第3話「邂逅」

「誰だ、どこにいる?!」


 この訳の分からない状況下で、聞こえた声はまさに唯一の手掛かりと言えた。もちろん、それが僕同様に床に呑み込まれたどこかの召使だか侍女だかが助けを求めて主人を呼んだだけって可能性もある。それでもこんな状況でただ一人ぼっちよりはましだ。


「答えろ! 声が聞こえたってことは、そっちにも聞こえているんだろう?」


 答えが返ってくることを望んで声がした、そう思った方へと叫ぶ。


「あ」


 そして、叫んでから気が付く。僕は石畳に沈み込んで意識を手放したのではなかったかと。


「いつから――」


 僕は、意識を取り戻していた。そして、ここはどこだ。最初は沈みこんだ石畳の中だと思ったが、なら、何故声を発すことが出来るのか。口を開けた途端、石畳の下にある土が口の中に入ってくることもなく、そして気のせいでなければ呼吸も出来ている気がする。ただ、視界は視力を奪われたのかと錯覚するほどに何も見えず、そういえばと思い出したようにいつの間にか目を開けていたことを認識したのだが。


「どういう、どういうことだ……」


 目を開けても何も見えず、呼吸は出来るということは、ここは地下に何らかの理由で生じた空洞だとでもいうのだろうか。


「それにしては埃っぽくもない」


 それに石畳に沈み込んだ感覚は、はっきり覚えている。石畳の下に空間が出来て、僕の自重に耐えきれなくなった石畳が崩れ空洞の中に僕諸共に落ちたとかとも思えず。


「ご主人様」

「また?! どこだ、どこにいる?! 誰だ!」


 再び聞こえた声に誰何の声をあげたすぐ後だった。前方の上の方が急に明るくなり。


「うおっ?!」


 驚きの声をあげた僕の顔の前あたりへと輝きながらゆっくり降りてくるのは、あの時拾った宝石だった。


「な、ほう……せき?」

「違います……私は、管理石……ダンジョン・コアと呼ばれるものです」


 疑問の形で口に出た言葉に、先ほどの声が答え。


「ダンジョン、ダンジョン・コアだって?!」


 僕は思わず叫んでいた。前世持ちであるが故にその単語には聞き覚えがあったのだ、主に創作の世界でのはなしになるが。


「ダンジョンコアって言うと、迷宮の核で迷宮を改造したり拡張したり、モンスター―を生み出したりするって、あれ?」


 異世界ファンタジーと呼ばれるジャンルの小説でお目にかかった時の大まかな設定を僕が口にすれば、管理石と名乗ったソレははいと肯定の返事を返してきた。


「じゃあ、ここは迷宮――ダンジョンなのか?」

「はい、管理室と呼ばれる最初の部屋となります。前任者であられるマスターが死亡したため、自立行動の出来ない私は石畳の上に放り出されたまま何もできず、貴方が触れてくださったことでようやくこの部屋を作り上げることが出来ました」

「そうか」


 つまり、石畳に僕が沈み込んだのは、そのせいなのだろう。今、こうしているのも。

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