第13話

 街は賑やかで、私は感動させられた。

 疲れたとか、やるせない気持ちがあまりない。皆がみな、楽しそうに談笑している。こんな世界に、元から生きてみたかったものだ。

 憧れの世界ってやつ?

 あっちの世界を変えられることなら、こんな世界にしてみたかった。

 

 建物は、レンガ造りの建物が、等間隔で並んで建てられていて一番奥には王城が見えた。それに、街には屋台のようなものが沢山並んでいる。その一人一人が笑顔である。

そんな国を作っている国王はどんな人なんだろう。まぁ、会うことは無いだろうが。


 街に来たのには、理由がある。

 先に言っとくと、遊びに来たわけじゃないからね?

 (遊びたいのもあるけど)

 1つは、ステルスの家を把握しておきたかったこと。

 2つは、色々とこの世界についても知りたかったし、今後この街にお世話になるだろうから先に行っておきたかった。


 以上。


「ありがとね。うさぎさん」

「いえいえなの」


 あ、喋れたんだ。だったら喋っておけばよかったよ。

 声高くて可愛いわ。《クレル》とは違ってな!お礼にリンゴあげるよ。


「はい。リンゴ~」


私はリンゴを片手で差し出した。だが、うさぎさんは小さな両手で、そのリンゴを止めた。


「要らないなの。食料は大切に、ね?」


 はい。大切に致しますぅ。こんな可愛い兎に言われたら聞かない以外ないじゃないですか。


「じゃあねなの!」

「ばいばーい」


 はぁー。可愛かった。

 

 さてと、街をぶらぶら歩きますか。私はスコップを片手に街を歩くことにした。シルと共に歩いていく。

 活気に満ちた街なんだな。みんながみんな笑ってる。

地面には石が敷かれている。石畳ってやつなのだろうか。

 なんか人に見られている気がするけど、まぁ、気にせずに歩こう。


「いらっしゃーい……」

「?………」


私の顔があまり馴染んでいないだろうか、お店の人だけでなく通りすがりの人にまで何かを言われている気がする。


 屋台が並んでいる。いい匂いが漂ってくる。だが、その匂いには少しの不安が入り交じっている。


 すれ違う人が度々振り返ったり、2度見をしたりする。

 

 私の顔に何かついてますか?何も付いていなければ、普通は見ないよね。

 両手で顔を触っていると、腕を強く引っ張られた。

 シルが人混みに飲まれて消えてしまった。


「キャッ」


 路地に連れ込まれた。見知らぬ男に抱きつかれていた。


「お嬢ちゃん、可愛ーね。売ったら高そうだ」


 売る!?馬鹿じゃないの!?やだよ、売られるなんて。てか、何も私に取り柄なんてないし。

 それに、シルともはぐれてしまったじゃないか。どうしてくれるんだよ!


「離して下さい!だ、だれか………!!」


 叫ぼうとする私の口を、無理やり塞いできた。その手は慣れた手つきで、私は流されるままであった。


 痛っ………。


 唇が切れたのかな。


そして、男は大人しくなった私を路地の壁に押さえつけた。


「銀髪なんて珍しいなぁ。伸ばさせようか」

「………………」


 男はいやらしい目で見てくる。これから売るんちゃうんかい!上から下までしっかりと見たあとに、そいつの唇を舌でペロッと舐めた。

 

──ガガっ


 スコップが地面をスった。いや、勝手に動いただけだから。そいつの行動に驚いたわけじゃないから。

 お陰でスコップを手に持っているのを気づかれた。と言うより、今まで気づかなかったのもすごい。

 スコップを手から外されたので、抵抗する気など微塵も湧いてこなくなった。

 はぁ。だれかー。助けてくれよー。

 冷静を装っているが、もう保てそうにない。泣きそう。いや、だったらブラックな会社の時に泣いているのかもしれない。心の中でだけど。


「趣味が悪いなぁ。懲りない奴らだ」


 聞き覚えのない声だ。逆に知ってる声だったら怖いよ。声を聞いただけじゃ、私は喜べない。助けじゃないに決まっている。どうせこの男の仲間なんだろ?

 声のした方を涙目で見ると、三階建ての建物からマントがバサバサと風がなびいていた。そして、逆光で黒い影になっていてよくわからない。

 

「お前!昨日のやつか!」


え、あんなに暗いのによく分かるね。顔見知りってことは悪い人なんだね。理解。


「あぁ。昨日のやつだよ、不都合でも?」


 フワッ───


 三階建ての建物から、飛び降りてきた。その時に見えたのは、腰に付いている剣と綺麗に整えられている服。貴族みたいだった。青と金が良く映る鞘である。


「悪いけど。これは見過ごせないかなぁ」


 そのマントの男は、腰についている剣を抜いた。私を捕らえている男も私を後ろに突き飛ばして、剣を執る。


やっと、解放されたぁ。でも、喋ったら殺されそうだから静かに見ておこう。


「昨日は見過ごしてくれた王子様が、今更何を!」

「今回はちたァ状況が違うんでね」


 マントの男が足に力を込める。私をひっきりなしに見ていた男は、その圧に一歩引いた。


「怯えるだけじゃ、つまらんぞ!」


昼間の平和な時間で暖かい。ここだけ空気が寒くて冷たく、昼だとは思えないほど暗い。

二人は同じような剣を手にしている。そいつは高揚していて、息が荒く今にを誰かを殺してしまいそうな目をしている。それに対してマントの男は冷静沈着で、しっかりとそいつを捉えている。

