第30話 フラッシュバック 〜 part1 ゼブラヘッド

「だれも知らないような未知の技術、概念を知っている。見たところこの辺の人間でもないですよね? カイ、一体あなたは何者なんですか……?」


 彼は俺の頭を読み取るように額に伸ばした指先を当てて、何事か詠唱した。

 俺の体は指一本動かせないでいる。


「少し……読ませてもらいます」


 シーラや黒髪が言っていた、不可能だというのが常識であるはずの、完全なる禁忌の魔術……それをこんなに早く見せられるとは思わなかった。

 ただの催眠術みたいなものだよな? それとも、本当に危険極まりない魔術なのか。


「んっ……!?」


 彼が触れる指先が額をなぞり、瞬間その部分が白くスパークした。


 ……次の瞬間、俺は学校の教室の中にいた。


 見慣れた風景。ざわざわと騒ぐクラスメイトたち。

 学生服姿の自分。

 その中で一人、俺に笑いかける同年代の女生徒の姿。

 何事か彼女は俺に語りかける。

 非常に親しげだった。


 少し色素の薄い茶髪のセミロングヘア。

 毛先が少し内側に巻いている。

 なんでもないことを楽しげに話す、俺はそれを聞いているとやけに気持ちが落ち着いた。


「でさ――。カイはその辺のこと――」

「――――じゃない?」

「――ないない。それはないから―――――ほんとうける――」


 俺は彼女のことを覚えている。彼女は俺にとって、そう、大切な……


 ……何故、今の今まで忘れていた……?


「リサ……! 」


 しかし、彼女を捉えようとした瞬間にその姿は暗闇へ消えていってしまう。


 視界は暗転する。


「……まさか死んだりなんかしないよな、爺さん……?」


 腕には……点滴のような管が繋がれていて、俺は椅子に縛り付けられている。

 腕と足に硬い金属の感触……拘束具があった。


戻れるんだよな、、、、、、、?」


 ……俺は、何を言っている?


 これは、ここは、どこだ?


「戻れるとも」

 眼の前で魔術師のような格好をした老人が答えた。


 俺と老人の間にはガラスで出来たような壁がある。

 仕切り板の内側、カプセルのようなところに俺は閉じ込められている。


「目を閉じて、楽にしろ」


 その時、腕に繋がったチューブから薬液が血流に流れ込むのを感じた。

 薄めを開ける。

 左手の紋章、入れ墨が血のような紅に染まった。


 流れ込む薬液が血管を焼いているみたいに熱い。


「う……」


 足元から緑色をした……なにか粘性を持った液体が流れ出した。それは俺を閉じ込めるカプセルの中で徐々に水かさを増していく。

 足首、膝、腰にまで迫ってくる。

 全身に回った薬が……俺を殺そうとするみたいだ……熱を持ち、俺は悲鳴を上げる。

 目の前の男はガラスの壁に手を当てて、目をつぶっている。


「……やめだ! やめてくれ! 爺さん!」


 俺の静止を聞くはずもなく、その男は呪文詠唱を続けている。

 男がまとうローブが風もないのにたなびいていた。

 顔を覆うフードがめくり上がり、俺はその老人の顔を見る。


 髪の房がある一房は真っ白で、ある一房は真っ黒だ。


 シマウマゼブラの髪の男。


 ……俺の言語認識を書き換え、あるいは俺をこの世界に召喚した張本人。

 こいつ、なのではないか。


 薬品臭い緑色の粘液は喉元までせり上がってくる。

 俺はろくに動かず、動かすたびに内側から痛みを放つ体でもがく。


 やがて水位は口元に来た。

 ひどく嫌な味のする液体を飲まされながら、俺は意識を失い――




「カイ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る