第26話 元引きこもりは迷宮を攻略する④

 私は無い左腕の痛みをこらえながらゆっくり立ち上がり、わたしの左腕を落とした空間喰いへと歩き出す。

 前方では雪姫と胡桃ちゃんが戦っている。


 私はつい先程、空間喰いの発生させた謎の光によって、左腕を肩から失った。


 危険予知があっても、身体能力は強化されない。しょうがない。警戒してなかった私が悪い。


 でも許せない。

 

 私は反撃に出る。


【心眼】によって、空間喰いのしんぞうはしっかりと見える。


 モントが私のために一度だけなら援護してくれるそうだ。


 一度だけ。


 私はそれで終わらせる。


「モント、お願い」


 私はモントにそう伝える。


「わかりました」


 モントが返事を返す。


「雪姫、胡桃、茉莉が合図を送ったらそこを離れてください!」


 モントが雪姫と胡桃ちゃんにそう言った。……私が合図を出すのね。


「ありがとう」


「わたしが空間喰いの気を引いておきます。その間に茉莉は詠唱をお願いします。ある程度時間を稼いだら、わたしは茉莉に魔力を送ります」


 モントが私に言う。


「空間隔絶魔法」


 モントの声が響く。


 それと同時に、空間喰いの身体をモントの魔法が球体で覆う。恐らく、空間喰いの周囲と空間喰いを、他空間へと転移させたのだろう。


「――真実の精霊、断罪の精霊よ、我が敵を裁く大いなる力を与えよ――」


 モントが魔法を唱える。


「絶葬之鎌」 


 唱えると同時にモントの手に鎌が発生する。


 死神が持っていてもおかしくないような鎌だ。


 モントは鎌を握ると同時に、智慧之杖を空間に収め、走り出す。そして、魔法をもう一つ唱える。


「――真実の精霊、断罪の精霊よ、汝に命ず、我が意思に大いなる力を、我が身に大いなる力を与えよ――」


「霊装!」


 唱え終えると同時にモントの身体が闇に紛れる。モントの身体が一瞬にして消え去った。


 ――モント、魔力残ってんじゃん……。


 どうやら私はすこし余裕が出たようだ。


 そしてモントの姿が突然現れる。


 私は驚いて、夕焼けを落としそうになった。


 モントは死神になっていた。いや、死神の力を身に纏っていたと言うべきか。モントは、死覇装しはくしょうなる、死神の服を着ていた。


 そしてモントは空間喰いの元へ転移すると同時に、鎌で攻撃を行った。


 そこで私は更に驚く。


 なんと、モントが攻撃した部分が、みるみる石化を始めたのだ。石化することで可視化できるようにしたのかな。


モントは休むことなく空間喰いに攻撃を与え、ダメージを稼ぎ、空間喰いの気を引いている。


時々光がモントに伸び、モントはそれを、ギリギリながらも回避する。


 ……気のせいだと思いたいが、わたしの魔力が少し減少したような気がした。使うのはいいけど使いすぎないでほしい。


「飛行!」


私は飛行能力で空へと飛び上がる。左腕が無いため、安定しない。コントロールが難しい。


 モントが攻撃するたびに魔力がモントへと集まっていく。


 やがてモントの身体が元に戻り始めた。それと同時に集めた魔力も放出され始め、空間喰いの石化も解け始める。


「ナイスだよ、モント」


 ちょっと短かったけど、相手は麻痺状態だと思う。核がほとんど鼓動してないし。


「雪姫、胡桃ちゃん、行くよ!」


 雪姫と胡桃ちゃんが私の声を聞いて横に飛ぶ。


 モントが私に集めた魔力を送る。


 そして私は詠唱を始める。



「闇の精霊、炎の精霊、破壊の精霊よ、我が魔力を糧として、全てを焼き払い、全てを破壊へといざなう力をここにもたらし、聖なるほのおって敵を殲滅せんめつし、全てを無にし、闇へと葬り去る力を与え、我が敵を撃ち抜け――!!」


 私はどんどん魔力を集める。


 雪姫たちが呼吸できなくなる。


 やがて空間喰いもできなくなるだろう。


 空気からも魔力を吸い上げるため、私も呼吸できないだろう。


 ――でも、そんなこと知ったもんか。


 雪姫達には悪いけど、耐えてくれるって信じてる。


 ギリギリまで私は魔力を練る。


そして【智慧者】で思考を加速させ、【心眼】で弱点を何度も確かめる。


――今だ。


――おい、天災級のドラゴンもどき。これでも喰らって倒れとけ。一生起き上がるな。


「闇・聖混合魔法! 『爆炎・弐式』!!」


私は叫ぶ。


お腹の底から押し出すように。


左腕に激痛が走る。


――しつこいよ。


怒り、憎しみ、復讐心、etc……


あらゆる負の感情を魔法に乗せ、爆炎を放つ。


中級魔法、爆炎・弐式。

 

本来は無属性の爆発系魔法だが、そこに闇、聖の属性を織り交ぜることにより、半端な抵抗レジストを許さない攻撃魔法。


闇属性と聖属性、矛盾してるって思った?


