#9 泥に花束
高校1年生の春。部活動紹介も兼ねて、文化系の部活動による発表会が高校近くのホールで行われた。
そこで見た演劇部の発表が、あれから数年経った今もなお記憶に焼き付いて離れない。
先輩方の見せたものがどれほど楽しくて、おもしろくて、どきどきして、でも切なくて、素晴らしかったのか。それをここで説明することは私にはできない。
文章にしてみたところで、きっと私が伝えたいことの100分の1しか伝わらないから。
ただ、ほんとうに魅せられたのだ。彼らが作った演劇に。
それを直接伝えられなかったことを、今でも後悔している。
演劇部の部室に足を踏み入れようと思ったことは何度もある。でも、逃げた。
私は演劇部には入らなかった。
自分は演じる側にも作る側にもなれない。あんな風にひとを魅了できない。そうやって、線を引いてしまった。
結果として書道部を選んだことに後悔はない。
書き終えたときの達成感をたくさん味わえた。細くなることはあってもきっと最期まで切れないだろう友達とも出逢えた。全国大会という場所にも行った。あのとき読めるようになったいくつもの文字は、大学の講義に活かされている。
それでも、自分が選ばなかった未来のことをときどき考えては、苦くなる。
高校2年生、3年生のときも同じように文化部の発表会があった。
自分達の発表で終始慌てていたりもしたが、気になっていたものはすべてしっかりと席に座って観ることができた。
演劇部のものは、どちらもとてもおもしろかった。おもしろかったけれど、1年生のときのあの演劇が特別自分に響いたのだとそこで知った。
誰かの心に突き刺さるようなものを いつか自分も作れたら と、南ちゃんとたっちゃんが私のなかに現れる度、思う。
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