第19話 初の任務

 私とリトハルとグラゼル神は、急いでRに向かって走っていった。


 案外人は揃っていなかった。


 間に合ったね。なんて言ったらグラゼル神が、一応遅れとるは!なんて言った。

 そんで数分待ったら、全員が揃ったらしい。


「新人が数名入った!初めてのパーティーでの、初陣だからね!頑張ってね!詳細はフレーワからで!」


 唐突な初陣発表。普通はもっと前から伝えられているものじゃなくて?

 その時の私は、恐ろしいほどの圧力に驚いた。


 オラゲーションに入ったのはいいんだけど、組んで直ぐに遠征とか。

 ちょっと頭おかしいんじゃないかな。

 まぁ、元から頭がおかしい人だとは思っていたけど。

 でも、私達からしたら初めてなだけで、他の人達からしたら別に普通のことなんだろう。


「あ、あと新人への自己紹介は後にしてくれよ!」


 笑い声がポツポツと聞こえてくる。


「静かに!!」


 グラゼル神が捌けた後、違う声が聞こえてくる。

 笑い声や話し声は、聞こえなくなった。


 私は前を向いた。すると、隣に座っていたリトハルが話しかけてきた。


「あの人、この世界で誰もたどり着けていない領域に辿り着いたヴァルナ=ミトラ魔道士だよ」


 囁くように言ってきた。

 その人はエルフのような耳をしていて、ローブに包まれている。そして、手には杖を持っている。

 よくあるパターンですね。杖を持っているものが、魔法を扱えるって。


「そうなんですね」

「あ、きたきた。あの人」


 リトハルが言った方にむくと、ある男が白いマントを羽織って出てきた。


「明日の遠征についてだが…」


 壇上に上がった男に皆の視線が集まっていることが、ハッキリとわかった。皆の顔が壇上に向いているからだ。


「あの人がフレーワだよ。凶悪なモンスターばかりが居るダンジョン迷宮に、名誉と地位を、富を得る為だけに行っているんだ」

「ほ、ほ~」


 自分では軽く流したつもり。

 ここのオラゲーション。無茶苦茶やばい人達の集まりじゃん。

 どんな人たちを相手にしてきてるんだよ、グラゼル神は。


「他人の命なんてお構い無しだ。日々死者を出しているダンジョンに、日々通い詰めてまだ誰もたどり着けていない62階層にまで行っちゃってるからね」


 62階層ってそんなに凄いのか?単独でか?そしたら凄いんだけど。

 日々通い詰めてるのも凄いけどね。


「なんでそんなに知ってるんですか?」


「第1に守って欲しいことは……」


 フレーワの話をスルーして、リトハルの話を聞く。


「幼馴染なんだ。以外でしょ。多分この中で一番仲がいいかな」


 やっぱりそんな感じだと思った。


「ここから遠いとーい、田舎で育ってね」

「へぇ~」


 そこまでは聞いていないがな。


「そこの新人!」

「…………」


 私を見ているのかわからなかったので、後ろを見た。

 その後ろの人も、後ろを見る。連鎖のようだ。


「銀髪の青い瞳の奴だ!今の所もう1回復唱してみろ」


 あ、私でしたか。リトハルを見るとニッコリと笑って、応援の笑みを向けてくれた。それが、さらにプレッシャーなんだが…。

 私は席を立つ。そして、フレーワのいる方向を向く。

 思い出す為に、目を閉じて深呼吸をしてから言う。


「はい。えぇ、第1に守って欲しいことは、互いを守り合うこと。です」

「………ふむ。聞いていたのか…」


 腕を組んでフレーワは、感心した様に頷く。隣に立っているヴァルナが、軽くため息を吐く。

 みんなの視線が私に向けられた。


 怖い…。


「新人の子ね。素晴らしいは」

「あのフレーワからのやつに、冷静に答えられるなんて」


 なんか称えられた。ありがとう。


「取り敢えず、だ!明日の6時には出発予定だ。5時半には正門前に整列して待っていろ!メンバーは、新人全員と……」


 フレーワが、いろんな人達の名前を呼んでいく。この編成はグラゼル神が決めたのだろうか。

 50人近くの人が呼ばれた。


「以上だ。では、解散!」


 リトハルが席を立ったので、私も席を立った。すると、リトハルはスタスタと行ってしまった。


 置いていかないでくれ!リトハル!


「ねぇねぇ!貴方、お名前は?」

「君、強いのかい?」

「ここに入ったってことは、強いってことだよね?」


 はわわわ~。


 いつの間にかいろんな人に囲まれていた。飛び交う言葉にどう反応したらいいのかあたふたしている。

 

「私!寝ます!なので、明日にして下さい!」


 一気に静かになった。そして、散っていった。


 はぁ。なんとか切り抜けられた。寝よ。疲れたは!さっきので。



*  *  *  *



「はぁー。おはよーございます」


 まだ、日が昇りきっていない時間。私は1人、廊下で風に当たっていた。

 起きて直ぐに、髪を整え口を濯ぎ、顔を洗った。

 そして、昨日の夜。グラゼル神から貰った、白の膝上の丈のワンピース。銀の胸当て、手甲。膝上の白のブーツに、青いマント。ブーツの外には、銀のすね当てが付けられていて、足先には鉄靴が施されている。そして細長い、レイピアを渡された。

 モチのロンだが、スコップも持っていく。

 ぎこちない感じがするが、なんとか着こなすことが出来た。


「うん。こんな感じなんだよね?」


 とか、呟きながら外に出た。まだ、誰とも会っていない。相当早い時間なのかな。

 

