第16話 パズル
翌日、窓から差し込む朝日に目を細めながら九龍頭はベッドから起き上がった。窓を開けると微かに海の香りがする風が部屋に吹き込む。もしゃもしゃに寝癖がついた毛質の硬い髪を掻きむしるように手櫛をかける九龍頭は、そのまま部屋を出て行き大きな欠伸をした。
時刻は朝9時、井筒警部は既に起床し外の庭で体を念入りにストレッチしている。
「おや、先生早いですね」
「井筒さんこそ……」
九龍頭は広間に降りた。登美子はもう既に朝食を準備している。九龍頭は朝一杯の珈琲を飲まないと頭が働かないらしい。登美子に小さく頭を下げると、九龍頭はぐるりと広間を見渡した。ハムエッグとトースト、珈琲といったメニューだ。
「朝早くからご苦労さまです」
「これが、私の仕事でありますから」
それだけ告げると、登美子は配膳を続けた。この家の人間は皆夜型らしい。春日は既に起床し書き物をしているようだ。九龍頭に続くように朝香、美沙絵がおっとりとやって来た。
「あれ、中迫さんは?」
「あの商売人なら、帰ったわよ。泊まるつもりなら厚かましいわよね」
朝香は言った。九龍頭は苦笑いをすると、外にいる井筒警部に声をかけようと外に出て行った。
庭は一面手入れされた芝生に覆われている。南国感を出す為か、椰子の木が植わっている。井筒警部は九龍頭のもとに向かうと、にやりと笑った。
「先生、例の件ですが……」
九龍頭は井筒警部の報告を聞くと、納得したように頷いた。九龍頭の頭にかかっていた妙な靄は少しだけ晴れたようである。
「なるほど、しかし最大の謎がまだなぁ……」
九龍頭は再び顔を歪ませる。井筒警部と共に別荘の中に入っていくと、二人は席に着いた。
「これは、美味そうですな」
井筒警部は手をこすり合わせながらトーストに齧り付く。
「美沙絵さん、昨日くれたクッキー、まだあるかしら?」
「えぇ、まだあるわよ?」
「あれとっても美味しかったわ」
美沙絵と朝香は顔を見合わせ、くすくす笑い合いながら話している。今日はほんの少し朝香の機嫌がいいらしい。
「1度開けちゃったから、湿気てしまうわ。そうだ、九龍頭さんと井筒警部も如何ですか?」
朝香は強張ったような笑顔を九龍頭と井筒警部に向けた。九龍頭はいいですねと言いながら、二三度頷く。
それから直ぐさま、はっとしたような顔になった。
「井筒警部」
「どうしました?」
「少し、部屋に戻ります。すみませんが、中迫さんをここに呼んでくださいませんか?」
井筒警部は首を傾げたが、その言葉を理解したらしく、ぱっと表情を明るくし立ち上がった。
「何という事はありませんでした。あれは呪いなんかじゃありません、断じて」
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