孤独の猫

天崎 瀬奈

第1話

人の優劣が決まるのはそれこそ生まれたその瞬間だ。

人間というのはこの世に生まれ落ちたその瞬間に、今後生きていく上での優劣がはっきりと決められてしまってるのである。政治家や芸能人などのところに生まれ落ちたらそれは、優位な方に入るのかと言われれば、一概にそうとも言えないのがこのご時世である。

どれだけ努力したところで。

どれだけ望んだ所で。結局才能というものには叶わなくて。

とはいえどもどれだけ努力して運を使って、最高の優秀な最高の地位を手に入れたところで、それが一瞬にして崩れさることもあるのだから、結局のところで人生の優劣なんてものはないのかもしれない。

まぁ、少なくともバスが一時間に1本だとか、無人駅だとか住宅街なんてない家が等間隔に1軒ずつとかそんな田舎に生まれるよりも、都内に生まれた人間の方が多少は上なのかもしれない、と。

大都会を目の前にしたいま、俺はそんなふうに思うしかなかったし、思わざるを得なかった。そりゃあ生まれ育った街を大切にしなさいだとか、生まれ育った街をもっと盛り上げていきなさいだとか、永久就職しなさいだとか、田舎はいいぞ、故郷はいいぞ、なんて昔からの教えを大切にするのが正義のように、今のテレビは騒ぎ立ててはいるけれど田舎というのは、若者にとっては窮屈なものでしかなくて。

結局のところその放送も全部、都内に人が多すぎるから田舎に追いやろう、なんてレベルのことしか考えていないのではないだろうか、なんて、まぁ勝手な偏見なんだけれども。でも一度そんなふうに考えてしまえば、全ての言葉たちが報道や記事の全てが、綺麗事にしか見えず、結局のところ都内の方がいいのではないだろうかという結論に至ってしまう。

大都会を目にした今、そんな考えに浸る程、今の俺というのはあまりにもちっぽけな存在でしかなかった。

俺の今までの人生は、ほんの少しだけしか生きていないがその中でも、感じる、わかってしまう。俺の人生というのは決して普通な日々じゃなかった。

決して普通な人生じゃなかった。

そして、それは決して明るい毎日ではなかったというのを分かっている。

家に帰れば毎日言い争う両親の声がした。部活などで疲れて帰ってきても、唯一の友達と遊び楽しい思いを感じたまま最高の気分で帰ってきても。まず最初に聞くのはその両親の喧嘩する声だった。

それ以外が聞けた試しが正直あまりない。

たまに運が良ければどちらかの機嫌が良いのだけれど。それでもやはり夜には喧嘩になっている。そんな両親から可愛がられている妹と煙たがられている俺。なんで兄妹でこんなふうに対応の差が開くなんてことになってしまったのかは忘れたが、きっと親も親でなにか理由があったんだろう、と。そういうことにして適当に日々を過ごしていた。何歳の頃だったか、それでもまだ幼かった頃のことだと思う。

小学校に上がりたてだろうか。その頃からだ。自分が愛されていないと、親にとって自分は不必要な存在でしかなかったということを幼い頭で理解してしまった。自覚してしまった。つまり自覚してしまえばもう苦しいことはそんなにない。暴言も暴力も。仕方の無いことだと割り切ってしまえるようになってしまった今ではそんなに苦しくも感じない。と言うよりは苦しいとか、そんな感情さえもきっと忘れてしまったんだろう。それが普通だと割り切ってしまえばいいのだから簡単なことだった。

小学校に上がった頃、周りも皆、一人の人間としての自我が成長してきた頃だった、生まれるのは少し早めの格差社会というもので。

自分はあの子よりも上。自分はあの子よりも下。

そういったヒエラルキー的な、格差社会的な、まぁなんとも言えない関係差というものが個人個人で出てきてしまう。まぁそこでの俺は所謂、はじき出されてしまった方の人間だった。まぁ仕方の無いことだとは思う。考えても見てほしい、年がら年中長袖長ズボンのジャージに、隈が酷い目。少ない口数に細すぎる体。授業参観など行事に親が一切来ない子供。これは当然のように関わりたくないの部類に入ってしまう存在なのではないだろうか?否、幼い周りの人間たちもそう判断したのかいじめではないが避けられる生活というのははじまった。

思えばその頃から自分の感情というものに自信が持てなくなっていたのだと思う。

というのも今更だろうけれど。

その格差的な生活は結局高校まで続き俺が卒業するまで続いた。

否、続くのが必然だったのだろう。親が唯一俺にかけていた頃の名残で有名な私立の小中高と一貫校に通っていた俺は、エスカレーター方式であったというのもあってか変わらないメンツだったため途中編入で入ってきた新しい人間を取り入れてもすぐさま大勢の方にそれは取り込まれてしまった。大勢と少数、99人と1人。普通に考えて味方になるなら99人だろう。

だからだろう、結局味方という味方も居ないまま卒業間近にまでなってしまった高校3年の夏。1番周りの青春が色濃くなり、将来に向けてみんなが本格的に動き出す時期。俺は逃げ出した。宛もなく、目標もなく、逃げ出した。ただひたすらに逃げだした。こんな所にいてはダメだ、とか、そんなくだらない正義感や孤独のような感情は持ち合えわせていない、そんな綺麗事で逃げ出したわけではない。かといって俺はこんなところ出て行ってもっと大きな人間になるんだ、なんていうような高い志だって持ち合わせてはいない。全くの意味も理由もなく俺はその場所から逃げることを選んだ。そしてたどり着いたのがここ、東京である。キラキラとしていて輝かしくて素敵でここならどんな人間でも受け入れてもらえるんじゃないだろうかなんて思わせることだけは上手いその場所で。俺は立ち尽す。ここなら、変われるのではないだろうか、と。そう信じていた。

信じて疑わなかった。


だが、現実というものはあまりにも残酷だった。

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