第5話 悲劇の人形作家

 中迫は黒柳紫苑について話し出した。

――黒柳紫苑、かつて貿易商をしていた父親がフランスで買ってきた磁器人形に魅せられ、日本でこれを普及すべく国内で磁器人形作家となる。

 しかしながら磁器人形を作る技術がなかった為、単身フランスに渡り、磁器人形の技術を学ぶ。そして帰国して間もなく、磁器人形を日本で作る工房を立ち上げる。

 黒柳紫苑の作る磁器人形は当時あまり売れなかった。磁器人形自体はあったものの、戦前の混沌とした時代にあまり受け入れられたものではなく、紫苑はしばらく不遇の時代を生きることとなる。


「黒柳紫苑は、何故悲劇の人形作家と?」


 中迫は井筒警部の問いに答える。

――太平洋戦争に突入し、紫苑の作品は片っ端から壊された。西洋のバタ臭い磁器人形を作る非国民と貶され……それでも紫苑は自分の作りたい磁器人形を作り続けた。

 そして終戦。漸く戦争の痛手が癒えてきたその時、紫苑は生涯最後の作品を制作し……


「自らの命を絶ったといわれています」


 中迫は思い出すように言った。その自殺の理由は誰も知らない、謎のままなのである。


「その作品が、主人が買ったという…?」

「左様でございます」

「莫迦らしい。そんなものを信じてるのか、お前らは」


 和馬が言った。しかしその目はしきりに泳いでいる。内心びびっているのだろう。井筒警部は九龍頭をちらりと見るが、九龍頭は中迫の話を大して聞いていないかのように頬を撫でているだけだ。


「それじゃ、何故父さまはあんな死に方をしたんでしょうね?」

「あぁ、それは我々で……」


 井筒警部が朝香の問いに答えた。言葉をつなぐように九龍頭が手を上げて言った。


「もう一度、あの部屋を見せて戴けませんか?」

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