第25話「告白」

「なんと前置きしたモノか少し迷ったのだけどね、単刀直入に言おう。白昼堂々、殺人事件が起きた」


 えっと驚きの声を漏らすことが出来たのは、女魔法使いがほぼ前置きなしにあの事件について切り出してきたからだった。


「大っぴらに触れ回れるようなことでもないから、君にここまでご足労願ったわけだが……」


 今僕たちが居るのは、魔法使いが使う活動拠点の一つだという一見すると民家にしか見えない建物だ。職場の上司が許可を出し連れ出された僕と僕を招いた女魔法使いだけがここに居た。


「確かに、そういう内容なら人払いできる場所にって言うのは納得できますけど」


 僕が何も知らない一般人であれば気になる点は二つ。なぜわざわざ僕に知らせたかと、二人だけで話すなら別に僕を連れてこずとも職場の商談用件来客用の個室ではダメだったのかという点だ。だから、僕もその疑問を口にして女魔法使いに尋ね。


「ああ、やはりそう思うか。二つ目に関しては一つ目の方の理由にかかってくるのだが、犠牲者になったのが先日君に絡んだらしい男性だったからだよ」

「っ」


 指摘されるまでもなく、それについては知っていた。だから告げられることは分かっていたが、心の準備が出来ていれば冷静でいられるかと言えば話は別となる。


「……僕が、疑われているんですか?」

「いや」


 探られて痛む腹のある僕としては出来れば口は開きたくなかったが、意を決して問えば、女魔法使いは首を横に振って答えた。


「犠牲者にすぐ直前の段階でもめた相手が居る、それだけなら君を疑う余地はあったが……犠牲者の同僚に話が聞けてね。私の書いたアレを疑って難癖をつけた人物だって言うじゃないか。だが、君とはあの店で言葉も交わしてるし、私と君が顔見知りだってことはその内犠牲者の職場にも伝わるだろう」


 放っておいても立場が悪くなった犠牲者に君が手を下す理由は乏しい、と女魔法使いは僕を疑わない理由を挙げた。


「君がもめたことを私に伝えなかったのは、仕事上かかわりのある場所で騒ぎを起こさない為だろう? あの店には犠牲者の同僚も居たようだから、万事うまく収まるように私にも思えた。むしろその裏の裏、否定条件がそろっているから犯行に及んだとも思えない」

「ですよね」


 魔法使いが滞在する場所で犯罪を犯す、それ自体非常にリスクが高いのだ。一般人では内容も知りえない魔法という手段を行使できる魔法使いは犯罪者にとって天敵だ。隠蔽しようとした事実が魔法によって明らかにされるかもしれず、実際に謎が解明されず迷宮入りした事件がいくつも魔法使いの手によって解決し、犯人が捕まったりしている。


「加えて、今回の事件。状況を鑑みるに私が追っていたヤツの犯行の可能性が高いんだ」

「へ?」


 思わず振り返った僕に魔法使いは言った、今回の事件はただの人には為しようのないものであった、と。

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