第24話 元引きこもりは迷宮を攻略する②

 ――て! 


 うるさいなぁ


 ――起きてってば!


 雪姫……の、声? 朝から騒がしいなぁ……。今日は作戦会議と決戦に向けての特訓じゃなかったの? 私はまだ寝てるからね!


 ……それにしてもなんだか暑いなぁ。なんかこう、身体が焼けるような……。


 ――焼ける!?


 私は飛び起きた。

 私は身体が焼けちゃうような場所で寝ていないはずだ。


「茉莉、急いで! 逃げるよ、空間喰いが出たんだ!」


 雪姫が慌てた様子で私に言う。


 ……確かに、少しだけ空間が歪んでいる。

 モントの方を見ると、モントは、昨日も使っていた結界で、空間を元に戻している。

 それで少ししか歪んでなかったのかな。さすがモント、ナイスだよ。


「雪姫、茉莉は起きましたか!?」


 モントが大声で雪姫に聞く。

 雪姫は、


「起きた―!!」


 とこちらも大声で返している。

 なんで私にだけ見えないの。ドラゴン(もどき)みてみたいのになぁ……。


 私は急いでリュックを背負うと、先に逃げ始めていた胡桃ちゃんの背中を追って、無我夢中で走った。





「――ふう、危なかった〜〜」


 なんとか空間喰いから逃げ切った私達は、地面に横になった。


「空間喰いが、はぁ、追いかけてこなくて、はぁ、よかった……」


 胡桃ちゃんが安心したように言った。私もそう思うよ。

 モント曰く、空間喰いは本物の竜より少し低い速度で飛翔できるらしく、とても厄介な相手らしい。ちなみに、人間族はまだ討伐報告が無いらしい。


 そんなやつ二度も逃げられたのはモントが気を引いててくれたおかげだよね。


「危なかったですね、茉莉」


 モントが戻ってきた。もう目が覚めちゃったよ。

 わたしの体内時計は4時を指している。わたしの体内時計こんな時でも仕事してるの偉い。


「もう目も覚めちゃったし、このまま作戦会議しない?」


「雪姫も寝れなさそうだしやろう!」「……賛成」


「いいですね、じゃあそうしましょうか」





「茉莉、空間喰いの特徴は知っていますね?」


「うん、見ることはできなかったけど、ドラゴンみたいって聞いてるよ」


「大丈夫です。空間喰いは人間には目視できないのです」


 なるほど、それで見えなかったのか……。――え? 見えない……? この世界の竜を見ておきたかった。


 私は気を落とす。


「故に、人間に『天災』などと怖れられているのです」


 見えない何かがいきなり空間食べちゃったらそりゃ誰だって驚きますよ。


「兎に角、見えないことには、茉莉は攻撃できません。そこで、茉莉には、【士気高揚】で、わたし達にバフをかけてもらいます」


 バフて……いやまあそのとおりなんだけど。


「そして、わたしが魔法攻撃、胡桃が『紫陽花あじさい』で近距離攻撃をお願いします」


 隠密の使用を忘れないように。モントはそう胡桃ちゃんに言った。

 雪姫することなくない……?


「雪姫についてですが……茉莉」


 モントが私の名前を呼ぶ。


「雪姫の、剣を作っていただけませんか?」


 まあそうなるよね、攻撃手段がないし。


「いいよ、任せて」


 雪姫の顔が明るくなる。


「茉莉は、士気高揚をわたしたちに発動したあとは、【罠解除わなかいじょ】や【危険予知きけんよち】でのサポートや、【智慧者ちえしゃ】や【魔力感知まりょくかんち】で状況の確認、安全の確保をお願いします。そして、【忍耐力】と【持続力】で、茉莉自身の防御を上げておくことも忘れないように」


 つまり、私には今回出番が無いってことだね。

 遠回しに、危ないから下がってて、って言われているような気もするが、気のせいだと思う。思いたい。

 ていうかモント、しれっと私のスキル覚えてるの凄いよね。

 忘れちゃった人のために説明するよ。


 まずは罠解除。これはそのままの意味だよ。罠に手のひらで触れるか、魔力を流し込めば、設置されている罠を解除できる。


 次に危険予知。これもそのままの意味だよ。これは、自分の身。もしくは大切な人に危険が迫ったときに勝手に発動してくれるスキル。発動すると、少し先の未来が見え、対処できるようになる。といっても早く動けるようになるわけではないんだけれど……。


 次に忍耐力。これ忘れている人多そうだよね。私は普段から使ってるんだけどなぁ……。

 これは、使用者の思考に干渉できないようにするスキルなんだ。精神魔法や闇魔法に耐性がつくようなイメージだよ。

【智慧者】と組めば誰にも干渉かんしょうされずに物事を考えられるってことだよ。


 そして持続力。これは使用者の集中力、魔力抵抗値を一時的に高めてくれるスキルだ。弱そうなスキルだが、人間の身体というものは脆いもので、初級魔法の【炎魔法フレイム】でさえも致命傷になりかねないのだ。