 はぁー。涼しいなぁ。


「おはよ。クルミは朝に強いのね」


 聞き覚えのある声に、私は身を整える。


 長い廊下で、螺旋状になっている廊下。カーブの所から、ハトリが出てきた。


「ハトリさん。おはよーございます」


「あら。似合ってるわよ」


 私はぺこりと頭を下げる。そして、ハトリを見ると西洋の甲冑を着て重そうな胸当て、腰当。目の部分だけが見えるように、ベンテールが上に挙げられている。


「ハトリも、なんかすごいです…」

「はは!見慣れないからかな?」


 私は激しく首を縦に振った。


「さて、朝日が昇ってきたことだし。そろそろ行こうか」

「はい!」


 外に出ると、50人近くの人が門の前で整列していた。

 そして、荷物持ちに新人が選ばれるらしいが、私にはその役目は回ってこなかった。

 逆に前線に出て戦ってね、位の雰囲気だった。


「お前はリトハルに勝ったんでしょ?」


 肌が茶色で、腰くらいまである黒髪の少女に言われた。


「勝ってはないですけど…」

「いや!勝っていなくても、リトハルと互角なんて凄いじゃない!」


 そうなんだ。なんでこの人たちは突っかかってくるのかな?


「そうなんですね」


 私は軽く流しておいた。


「軽く流さない!リトハルはフレーワでも、適わないんだから!この前も負けそうになってたし…ふっ」


 今度は違う、肌の色が茶色のショートカットの黒髪の少女に言われた。


 肌が茶色くなっている、顔が似ている少女2人に詰め寄られた。


「何の話だ!インディーナ!フウディーナ!お前らは配置につけ!」


 2人は顔をムスッとさせる。


「へーい」

「はーい。ケチめ……」


 2人は素っ気なく返事をして、去って行った。


「たく、そろそろだっつーのに」


 私は軽く頷いてから、フレーワから離れた。


 数分後には門を出て、街の道を歩き、ダンジョンというか、高いレンガの建物に見える。

 そして、抵抗もなく1階層、10階層、30階層、と登って行った。そこには、凶悪なモンスター。牛の顔に、人間のような体付きをしたミノタウロス。黒い双頭の犬で、尻尾は蛇のオルトロス等が立ちはだかったが、後ろの方にいた私は跡形もないところを見ているだけだった。

 倒したモンスターは、魔石となって消えるらしい。

 魔石すら見ていないからね。


「どんだけ、進むんだ?」

「まだまだ進むよ、今回は40階層までかな。30階層からは、強いモンスターばかり出てくるからね」


 リトハルの忠告を受けたので、後ろに気を付けながら進んだ。


「グリフォンだ!グリフォンの群れがこっちに向かってきています!」


 1人の男が叫ぶ。その役職は#探索者__サーチャー__#で、モンスターの気配を感じ取りその気配からモンスターの名前をはっきりさせることが出来るらしい。その名は、ミューリ=アクセジウム。


「フレーワ。我々だけで処理をしよう。私は詠唱をして引き付ける。その間に叩いてくれ」


 ヴァルナさんが、言った。


 仲間を少しは頼ればいいのに。能力がアンバランスになってしまったりは。しないですよねー。世界最強の魔法士が、アンバランスになったりしませんよねー。

 

──フロロロロロロォォーーー!


 震えるような声が聞こえてくる。新人のみんな、私を含めては足が震えたりしていた。


「う、嘘でしょ。もう戦うのかよ…荷物持ちで良かったかも……」


 カチン。

 私はじゃあ、どうなるのよ。どうなるのよ私はァ!巫山戯るなぁ!

 

 リトハルが、肩をぽんと叩いた。そして、落ち着いて、君には戦わせないからさ。

 と言うより、なんでリトハルは私たちと同じ後ろにいるんですかい?

 もしかして、教育係とか。


 そんなこと考えている暇はなかった。


 私の予想を遥か上を越していく。モンスターが………飛んでる!

 狭い洞窟の中で、飛び回るグリフォン。そのせいで、ダンジョンの壁が剥がれ落ちて危ない。

 ダンジョンと言っても、綺麗な壁ではない。室内のに、洞窟のような壁がある。


「ちょこまかと!」


 猫耳少女が、怒声を上げるとグリフォンが猫耳少女に向かって突っ込んできた。

 それを、読んで猫耳少女は避ける。と同時に、剣でグリフォンの目を横に切った。

 だが、目が見えなくなったグリフォンはに#探索者__サーチャー__#のミューリに突っ込んで行った。

 そして、ミューリは間一髪で急所は避けた。肩にグリフォンのくちばしが刺さった。


「がぁぁぁッ!くっ………」


 グリフォンは、刺さっているのを承知で暴れ回った。


 ミューリさんの叫び声は、後ろの私にまで聞こえていた。


「厄介にしおって!」


 フレーワが、縦に光線を表す程の速さで斬った。

 グリフォンは魔石となり、ミューリは自分で肩を押さえて倒れ込む。


「今治療する」


 ヴァルナさんが、冷静に治療に当たった。

 こんな、陣形が崩れることってあっていいのだろうか。

 ミューリさんの服を剥ぐと、明らかにひどい傷が見えた。


「ひどい……」

「#探索者__サーチャー__#は狙われやすいんだ。どうしても、魔力を分泌しながら探すから」


 魔力を分泌しながらってことは、魔力を狙ってモンスターは来るってことか。大変なんだな。


「にしてもさっきのは、酷い陣形の崩れようだったな」

「私も思います」


 もっと……


──仲間を頼ればいいのに──


 なんてね。そんなこと言ったら殺される。


「胡桃!何言ってるんだ……」


 リトハルが、焦るように話しかけてきた。

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