第29話 元引きこもりは脱引きこもりを果たす

 私、三雲茉莉みくもまつりが宝物庫(仮)に引きこもって重力魔法を習得しようと試行錯誤を繰り返し、5日が経過した。

 そしてついに、私は、誰の力も借りず(本は読みました)、重力魔法の習得に成功した。

 三日目には習得できたいたのだが、もっと上手くコントロールできるまで引きこもっていたのだが、2日かけて、


 これからわたしは、この宝物庫の魔法石、鉱石、書物、その他いろいろなものを運び出す作業に移る。


 左手が無いというのは想像以上に不便なもので、本が閉じてしまわないように抑えるのにも苦労していた。

 ――が、重力魔法を習得したおかげでその必要はなくなり、魔法以外のことならば、殆どのことが重力を操って行うことができた。

 重力魔法は習得がかなり難しいらしいが、私のやる気と才能のおかげで習得できたんだろう。きっとそうだ、そうに違いない。そうであってほしい。……うん。 

 私は重力を操り、宝物庫に置いてある物全てを部屋の外に運び出す。

 

「『重力操作』」


 短く唱える。詠唱や技名を唱える必要は無いんだけど、私は魔法のイメージをより明確にするために唱えてるんだ。


 私の魔力を受け、物がどんどん浮いていく。

 ちなみに夕焼けは構えていない。今の私は重力魔法を完全に習得しているため、指一本で重力に干渉できるほどの力を得た。別に構えてもいいんだけどね、結局持つんだし。

  

 私は夕焼けを持ち、部屋を出る。もちろん先程浮かせたものを運んでいきながら。

 部屋を出た私は5分ほど歩いてモントたちのところへと向かった。


 歩いている時、左腕が無いせいで何度も転けそうになったが、こけなくてよかったよ。

 ほんとに不便でならない。今度自分で義手でも作ってみようかな……。

 私は心のメモに『義手作成』とメモっておく。

 モントは智慧之杖ウィズダムで魔力を操っているようだ。もう十分だと私は思うんだけどなぁ……。

 そう聞くとモントは決まって、


「腕が鈍ってしまいますから」


 と答えるのだ。モントに鈍る腕なんてあるのかな……?

  

「モント、ほら!」


 私はモントの名前を呼び、浮かせたまま運んできたものをモントに見せる。

 モントは一瞬キョトンとし、驚いたような表情を浮かべ、


「いや、驚きました……茉莉、あなたはたったの5日間で重力魔法を習得したんですね……」


 おいおいモントさんや、まるで5日間じゃ重力魔法は習得できないはず、って言ってるようなんですけど気の所為ですかねぇ。

 

「どうやってそんな短い期間で……このわたしでも半年はかかったと言うのにっ......」


 モントでも半年って……。

 モントが何か気づいたようだ。目をぱちぱちさせている。


「おや? 茉莉、その本って……」


 そう言ってモントが指差したのは私が重力魔法を習得するために何度も読んだ本。

 これがどうかしたのだろうか。


「茉莉、ちょっとその本を見せてくれませんか……?」


「――? 別にいいけど……?」


 そう言って私はモントに向けて本を送る。

 モントはその本の表紙をみて、パラパラとめくり、そしてまた表紙をみた。

 そしてこう言った。


「これ、わたしが書いたやつですね」


 ――えっ?

 時間が止まった気がした。何ならもうずっと止まってくれとさえ思った。

 深い意味はありません。


「どういう――」


「わたしが重力魔法を習得したときに書いた本です。百年ほど前でしょうか……。こんなところにも置いてあるとは驚きました……。それにしても、何故わたしのところには印税が入ってこないのでしょうか……」


 ――おいおいおいおい。何がどうなってるんだってばよ。


 つまりこの本はモントが書いたやつだったってことかい? 

 世界が狭いのかモントが凄いのかわかんないねこれ。

 ――いやどっちもかな?

 人間族は人口も少ないってモントが言ってたし、モントってなんかいろんな力隠してるし……。


 「じゃあ……モントに重呂k魔法の効率的あやり方を聞いてたら、こんなにかからなかったってこと――?」


 私は地面に崩れ落ちた。


 ――なんて回り道をしてしまったんだ……。


 後悔先人立たず、後の祭り。

 そんな言葉が浮かんでくるが、未だに使い方はわからない。


「そうでもありませんよ、茉莉」


 モントが私を励ますように言う。


「普通に試行錯誤を繰り返すだけでは時間が足りないんです」


 んん?


