第2話「回想の先で」

 思い返すと、前世の方がマシな一生だったのではとつい思ってしまう。前世の記憶がよみがえったことで計算に関しては飛びぬけてできるようになった少年時代。一時だけ神童扱いもされはしたが、中の下程度の学校に通っていた僕の学力はだいたいお察し。同年代に居た本物の天才にあっという間に追い越され、最終的にただの人だ。権力もコネも金もなく、辛うじて下級の役人になった僕が知ったのは、ロクでもない現実と賄賂が横行している理由。


「下級の役人は仕事がキツいくせに給料は少ない」


 政治の腐敗してる外国の現状としてどこかで聞いた話がすっぽり当てはまるような現実がそこにあった。だから、幾らかの役人は生活の為に賄賂を要求し、受け取っていたのだろう。だが、僕は迎合せず、賄賂は受け取らなかったし、要求だってしなかった。その結果、同僚はやってもいない僕の悪行を上司に報告し、仕事の一部をサボってこちらに押し付け、嫌がらせを始めたのでこれに僕が応戦し、上司は詳細をロクに調べようともせず、僕を解雇。


「アンタにゃ役人は合わなかったのさ。アンタ計算が得意なんだろ? うちの従兄がちょうどそう言うやつを探しててね。どうだい?」


 幸いにも役人時代の真面目な仕事っぷりを知っていた人の一人が仕事を紹介してくれて、新しい仕事も覚えてようやくこれなら暮らしていけそうだと思った矢先のことだ。急いでいたからと普段通らない危険な裏路地に足を踏み入れたのは。


「そして、訳もわからず、石畳に沈んで終わりとか」


 本当に訳が解からない。いや、剣と魔法なファンタジー世界なのだ。地面を液状化させる魔法があっても驚きはしない。僕は剣も魔法も才能がなく、魔法に至っては習うだけでも膨大な学費を要求される故に全く縁もなかったのだが、前世の創作物を読み込んでいた身としては、あってもおかしくはないなとは思うのだ。


「チートも何もない転生じゃあな」


 超常現象や魔法に襲われたとき、人は無力だ。


「まったく――」


 人生は小説より奇なりと言うが、これが小説なら駄作以下だ。真面目に生きても報われず、最後の最後がわけもわからず地面の中に沈んで終わりだ。確かにファンタジーな世界ではあるが、冒険のさ中底なし沼に足を踏み入れたわけでもダンジョンを探索中罠に引っかかってしまったわけでもないというのに。


「現実に嫌なことの方が多いからこそ――」


 創作モノには幸運や成功が溢れていてほしい。胸糞が悪くなる展開も鬱展開も不要なんだ。そこに夢を投影するんだから。


「なんて、持論を述べたところで、何の意味もない」


 今の僕にこの場を脱す術はないのだ。


「ご主人様」


 どこからか、声がした。

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