意外とそうでもないんだよね。

正反対にあるから魔力親和性が高いんだよね(ってモントが言ってた)。


私の魔法が空間喰いのしんぞうめがけて、一直線に突き進む。


私はなるべくゆっくりと、無い左腕が痛まないように地面に降り立つ。


そして魔法が命中した。


空間喰いのしんぞうに寸分狂わず命中した。


――心眼、ナイスだよ。


私はユニークスキルに言葉を送る、


空間喰いの核から皮肉なほどに綺麗な血が飛び散る。


その血が飛び散ったのは一瞬、まばたきをするよりも短い時間だった。


そして空間喰いの核を中心に、私の放った爆炎が爆発する。


その途端――。


空間喰いを覆っていた、モントの空間隔絶魔法が、爆発を球体の中に留める。


――中に入ったらヤバそう。


他人事のように私は考える。

空間喰いの近くでは、雪姫と胡桃ちゃんが、呼吸できずに意識を失っている。

その二人をモントが助けに行っている。

モントは呼吸――要らないんだっけ。


20分後。

爆発がやっと収まった。

私は空間喰いのしんぞうを見る。


――残っている。


が。


動いては居ない。


「茉莉、お疲れ様です」


いつの間にか隣に着ていたモントが私に声をかける。重力魔法で、雪姫と胡桃ちゃんを浮遊させている。


「ありがとう、モントもお疲れ様」











気がつくと、私達4人は、小さな部屋の中にいた。


隣にはモント、雪姫、胡桃ちゃんが居る。


誰一人欠けていない。


無いのは私の左腕。


「茉莉、クリアしたんだよ! なんでそんな顔してるの?」


雪姫が私にそう言った。

私、そんなひどい顔してたかなぁ……。


雪姫の顔をみて私はあることを思い出した。


――迷宮から出たら何するか決めてなかった――!!


でもまぁ、雪姫は一緒に考えたいって言ってた気がするしいいのかな……?

あぁ……クリアできたんだなぁ……。


「私……やったんだね……。ほんとうに……」


思わず涙がこぼれ落ちる。


かなり大粒だ。


胡桃ちゃんがわたしの涙を拭ってくれる。


「茉莉、魔法陣があります。転移で外に出られるかもしれませんがどうしましょう」


――まだここにいたい。


理由はない。

なんとなく、本当になんとなくそう思った。


「まだここにいさせて」


私はモントに伝えた。




私、三雲茉莉みくもまつりはこうして、迷宮ダンジョン攻略クリアした。



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 三雲茉莉みくもまつり 人間族


 ユニークスキル:【智慧者ちえしゃ】【忍耐力にんたいりょく】【持続力じぞくりょく】【孤独者こどくしゃ】【炎熱操作えんねつそうさ】【魔力感知まりょくかんち】【並列演算へいれつえんざん】【精霊せいれい使い】【契約者けいやくしゃ】【罠解除トラップキャンセル】【危険予知きけんよち】【殲滅者せんめつしゃ】【心眼】

 

 ノーマルスキル:【錬成れんせい】【鍛冶師かじし


 固有こゆうスキル:【飛行ひこう】【豪腕ごうわん(怪力かいりき)】【自己再生じこさいせい】【突進とっしん


 魔法まほう:(初級)【爆炎ばくえん・一式】【炎魔法フレイム】(中級)【聖属性せいぞくせい爆炎ばくえん・一式】【中級精霊召喚ちゅうきゅうせいれいしょうかんじゅつ】【炎弾えんだん・一式】【聖属性・爆炎・弐式】【豪雪暴風】【雷風滅破】


 夕焼け(杖):【士気高揚しきこうよう】【魔力操作まりょくそうさ



 モント   中級精霊ちゅうきゅうせいれい


 固有こゆうスキル:【魔力結界】


 魔法まほう》:【爆炎】全種 【霊装れいそう】【空間隔絶結界くうかんかくぜつけっかい】【魔法攻撃暴食結界まほうこうげきぼうしょくけっかい】【空間魔法】【重力魔法】


 智慧之杖ウィズダム:【魔素操作】【絶葬之鎌】


 雪姫ゆき     機械人形ゴーレム


 固有こゆうスキル:【魔力結界まりょくけっかい】【自己再生じこさいせい】【熱変動耐性付与ねつへんどうたいせいふよ】【身体装甲】【熱吸収】【身体強化しんたいきょうか


 闇夜:【魔法攻撃】


 胡桃くるみ   機械人形ゴーレム


 固有こゆうスキル:【魔力結界まりょくけっかい】【自己再生じこさいせい】【隠密おんみつ】【身体装甲】【熱吸収】【身体強化しんたいきょうか



 紫陽花あじさい(大剣):【機械殲滅ゴーレムキラー】【魔人殲滅まじんキラー】【略奪者りゃくだつしゃ】【蚯蚓殲滅ワームキラー



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