第28話 もふもふVS美少女


「それより、これからどうするか…だな。」


オズヌさんが、ふきゅ?と首を傾げて皆に問いかける。

一応、オズヌさんとエル曰く、隙を見て直接あの野郎を問答無用でぶち殺す、と言う事は、

やってやれない事は無いらしい。


しかし、これはあまり現実的とは言えない。


先ずは隊長さんとリーリスさんを助け出して、

あの野郎の祝福ギフトを奪い取る事がミッションクリアの第一歩。


あの野郎の祝福ギフトさえ無効化すれば、僕だけでなく、全員この状態異常が自動的に剥がれ落ちるはずだ。


「やっぱり、リー兄ちゃんと隊長さんを助け出さないとダメみたいデスね。」


「一応、地下牢に捕らえられているって言う情報は得てるんですけど…」


「じゃ、こっちに来てから、リーリスやナザールには会って無いのか?」


オズヌさんの問いに僕は素直に頷く。


「はい、まだ…地下に続く扉の鍵を管理しているのが、あの謁見の時に居た黒髪の女性でして…」


「そうか、鍵か…多分、地下牢の鍵くらいなら俺が開けるか壊すか出来るぞ?」


マジか!?流石オズヌさん!!


「じゃ、早速、行ってみましょうか!」


「そうデスね…っと…とと…あれ?」


立ち上がろうとして、ちょっとふらつくレイニーさん。

おっと、疲労回復が足りなかったかな?

それとも、これ以上は本当に寝ないと回復しないやつかな?


「大丈夫か?」


「おい、レイニー、貴様は一応、今、休んでいるって言う話だったんだろう?

だったら…その、昨日もロクに寝てないんだし…しばらく休んでおいてもいいんじゃないか?」


「…大丈夫デスよ、エル君。…もうそこまで疲れていないデスし…」


「レイニーさん、休んでいても大丈夫だと思いますよ?

あの男【ハーレム】の女の子だと認識してる人には基本的に優しいですし。」


「そうなのか?」


オズヌさんもエルも驚いた様子で聞き返す。


「ええ、まぁ…」


優しい、と言うか…一昔前のラブコメみたいな扱われ方と言うか…


「ほら、僕の時と同じで…多少はセクハラされたり、奇妙な衣装を強制されたりするかもしれないですけど。」


「それは…嫌デス…」


あれ?なんか今の発言で、一気にレイニーさんの疲労度を増してしまったな。


結局、レイニーさんは小鳥モードで一緒に行く事になりました。

ベッドには、アリバイ工作として、持ってきた荷物をそれなりにまとめて布団をかけておく。

こうすれば、なんとなく人が寝てるように見えるし。



そんな訳で、僕は前に見た地図の記憶を頼りに皆を案内する。


「確か、こっちでした。」


僕達一行が地下へ向かって歩いている時、唐突に女性の声が響く。


「『……ナーノ、発見!』」


「へ?」


振り向けば、廊下の向こう側から声をかけて来たのは、無表情ラバースーツさん。

…と、その隣にはハイレグエルフさんも居る。


「『……使役獣認識。対戦試合実施希望。』」


「『あら、その子達の強さが気になってるのはリルだけじゃないわ。私もちょっと気になってるのよね。』」


少し気の強そうな凛とした瞳が値踏みするように細められる。


おぉっと!?

こちらのお二人、案外好戦的?


そ、そっか…オズヌさんとエルを見てるのって内政系のミカティアさんとラフィーラ姫だけだったな。


エルの奴が喉の奥でグルグル、とうなり声を上げる。

怒り…と言うより、困惑に近いのか?


