに此処で殺したら、ソフィに祟られそうだから・・・君には屋敷を出て行ってもらう事にした」


そう・・・決定事項なのですね。

最初から私の意見は聞き最初からないだろうけど・・・。


「君にはいい条件でしょ?殺されない代わりに屋敷を出ていくだけで良い。今まで外に出れなかったんだから良かったね」


うん・・・この人ドSですね・・・。


「ただし、一つだけお願いがある。これを聞き入れて貰えるのなら、当分の資金・食料等を君に渡そう。どうする?」


「勿論、それを聞き入れます」


「お願いの内容を聞いていないのに、承諾するの?もし、お願いが“屋敷を出たら自殺して”とかならどうするの?」


・・・この人、質が悪い。


「・・・お母さんのお願いで殺せないなら死ぬようなお願いでは無いと思ったので」


「へぇ、意外と頭が回るんだね。それじゃ私のお願いを言うよ。お願いは二つ。一つ目はこの屋敷で育った事を誰にも話さない事。二つ目、屋敷を出て行った後は絶対にこの屋敷に二度と近づかない事。この二つだ」


「分かりました」


その言葉に満足したのか、


「万が一、約束が守れなかった場合は死んでもらうからね」


本当に良い笑顔で恐ろしい事を言ってくる人だ。

死んでも屋敷には近づかない様にしよう。


こくん。と頷くのを確認したのを満足げに見たお父さんは、自分の後ろに控えていたゼノスさんに向かって目配せをした。


「じゃぁ君とはここでお別れだ。後はゼノスに従いなさい」


話は終わったと立ち上がるお父さんに慌てて質問をした。


「あ・・・あの!ここを出る前に私の名前を聞いても良いですか?」


勢いよく聞いた私が見たのはきょとんとしたお父さんだ。


「え?名前?無いよ。わざわざ付ける必要性も無かったし」


今度は私がきょとんとした。

まさか、名前を付ける程の価値も無いと思われていたなんて・・・。


「質問はそれだけ?」


「はい・・・それと、今までお世話になりました」


必要ともされていなかったが、それでもここまで生きてこれたのはこの人の御かげなので一応はお礼を言った。



お辞儀をして再び顔を見たお父さんは、一瞬だけ目を見開きまた冷めた目でこちらを見てそれじゃ早く出てったと冷たくあしらわられ、部屋を出た。

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