第10話 炎

 美沙絵は手慣れた様子で二人に紅茶を振る舞った。紅茶は全く疎い井筒警部は音をたてて緑茶を飲むかのように啜った。


「奥様、お気遣い有難う御座います。ところでお話を……」

「主人とは、私のお店で知り合いましたの。銀座のほうのクラブで働いておりましてね」


 九龍頭は上半身を傾けて訊いた。


「お客様だったのですか?」

「えぇ、前の奥方様を亡くされた時はそりゃもう見ていられませんでした」

「ほう……」


 九龍頭は段ボール箱に目を向けた。何か引っ掛かるようだ。


「奥様、もし宜しければ、あの箱の中を確認したいのですが」

「えっ?……えぇ、それは」


 九龍頭は失礼と告げると、段ボール箱のガムテープを剥がした。中には真っ赤なドレスが入っている。


「これに、見覚えは?」

「いえ、一体何方が?」

「書いておりませんな。にしても、派手な……」


 井筒警部はそれをひょいと持ち上げてひらひらと揺らした。


「警部!危ない!」

「へ?」

「離して!」


 九龍頭は井筒警部の手からドレスを叩き落とした。真っ赤なドレスはその色と同じ色の炎を上げていたのである。


「きゃあっ!」

「何か火を……ひっ……火を消すものを!」


 

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