「えーと、ちょっと待って下さい。」


僕は、なるべく小声で呟く。


「ど、どうします?試合ですって…戦ってみます?それとも…」


「そうだな。先を急ぎたいのはやまやまだが、それだと怪しまれるか?」


「怪しまれなくても、ついて来られても困りマスよ?」


「フン、それもそうだな。…俺様は構わないぞ。

…人間の姿では不覚を取ったが、それはあの野郎の祝福ギフトのせいだからな。」


「まぁ、彼女達の力も見てみたいのは確かだ。」


なるほど。


「分かりました、オズヌさんもエルも戦ってみたいそうです。」


「『ふふふ、そう来なくっちゃ!あ、そうそう、多分ティキも来るわよ?こんな楽しそうなイベント、あの子が見逃すはず無いもの。』」


…そういう事になりました。




二人に案内されて到着した中庭は、円形闘技場…と言うより、地下構造が無いみたいだから闘牛場に近い。

広さは体育館くらいで、多少派手に暴れまわっても周りの建物に被害は及ばない程度の広さは有る。


いつの間にか属性特盛妖狐のティキちゃんも合流し、身の丈に合わないモーニングスターを振り回し観戦の構えだ。


「『…それじゃ、やりましょうか?一応、相手がギブアップと言うか、明らかに戦闘不能の場合は終了で良いわね?』」


「はい、ただ、こちらは一応、ヤバイと思ったら僕が止めても良いですか?」


「『そうね、獣じゃ喋れないものね。構わないわ。』」


実は二人とも喋れますけど、そういう事にしておきましょう。


「『わーい!どっちもがんばれー!勝った方はティキとも戦ってねー!』」


「じゃ、最初は…エル、行こうか?」


「わふっ!」


「『…戦闘準備、移行。先行視察実行。』」


「『あら、リルから行くの?…ま、良いわ。』」


闘技場の中央に向かうのは無表情ラバースーツのリルさんとエルだ。


エルの大きさはリルさんの3倍くらいになるだろうか…パッと見だと、完全に魔獣だよな~…

まぁ、一応、【獣使い】の僕が操っている設定…なので、彼女達から多少距離を取り、エルに指示を出している感じを演出しつつ僕は、こっそりとオズヌさんに話しかけた。


「エルの奴、大丈夫かなぁ?」


「この段階では何とも言えないな。

あの坊主、そんなに弱くは無いんだが…一応、本来の戦い方は人型だからなぁ。」


そうなんだよね。

オズヌさんはこっちのもふもふ形態の方が強いっぽいけど、エルの奴は【鬼族】モードにしろ、剣術にしろ、普段の戦い方はヒト型だ。


四足動物状態で戦うのが得意なのか…微妙な所なのだ。


ほら、元々人の意識があると「いきなり獲物に噛みつく」ってちょっと勇気が要るじゃん?

あのゴムっぽいラバースーツ、すっげぇマズイかもしれないし。


「がんばれよー!エル~!」


とりあえず、僕はエルにエールを送る。


「『始め!!』」


ハイレグエルフのフルルさんの掛け声でリルさんが何やら呪文を唱え始める。


「『…詠唱、魔導仕掛戦闘人形召喚カモン・ゴーレム・クリエイト。』」


大声ではないものの、その言葉は妙に僕の耳に良く届いた。


それと同時に、リルさんの背後から土がもりもりと盛り上がり、一体の大きなゴーレムを形作る。

大きさは、以前夕食会場で目にした2体のゴーレムよりもさらに2周り程大きい。

足は短いものの、手は長く、体は足元の土が固まって出来ていると思えない輝きを放っている。


…ゴーレムって、体に書かれた文字の内どれかを消すと倒せる…

みたいな話を聞いたことが有るんだけど、このゴーレムには文字らしきものは見当たらない。


ただし、胸…まさに、心臓の位置に「ココ、弱点です!」と言わんばかりに輝く赤い宝石が有る。

そして、それが鼓動するかのように、ゆっくりと光り、点滅を繰り返している。


「『…行動開始。』」


がたごろごろごごごっ!


すると、ゴーレムは、股下をロードローラーのような形状に変化させ、エルに向かって直進して来た。


おぉ!?

い、移動は二足歩行じゃないんだ?

…ま、まぁ、その方が安定はするんだろうけど…

何かこう、戦車の上からにょっきりと人の上半身が生えてるみたいな形状だ。


速度は…ちょうど一般道路をトラクターがトコトコ走る感じかな。


普通の人間でも全力疾走で追い抜けなくも無い速さだ。

…戦闘シーン、と言われると…想像よりは、かなり遅い。


…相手が僕ならその速度でもそれなりに脅威だけど、見てる分には割とゆっくりめに感じるなァ…。


その速度に、エルの方もちょっと困惑してるみたいだ。

ささっと、そのゴーレムの走る軌道上から右に大きく避けると、どうしてよいか分からない感じで尻尾を低い位置でゆっくりゆらゆらさせている。


すると、ゴーレムは方向転換が即座に出来ないのか…

エルの真横まで来たところで一旦停止し、また、がこがこと股下を変形させロードローラーの角度を変える。

そして、腰から、ぐりん、と90度回転させて、またしてもエルの方へ向かってトコトコと進む。


何て言うか…戦闘シーンとは思えないな、この間!!