私はその光景に息を飲んだ。


そして動き出すマントの男。


互いに剣を持ち、走りながら近づいていく。


──ビュッ


 マントの男の剣が、そいつの胸に刺さる。男は、悔しそうな顔をして倒れた。


マントの男はそいつに向かって突きで斬りかかった。


「こんな連中がいるから面倒なんだ」


 私は呆然と立っていた。私は助かったのだろうか。お礼を言わなきゃいけないのに。声が出ない。


「……あっ………りがとぅ……ござぃ……っましたっ……」

「いえいえ、それより大丈夫か?ん、唇が切れてる」


 マントの男は私の顔に手を伸ばして、唇をなぞった。ついでに、涙を親指で拭いてくれた。


「うぅ……」


 つい、安心してしまった故に腰が抜けた。それと同時に、一人の男がこちらに来た。


「殿下!何をしてるんですか」

「別に、何もしてないが」


 私はマントで隠された。涙を拭かねば、と腕で目を擦った。


「何を隠しているんだ?見せろ!」

「嫌だね。これは見世物じゃぁないんだから」


 見世物?私を捉えた男は、私を見物品として売ろうとしてたのかな。

 なんかもっと泣けてきた。さっき涙を拭いたばかりだったのに、また涙がこみ上げてきた。


───バサッ


「……………」

「あらら、寝ちゃった」


「まさか、連れてくんですか」

「そのまさかですよ」



*  *  *  *  



 私は今、大変な場所にいます。こんな所にいていいのでしょうか。


「お目覚めですか……お」

「は、はい……お目覚めです。寝起きは悪いですけど……」


 マントの男とは違う人だった。その男の表情は、あまり乗り気ではない表情だった。


「ふはは!これは面白い」


 何がだよ。何が面白いんですか。てかこの人、さわやかスマイルだな。

 ここはどこですか。王城っぽいんですけど。


「この街にはいない人だな。お前は」

「?」


 ここの街には初めてですしね。来たのは。


「誰か探しに来たとか?」


 私は縦に首を振って、あらかたの事情を話した。

 さわやかスマイルの男は、頷きながら聞いてくれた。優しい人なんだな。


「誰を探しているんだ?」

「ステルスです」


 ふと男の表情が、固まる。ステルスってどんな立場なんだろうか。


「案内しよう。立てるか?」

「あ、ありがとうございます」


 差し伸べられた手を取って、ベッドから立ち上がる。ちょっと立ちくらみみたいなのがあるけど大丈夫です。


「では、案内しますね」



*  *  *  *



 王城から出るのに数分かかった。どんだけ広いんだよ。

 王城を眺めていると、隣に立って一緒に歩いているいたオダ=ミューラスさんが話してくれた。殿下の側近さんらしく、先程殿下と二人でいた時に駆けつけてくれたらしい。なんか微かに覚えているような、覚えていないような。


「この王城広いでしょ?」

「はい、とっても。初めて見るので」


 私は後ろ歩きで王城を眺めている。数百メートル離れても、手で枠を作ってもはみ出してしまう。本当にどれだけでかいんだよ。

 いいなぁ。王子とかの人は。その王子に守られたんだけどね。みんなの憧れなんじゃないのかな。

 私と同じ銀髪の王子で、瞳の色はグリーンだった。


「初めてなんだね。どこで育ったの?」


 あ、設定とかわからんなぁ。考えとけばよかった。


「あ、えーと…」

「あ、無理には言わなくても……」


 気を使ってくださってありがとうございます。言いたくないとかじゃないんですけどね。

 ただ、どんな設定にしようか迷っているだけですので。


「今は森に住んでます」

「も、森ぃ!?」


 そんなに驚くことですか?楽しいことばかりですけど。

 周りの人の視線が一気に集まった。まぁ、王子の側近ならこんな人目も慣れているんだろうけど。


「参ったなぁ。森は危険なんだが」


 オダさんは苦笑いをして頭をかく。


「そ…うなんですね…」


 オダさんの袖を軽く引っぱって後ろに隠れた。

 恥ずかしいよ。こんなに多くの人の視線を集めて、こんな平気でいられるなんて。


「平気なんですか」

「んー慣れるまでは時間がかかりましたけどね」


 恥ず!え、無茶苦茶恥ずいじゃんか。人目を集めるなんて何年ぶりだろうか。会社でもそんなことは無かったし。ひぇーーー。


「着きましたよ」

「あ、ありがとうございます」


 そこは町外れにある所だった。レンガ造りで横に伸びている。西洋風な感じの建物である。


「居るかな…」

「いると思うよ。あの人は昼は余程の事がないと出てかないから」


 なんで知っているんだろう。引退したんじゃないのかな?よくわかんないや。


「なんか色んなことまで、ありがとうございました」

「いやいや、うちの主人が勝手に連れてきたんだから、巻き込んだのはこっちだよ」

 

 それに巻き込まれて、ちょっと楽しんでました。

 私はお辞儀をしてオダさんを見送る。オダさんの着ている外套が明るい色メインでそれがまた似合う。

 その背中は、側近らしく凛々しかった。かっこいい。ああゆう人がモテるんだよね~。紳士的な感じの人でさ。


「ステルスさーん。いらっしゃいますか~」


 しばらくしてから扉が開いた。

 そこにはシルの姿もあった。


「シル!!ここにもう来てたの!?偉いね」

「遅かったね。オダに送ってもらったのか」


 見てたなら出て来てくださいよ!って言いかけたけど飲み込んだ。


「とりあえず、今日は遅い。奥の部屋にベッドがあるから、そこで今日は寝ろ」

「ありがとうございます」


 私は、シャワーを借りてステルスが家を空けるので見送り、部屋のベッドに横になっていた。

 リンゴがカバンから顔を出していた。明日の朝に食べよう。どうせ追い出されるんだから。

 そんなことを考えていたら、いつの間にかに寝ていた。

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