「茉莉の凄まじい集中力が今のこの結果なんですよ」


 なるほど、茉莉ちゃんわかったよ。

 つまり私のユニークスキルが有能だった、と。

 でもまぁいっか。この結果を大事にすればいい。


 ――あ。


 そして思い出した。本当の目的を。

 私はこの荷物をモントに空間魔法で収納してもらうために重力魔法を習得したのだ。さっさと収納してもらって迷宮から出よう。


「モント、この鉱石とか宝石とか書物、全部収納できない?」


 私はモントに聞いた。モントは少し考えるような仕草を見せたがすぐに、


「大丈夫ですよ、しっかり収納できます」


 と答えてくれた。

 そしてモントが魔法を唱えた。


「空間収納」


 すごく単純な魔法。でも発動は難しい。重力魔法なんか比べ物にならないそうだ。

 モントが唱え終わると同時に私の背後で浮いていた鉱石や宝石や書物は、淡い柔らかな光とともに、モントに吸い込まれるようにして消えていった。

 いつかこの魔法も使えるようになるのかな……? 

 

 「ありがとう、外に行こうか。雪姫たちは?」


 私はお礼を言ってモントに尋ねた。


「先程茉莉を見に行ったのでもう戻ってくると思いますが……」


 モントはそう答えた。

 その言葉が終わると同時に――


「茉莉ーー!! 何してたのー!」


 雪姫が来た。遅れて胡桃ちゃんもやってくる。

 噂をすればなんとやら、だね。 


「雪姫、胡桃ちゃん久しぶりー!」


 思わず私は雪姫と胡桃ちゃんに抱きつく。

 機械人形とは思えないこのぬくもり。控えめに言って最高。ずっとこのままでもいいかな……。


「私が引きこもってる間ご飯作ってくれてありがとう、美味しかったよ〜」


 雪姫と胡桃ちゃんの顔が驚きに変わる。


「なんでわかったのか気になってる? だって、雪姫たちはモントよりも少し味が濃いんだよね。私はどっちも好きなんだけどね」


「……茉莉、凄い、正解」


 胡桃ちゃんが私に言う。雪姫も隣で頷いている。

 思わずドヤ顔になる私。

 ……私、いま気持ち悪い顔してないかな……。

 なんて考えが頭によぎったが気にしないことにした。考えても仕方ない。


「じゃあ外に出ようか」


 私は雪姫と胡桃ちゃんから離れてそう言った。

 もうちょっとくっついていたかった。


「うんっ! 茉莉、魔法陣はこっちだよ」


 そう言って雪姫は歩き出す。

 私達も雪姫に続く。


 20分ほど歩いた頃だろうか、光が視えた。

 転移魔法陣だ。過去に2回みているため、しっかりと記憶に残っている。

 

 私は魔法陣に乗った。モント達も私に続いて魔法陣に乗る。

 数秒すると、魔法陣が強く輝き出した。

 

 次の瞬間、私の視界を、真っ白な光が埋め尽くした。真っ白な光って光っていうのかな。でもそうとしか表現できなかったんだよね。


 長い迷宮生活が終わる。

 なぜだか名残惜しく感じられた。

 嬉しいはずなのに涙が出る。

 いや違う、嬉しいから涙が出たんだろう。人間ってよくわからない。

 と、人間の私は思った。


 視界が回復してきた。

 徐々に世界が視えてくる。周囲の明るさからして夜だということはなんとなくだがわかった。しかも寒い。

 

 そして完全に視界が回復した。

 私達が出てきたは平原だった。砂漠のようなところだった。だから寒かったんですね。


 でも外だった。

 

 ――さようなら迷宮、こんにちは外の世界!!


 こうして私たちは、迷宮から出ることができた。


 引きこもりの私はもう居ない。あの狭い部屋にはゲームなどなかった。

 ネトゲができない空間に引き篭もる意味など無い。本は別。

 つまり、私は脱、引きこもりに成功したというわけだ。

 これでようやくまともな女子の仲間入りだね、やったね。 

 

 お父さん、おかあさん、みてくれていますか。

 私、引きこもりじゃなくなったよ。普通の女の子になれそうだよ。

 なんとかして帰るので、そのときは優しく迎えてください。

 お願いします。


 

 私は日本で平和に暮らしているであろう両親に向けて思いを送った。


 ――しっかりと伝わってくれますように。

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