第10話 元引きこもりは再び孤独になる

 私、三雲茉莉みくもまつり迷宮ダンジョンで迷って7日目。

 私は中級精霊のモントとともに、トラップの配置のいやらしい階層を抜け、次の階層に来ていた。

 トラップだらけの階層は、モントが強すぎて話にならなかった。

 更に私は、ユニークスキル、【トラップ解除キャンセル】を手に入れた。これは、スキルの熟練度によって成功率が変動するスキルだ。モントがいるから私は一度も使っていない。


「ここが最後……なわけないよね〜」


「ここはまだまだ序盤の方だと思われますんで踏破は暫く先になるかもしれませんね……」


 私の独り言をモントが拾って答えてくれた。それにしてもまだまだ序盤なのね……。


「うへぇ……まぁ急がば回れってことわざもあるんだし地道に頑張ろうか」


「茉莉、『急がば回れ』ってどういう意味なのですか?茉莉の故郷の言葉ですか?」


「そうだよ〜、多少の手間や時間が掛かってしまう回り道でも本道を通ったほうが、結局は早く目的地に着くって言う意味の言葉だよ」


「……それ少し意味が違うんじゃないんですか?そもそもの前提としてわたし達は急いでるわけじゃないんですし……」


 あっ……あれぇ?なんかものすごく恥ずかしいんだけどなんでかな〜


「どうしたんですか茉莉。顔が真っ赤ですよ?お熱ですか?」


「〜〜〜〜〜〜〜っ!!何でもない!!」


「で、でも……」


「何でもないったら何でも無い!!」


 どうかモントに私の恥ずかしいこの気持ちが伝わりませんように――。




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「授業を終わりますよ、日直さん、号令をお願い」


 三雲さんがいなくなって一週間が経った。

 学校の先生達や、聖教教会の人たちは、三雲さんがはぐれた件を『事故死』と決定した。クラスのみんなもいなくなって数日は悲しんでいたけど、たった一週間でみんな三雲さんのことを気にしてないようだった。

 まぁ三雲さんって、他人と関わリたくないって感じだったせいで、誰とも話さなかったから、みんな思い出とか情がわかなかったんだと僕は思う。

 実際僕もその一人だし……。


「姿勢、礼」


「「「ありがとうございましたー」」」


 僕は教室を出て寮へと帰る。

 三雲さんの席の周辺だけ時間が止まったみたいだった。


『大丈夫、三雲さんは僕の後ろに居て。僕が守るから』


 僕が三雲さんにかけた言葉だ。守るとか言っておきながら存在を忘れていた自分に、戦闘に関係ないところでいなくなるとは思わなかった。なんて言い訳している自分に苛立ちを覚える。


 まだ三雲さんはこの世界に来て一ヶ月も経っていなかった。

 16歳の誕生日に英雄として召喚されて2年もこの世界に居る僕とはわけが違うんだ。


 僕はこの世界のことなら、もしかすると地球にいたころよりも詳しいかもしれない。

 それだけ僕は頑張った。生き残るために、早く故郷に帰るために。

 なんで帰りたいのかって?家族や友人が心配してるだろうからさ。


 でも三雲さんは違う。

 頑張ってたかって聞かれるとみんな口を揃えてNoというだろう。

 生きるのに必死だったかと聞かれてもみんなNoと答えるはずだ。

 それだけこの世界や故郷がどうでも良かったってこと。流石に死にたいとは思ってなかっただろうけどね。


 そう、死にたいとは思っていないのだ。

 だから何としても助けてあげなくてはならない。


 僕が三雲さんを――。



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 私は洞窟の中を歩いている。何もない。でも隣にはモントがいる。何だろう、この安心感は。

 しばらく歩いていると、広い場所に出た。

 魔法陣がある。とても大きい。直径50mくらいかな?

 この色、形……見覚えがある。

 何処で見たっけ……まぁいいや。

 モントが確認のために魔法陣に近づく。

 そして私は思い出す。あれは私が転移してくるときに見た光だと。

 モントが魔法陣に触れる。

 モントの体が薄くなっていく。

 モントが驚いている。

 私はモントを引き戻そうと必死で手を伸ばした。

 しかし、モントはもどって来なかった。


 


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「――――はっ!」


 いつの間に眠っていたのだろうか……。


 確かモントにドヤ顔で『急がば回れ』について説明して……論破されて……ふて寝したんだった。

 我ながら子供っぽいと思うよ……ははは。

 

 ……それにしてもさっきの夢は何だったんだろうか……夢にしてはくっきりしすぎていた気がする……。


「おはようモント――」


 私の言葉が途中で止まってしまう。

 そう、モントがいなかった。

 

「――え?モント?どこ……」


【魔力感知】でモントを探してみる。しかし、モントは見つからない。


 この世界での初めての友達ができたのに……どうして……まさかやられちゃった…とか……?


 そんなことはあるはずがないと、私は首を振り冷静になる。

 そして、冷静になった思考で周りの様子をしっかり観察してみる。

争った形跡は無い。

 

 そして私は、恐らくモントはさっき見た夢のように転移してしまったんだと気づく。

 



 ――だってそうじゃなきゃ私はあの魔法陣の光ってたあの広い部屋に居るはずがないんだから――。


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 三雲茉莉みくもまつり 


 New 【罠解除トラップキャンセル

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