 一時的に魔力抵抗値が高まるが、何分かすると、効果がキレてしまうので、何度か使用しないといけないだと思うが、わたしの魔力保有量はモント並みにあるらしいので安心しきってもいいだろう。


 他にも固有スキル、【飛行】【自己再生】【豪腕(怪力)】があるが、これらも使えると戦術の幅も広まりそうだ。以前蚯蚓と鬼ごっこをしたときは飛行が役に立たずに困ってしまったので、練習しておこう。



 ――とまあこんな感じだ。スキルだけを見ると、私も強くなったもんだと思う。心の強さも少しは変わったかもしれない。雪姫と胡桃ちゃんも、戦闘時に『紫陽花』を振り回しまくっていたおかげか、【略奪者りゃくだつしゃ】で固有スキルを奪いまくっているはずなので、活躍を期待できそうだ。


 ――さて、雪姫の剣を作ろう。


「雪姫、剣のことなんだけどさ、『こんな形がいい』とか『こんな色がいい』『こんな大きさがいい』みたいな注文はないかな。なければ私の方で作っちゃうけど」


「私が決めていいの? じゃあね――」


 雪姫は理想の形、色、大きさを私に伝えた。


 色は黒、結構重めに作って、とのこと。

 形と大きさは、紫陽花と同じものがいい。と言っていた。紫陽花を振り慣れてるからだろうなぁ……。あれわたしのなんだけど……。まぁいつか私のも作ればいいか。


 つまり紫陽花の色違いを作って。って言うことかな。紫陽花も結構重かったしこれだと紫陽花の劣化版じゃん。ユニークスキルを付与エンチャントできないし。この前手に入れた【蚯蚓殲滅ワームキラー】は紫陽花に付与エンチャントする予定だし。

 まぁ雪姫のことだし使いこなしてくれるでしょ。


 材料とにらめっこすること約10分。私は錬成で剣の刃を作っていく。そして柄もあとから作成した。刃の内側に重い石を詰め込んで、柄にも少量の魔法石を詰め込んだ。魔法石に魔力を流し込めば、ある程度の属性攻撃ができるはずだ。属性攻撃とは、魔法の物理攻撃バージョンで、威力は低いが精霊に力を借りずとも、炎属性や氷属性、雷属性の攻撃ができるようになる。雪姫は破壊の精霊が憑依しているため、破壊の能力はずば抜けて高かった。

 ちなみに魔法石は、モントがよく見つけて拾っているものを少し分けてもらった。


 そして、雪姫の剣が完成した。重量は紫陽花の約二倍、大きさと形はほとんど同じ。

 紫陽花と違うところは、ユニークスキルが使えるか使えないか、属性攻撃が行えるか否か。

 まぁほぼ同じだね。うん。


「雪姫、できたよ!」


 雪姫に声をかける。雪姫が驚いたように剣を見る。


「もうできたの!?」


 思わず私はドヤ顔になる。


「凄いなぁ……刀身も綺麗だし、結構重量があって最高! あ! 魔法石もはめ込んである! 名前は? 名前は何ていうの?」


「雪姫に決めてもらおうと思って決めてないんだよね〜」


「私が考えていいの?」 


「もちろん。だって雪姫の剣だよ? 自分で考えたほうが愛着と乾くんじゃないかな、って」


「ありがとう茉莉! 名前決めたよ!」


 ……え? もう? 早くない?


「この剣の名前は『闇夜』。この漆黒にあうような戦い方をしたいからこの名前にしたんだ」


 かっこいいなぁ……それに比べてわたしのは……はぁ。まぁいいや、気に入ってくれそうだし。


 さーて、剣もできたし特訓しようかね。


 私は水晶を取り出し、魔力を練った。まだこの水晶使ってるんだよね。魔力の流れがいいから。十分に魔力はあるんだけどなんだか不安でね……。


「茉莉」


 モントが私を呼んだ。なんだろう。


「空間喰いとの対決なんですが」


「ああ、それがどうしたの?」


「茉莉はやっぱり魔法で攻撃してほしいんです。あの大きさの空間喰いとなると、バフをかけている余裕なんて無いと思えてきて不安なのです」


 なんだ、そんなことか。


「オッケーだよ。ガンガン魔法ぶっ放しちゃうからねっ!」


 そう言って私はモントに笑顔を向けた。


 その後、魔力の枯渇再生ループで魔力を増やしたり、雪姫に魔法石の使い方を教えたりしながら時間を使った。そのおかげか、魔力保有量も増えた気がする。




 私は一足先に寝ることにした。寝ることも大事だしね。向こうでは、雪姫と胡桃ちゃんが試合を行っている。寸止めだよね? 


「おやすみ、モント」


「おやすみなさい、茉莉」

 

 私は明日に向けて、意識を闇へと落とした。

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