高校生のロボットコンテストの方がこれより何倍もスムーズに動くけどなぁ…


まぁ、一応、腕が長いから、それが主な武器なのかな…?

例え材質が何であっても、重量のある物質が体に直撃すれば大ダメージだもんね。


ぐりんぐりんと上半身を回転させながらエルに迫る!!

…トラクターの速度で。


「『リルちゃんすごーい!』」


「『流石、ゴーレムマスターね!』」


「『マスター助言、反映済。高速移動可能。』」


だが、エルの奴はその追いかけっこに付き合う気はさらさら無いらしい。


「…がうっ!!」


ぼんっ!!


一声。

炎の玉…と思しき魔法をゴーレムの胸元。

…点滅する赤い宝石に直撃させた。


「『えっ!?魔法を使うの!?』」


「『わんわん、すごーい!!いいなー!!』」


しかし、ゴーレムは通常、丈夫さが売り。

一撃で撃沈とはいかない。


「『…魔法攻撃確認。』」


炎の中から、胸元を黒く煤けさせたゴーレムが姿を現す。


回転速度は低下しているものの、その動きは止まっていない!

…いない…いな…あ、止まった。


えーと、エル、そんな「どうすんだべ?」みたいな目で僕を見られても…


「あー…す、すごいよ!エル、後はリルお姉さまだけだよ~!」


「『あら、魔法が使えるなんて…リルのゴーレムだけじゃ荷が重いようね。』」


「『あはは~!ティキもやるー!!』」


おっと?一気に三人同時?

ゴーレムさんが沈黙するのと同時に、少女たちが闘技場へと飛び出してくる。


「…オズヌさん。」


僕は小声でオズヌさんに声をかける。


「ああ、危なくなったら加勢する。」


一応、このまま3対1で戦うようだ。


「『いっくよ~!えーいっ!!』」


速い!!


あのトラクターゴーレムなんて目じゃ無い速度でティキちゃんがエルに迫る。

同時に同じような速度で大鎌を抱えたリルさんも走る。


どうやら、ゴーレムの操作は諦めて接近戦に出るらしい。


フルルさんは、その場にとどまり何やら大魔法の詠唱を始めているのか…

…魔力が彼女に向かって集まり始めている。


だが、エルの奴…にやりと不敵に顔を歪め…まるで「フン、ようやく面白くなって来た」と言わんばかりの表情でその尻尾を振っている。


そんな余裕をかますエルを捕えようとティキちゃんは自分の身体程もあるモーニングスターを振り回す。


「『えいっ!とおっ!やぁっ!!』」


ちょっとアホっぽい掛け声とは裏腹に、その攻撃速度にはキレがある。

自分と同じくらいの大きさの武器を振り回していると言うのに、全く身体がぶれる様子はない。


それが逆に現実味を打ち消しており…何だか、子供が大きな綿あめ振り回して遊んでいるように見える…


エルの奴も、ぬるぬると野生動物特有の素早さを生かしてティキちゃんの周りで、彼女を翻弄しているし…

余計に遊んでるみたいだなー。


「『…フッ!』」


しかし、そんなエルの回避先を計算したのか、ティキちゃんのモーニングスターを避けて着地しようとする瞬間に、リルさんがその動きを見切った様子で大鎌を振り下ろした。


だが、エルの奴はそれを読んでいたのか…例の【空中走り】の技能を使い、ととーん、と空中に駆け上がると、そのままリルさんの頭上に降り立つ。


まるで、狐が雪原で小動物の狩りをしているみたいだ。


…どぷち。


「『…ふぎゅっ!』」


無口なリルさんが、ちょっと情けない声を上げて潰れる。

腰を高く突き上げて倒れこむ姿は…バトルシーンと言うより、お色気シーンの様相だ。


「『むむ~、リルちゃんのかたきー!え~い!』」


がきんっ!


おおっ!!

エルの奴がティキちゃんが振り回していたモーニングスターをその牙でがっちり白刃取り!


そして、逆に激しく首を振り、彼女の細腕からそのモーニングスターをもぎ取ると、ぶん、とそれを放り投げた。


「『あー、ティキの武器、取られちゃったぁ~!?』」


モーニングスターは、そのまま天高く舞い、僕のすぐ傍に落下する。

と、その瞬間、オズヌさんが僕の服を咥えて、ひょいっと身体を左にずらす。


…どごぉんッ!!!


!?


