第37話 捜査

「いっこ質問、いいか?」

「なんだ? なんでも聞くといい、アタシはな〜んでも知っている!」


 だからなんだその自信。


「あのクロカミ嫌いのクソ騎士が、なんでまたカンナが接客してるあの店に通ってるのかと思ってな」

「あー、その事か……それはまぁ、うん……」と、口籠るシーラ。


「カンナはクロカミと言っても割と薄い色だからな。とは言っても、ヤツとしては弱みを握ったようなもの、つまり……」

「つまり?」

「お目溢しついでにタダ酒が飲めるというわけさ」

「うわぁ……」


 しょうもない理由過ぎる。もっといい店行けや高級官僚。そして自腹で飲め。


「そんなアイツにカンナが襲われはしないかと思って、アタシも常連やってるのかもな」

「『王子』、ね……」


 一応ボディーガードにもなってるわけだ。本格的にあの酒場にでも雇ってもらえば盗人稼業から足を洗えそうな気がするのだが。

 ……いや、無鉄砲なコイツの事だからそれをやると命がいくつあっても足りない状況に陥るかもしれない。


 なかなか、シーラの更生には手を焼きそうである。俺としてもあまり良いプランが思いつかないでいる。


「着いたぞ」と、シーラ。


 案内されるまま辿り着いたスラム街は、ほとんどがシーラが住み着いているあばら屋と似たりよったりか、あるいはそれ以下の掘っ建て小屋でしかない建物が立ち並んでいる一帯だった。


「姐さん!」と、一人の黒髪がシーラを見つけると駆け寄ってくる。


 ……っていうか、『姐さん』?

 ついに広域指定暴力組織まで結成する気か……。


「調べはどうなった?」と、シーラが尋ねる。

「たしかに最近、ここらに騎士団のお偉いさんが現れたことはまちげぇないみたいっす!」

 キビキビと答える黒髪の少年。


「おっと! 暗黒騎士のお兄さんもご一緒でしたか、どうもお日柄がよろしいようでっ!」


 大方、カラス少年が俺のことを言いふらしたのだろうが、何その超強そうなジョブ?

 少し前に軽蔑の視線をなげられるほどのチキンぶりを発揮した俺としては完全に名前負けなので潔く辞退するべきところである。


「……それで、潜んでそうなところは絞り込めそうかい?」

「はいっ、姐さん! 何せ、ここいらで泊まれるようなところはそれほど多くありませんから!」

「よっしゃー! 兵を集めろ! 焼き討ちの末炙り出しじゃー!」

「ガッテンです!」


 この二人、どうも盛り上がり過ぎてある。


「……落ち着け、そして火はつけるな!」


 ……こうなってくるとむしろ俺だけがひどい臆病者に思えてきたが、一応、常識人枠だよね俺って?


「いや、しかし……」と、俺は自問する。

「小言を言ったところでアイツを捕まえるの役に立つわけではないのは確かだ……」


 大見得を切るシーラにここは乗っておくべきなのかも知れない。

 考え込む俺を見つめ、シーラはネコ科の動物のような笑みを浮かべる。


「兵を集めよ! 行くぞ皆の衆、いざ討ち入りじゃー!」

「一応、向こうは武器を持ってる。くれぐれも身の安全には気をつけてくれ」


 かくして、分散していたクロカミ探偵団の面々はシーラの元へと集うのであった。



 一体いつの間にこれだけの人間と知り合いになったのか、シーラが組織するクロカミ探偵団は、クロカミ街の若い人間をメインに十数人いた。


「それで、どの宿に潜んでいるかはだいたい絞れたか?」と、俺。


「なんでもダルマ亭という安宿に最近見かけないのが何日も宿泊しているって話らしいぜっ、兄ちゃん!」


 当然このクロカミ探偵団にも参加していたカラス少年が俺に告げる。


「よし、まずは俺とシーラが先に正面から入る、カラス君たちは裏出口と後方支援を頼む」

「りよーかいっ! なんかワクワクするぅ〜〜!!!」


 異様に楽しそうなのだが、大丈夫だろうかこの子?

 シーラと俺の第一部隊が潜入しようとした矢先に、店の前に人影があった。


「おい! シーラ、頭を下げろ!」

「ん……なんだ?」

「さっきの金髪騎士が居るぞ……!」


 物陰に隠れてダルマ亭の入り口を見張る。

 人影の一つは先程の金髪騎士、彼が話しているのは……。


「もしかして、アイツが犯人か?」


 スマホを預けてさえいなければ証拠写真を撮れたはずなのに、しくじった。

 騎士と会話する犯人であろう男は、どこか軍人風といった感じがする大男で、金色の髪を短く刈り上げている。

 腕や足の太さからするに、かなり鍛えているだろう。

 俺は忘れないようにと男の顔を凝視した。


「やはり、あのエセ騎士と犯人との間には関係があったようだな」

「お前がエセ騎士っていうとなんか紛らわしいのだが……」


 自称騎士であるシーラの方がエセ騎士だと思う。


 やがて、二人は会話をやめ、騎士は数枚の銀貨を男に渡すとその場を去っていった。


「追いかけるべきかな、アサクラ?」

「金髪騎士の方は後でいいだろう、犯人が先だ。今なら武器も持っていなさそうだしな……」


 今の男の着ている服はスラムの他の住人と同じような粗末な服、そしてあの時とは違い軽装で、見たところホルスターも無ければ、服の隙間に銃を隠せそうには見えなかった。


 ……この舞台の中で唯一武装していると言っていい俺の場合と違って。

 魔法銃を俺が本当に撃てるのかは賭けだが、有事の際には今はこちらの方がアドバンテージがある。


 しかし、もしも……。

 アイツがこの世界に持ち込んだのだろうオートマチックが、この世界で一般的に使われる『複製魔術』によってコピーされていたとしたらどうなるだろう?

 そんな悪い予感が頭の中をよぎった。


 さて、こういう時には初手はどうでるべきだろうか?

「そこのあんた」とでも言って呼び止めるのか。それで止まるのか。向こうからすれば見ず知らずの人間からただ声をかけられただけである、無視されて終わりでは。


 つくづく平和ボケした平均的日本人である自分が荒事慣れしていないのが足を引っ張っている。


「ともかく……向こうが武器を持っていない今が最大のチャンス……」

「犯人を追うぞ、アサクラ……!」


 追うったって、どうやら向こうは宿に戻ろうとしているだけのようだが。


 俺たちは犯人との間の距離を詰める。

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