想定外の衝撃が地響きを上げた。


えっ!?

な、何これ、めっちゃ地面にめり込んでるやんけ!?

僕の上に落下したら即死だよ、即死!!


こんな重量級の武器をあんなに軽々ぶん回してたの!?

ティキちゃんすげぇな!!

そして、それを咥えて投げ飛ばしたエルの奴もすげぇ!!


しかし、ティキちゃんは戦いの最中だと言うのに、エルではなく、飛んで行った武器を探してキョロキョロしている。


「『あー、あんなに飛んでっちゃった~。』」


…どべちっ!


「『…ふきゃんっ!』」


よそ見していたティキちゃんに、もぐらたたきの要領で、エルパンチが炸裂する。


ティキちゃんもリルさんと同じように地面に倒れ込む。


どうやらエルの奴「試合」だから手加減してるのかな?

リルさんもティキちゃんもノックアウト状態ではあるものの、命に危険があるようなダメージを受けているようには見えない。


これは、エルの勝ちかな~。

と、そう思った瞬間…僕の目の前が羽毛に覆われた。


!?


「ナガノ!自分とレイニーに回復魔法ッ!!」


「えっ?は、はいっ!ダメージも異常も飛んでけっ!!!」


オズヌさんの緊迫した声に条件反射で僕の頭の上にとまっていたレイニーさんと自分自身にむけて、脳天とお尻から回復魔法をひり出す。


…ヴァチッ!バチバチバチッ!!!


「ふぎゃっ!?」


「ぴっ!?」


と、同時に、全身を電気ショックのような衝撃が襲う。


「…ッ…大丈夫か、二人とも。」


「…はい。な、なんとか…」


「…っワタシも…無事…デス…回復魔法のお陰デスね…。」


僕達をかばってくれたオズヌさんの羽毛から顔を出すと、この闘技場全体にパチパチとまだ紫電が弾けている。


「『…はぁ…はぁ…こ、これで…どうかしら?』」


「『…ふ、ふるるちゃん…ひどいよぉ…ティキ達も一緒に…吹っ飛ばすなんてぇ…』」


「『…身体麻痺…行動不能。』」


どうやら、フルルさんが雷系広域攻撃魔法を放ったらしい。


ただし、彼女自身も、これだけの大きな魔法の発動にそれなりの負担がかかるのか、肩で大きく息をしている。

しかし、目の前のエルは…と言うと、こちらも紫電を纏っているものの、大したダメージは受けていないようだ。


…そー言えば、エルの奴、森の中で魔獣の熊に出会った時、雷系の魔法を放とうとしてたよな。

もしかして、雷耐性でも持ってるのかな?


「…がう!」


それに応えるように、エルはその場で一声大きく吠える。

と、最初のゴーレムを倒した時と同じように炎の玉がフルルさんに向かって突き進む。


「『…っ!魔力障壁!!』」


…ぼがん!


フルルさんは、その攻撃を緑色の半球状の防御魔法で防ぐ。

だが、エルの奴は魔力障壁を打ち破るべく更なる炎の玉を飛ばす。

「1発で壊せなかったら、何度も打てばよくってよ?」と言う、数の暴力さんに頼るようだ。


「がうッ!がうッ!がうッ!」

ぼごん、ぼごん、ぼごん。


「がうッ!がうッ!がうッ!」

ぼごん、ぼごん、ぼごん。


「がうッ!がうッ!がうッ!」

ぼごん、ぼごん、ぼごん。


…えーと…エルの奴、何も正面突破にこだわらなくても…別の位置から魔法を打てば良いのに…


まぁ、フルルさんの方も魔法障壁を使っていると移動などができないらしく、戦線は完全なる硬直状態となった。


「あー…ナガノ…ちょっと手助けしてきても良いか?」


「あ、はい、お願いします。」


オズヌさんが流石に業を煮やしたのか…僕にそう断りを入れると、てこてこ、とフルルさんの元へ歩いて行く。


そして、


…どぺちっ!


「『きゃぁ!』」


障壁の張られていない後ろから、くちばしで軽く彼女を小突くと、バランスを崩してひっくり返る。

同時に魔力障壁らしき緑の光りの半球も消滅した。


「『もう!何すんのよっ!!』」


フルルさんの怒りの声を遮ったのは、闘技場の外…観戦席のような所から投げかけられたものだった。


「『あらァ~、この勝負…ナーノ達の勝ちみたいねェ…ふふふ、意外だわァ』」

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