刻を操るべく旅立った物語は今も月の砂漠を彷徨っている

ギア

刻を操るべく旅立った物語は今も月の砂漠を彷徨っている

■ 自主企画のお題:

 以下の要素が三つ以上ある新作、

 一つでも当てはまっている既存作


 ・百個

 ・百人

 ・死亡

 ・生存

 ・最後の一つ

 ・制限時間

 ・砂時計

 ・砂

 ・ガラス瓶

 ・棚に陳列

 ・時間操作

 ・刻属性

 ・水とか資源の残量


■ 本編


「というわけで13個のお題なんだよ、ジャック」

「え? いや、説明を全部終えたあとみたいな内容から会話を始められても困るんすけど……あと俺の名前は木村っす。ジャックじゃないっす」

 2人きりしかいない部室で、まるですでに前置きがあったかのように部長から話しかけられた俺は、困惑を隠しきれないまま顔を上げた。そこには生物室の黒く大きな机に腰をかけた細身で長身の女生徒が顔の半分を片手で覆いながらもう片方の目でこっちに鋭い眼差しを向けていた。

「安心しろ。たとえ今生の貴様がジャックという名を忘れようとも、私は共に命を懸けて戦ったその名を決して忘れない。必ずこの手に貴様の記憶を取り戻し……」

 顔に当てていない方の手を一度高く振り上げてから強く握りしめつつ振り下ろし、その拳を震わせてながら熱弁を奮っている部長の注意を引こうと俺は手にした文庫本を大きく振った。

「あの、その件は俺の中で解決済みなんで、お題のほうの話をしたいっす」

 なんだか最近のジャックは冷たい気がする、とかなんとか言いながら不満げにスマホを操作し始めた目の前のこの人は文芸部の部長、笹浪ささなみアキラ。その名前に加えてショートカットと呼ぶにも短すぎる髪型とほとんど膨らみのないスレンダーな体型のせいで女性らしさはほぼスカートのみだ。美人というよりカッコいい。女子に人気がありそう(偏見)。

 ちなみにバッサリと髪を切ったのは2年生になった今年かららしい。何か理由があるのかと聞いたら「なんというか、うん、覚悟だな」と頷いていた。何の覚悟かは教えてくれなかったので正直良く分かっていない。

 この件に限らず、奇妙な言動の多い部長だが、個人的にその極めつけは初対面のときのやり取りだ。

 新入部員の挨拶の際に「1年生の木村きむら大輔だいすけです。よろしくお願いします」と名乗ったら「そうか、じゃあ、あだ名はジャックだな」と返されて、それ以降はひたすらジャックと呼ばれている。

 理由を聞いたら、木村という名字が漢字で11画でトランプの11はジャックだから、と説明された。いや、説明になってるようでなってないだろ、それ。つうか、名乗った数秒後にそれ思いついたのか、この人。

 まあ、もう理由はどうでもいいが、部室だけならまだしも学校の廊下ですれ違ったときにまでそう呼ぶのは本気で勘弁してもらいたい。クラスメートに定着しないよう細心の注意を払っているが、時間の問題かもしれない。

 そんなことを考えているあいだに部長はスマホで目当ての情報を見つけ終えたらしい。

「はい、これ」

 部長が向けてきたスマホの画面は見慣れたデザインのサイトだった。

 ネットで誰でも文章を発表できるプラットフォームの1つである「カクヨム」だ。もっとも見慣れているのは部長に散々見せられてきたからであって、俺自身は古めかしく無料ホームページの個人サイトにアップしている。部長はカクヨムに活動していると言ってはいるが、未だにユーザ名を教えてくれないので本当に活動しているかは分からない。

 画面は、そのカクヨムでユーザが好きに立ち上げられる自主企画のページだった。どうやら用意されたお題を使って短編を書くというよくあるタイプの企画のようだ。13個のお題が用意されておりそれらのうち「3つ以上ある新作」もしくは「1つでも当てはまる既存作」を募集していた。

 なるほど。部長との付き合いもそろそろ数ヶ月に及ぶこともあり、この企画を読んで部長がどんな結論に達したかは予想がついた。

「というわけでこの13個の要素が全部が入った短編をこれから私たちで考えるわけだが」

 まあ、そうなるよな、部長の性格なら。

「了解っす」

「……ちょっとは嫌がる素振りを見せてくれないと私としても無茶ぶりのしがいがないんだが」

 部長の理不尽な要求をガン無視しつつ、あらためて差し出してきたそのスマホの画面を見る。うーん、小さい画面を眺めながら考えるのはめんどいので、とりあえずお題を全部紙に書き出してみるか。

 机の下に置いていた通学用の鞄から授業のノートを適当に取り出し、未使用のページを1枚破り取る。そこにお題を1つ1つ書き写しながら思ったことを適当に口に出す。

「なんかこれ眺めてるだけで1つの物語っぽいっすね」

 紙に書きだしたお題リストを眺めながら俺がそう言うと、腕組みした部長が目を閉じながらうんうんと頷く。

「お、ジャックもそう思うか。分かるぞー。私も同じ思いだからなー。よく分かるー。分かりすぎるぞー、ジャック」

「その勢いで俺の本名も分かってもらえないっすか」

「で、最初のお題が【百個】なわけだが」

 俺からのお題も聞いてくださいよ、と訴えてもどうせ無駄と分かっているので、その言葉をぐっと飲み込む。それからあらためて部長の言葉に感じた疑問を返す。

「そういえばお題って頭から順番に登場させていきます?」

「いや、別にそういう縛りは考えてなかったが、どうしてだ、ジャック」

「ほら、こないだのあれ、覚えてます? 特定のセリフを全部使って短編を書く、っていう自主企画っすよ。あのとき、主催者の出してきた順番で使ってませんでしたっけ」

 あと俺の名前はジャックじゃないっす、と最後に一応礼儀として付け加えておく。いつか何かの間違いで「そうか。じゃあやっぱり木村って呼ぶわ」ってなるかもしれない。可能性としては無きに等しいが諦めたらそこで試合終了だ。

「ああ、あれはセリフをそのまま使う企画だったからな。今回はあくまで要素だろう? 世界観や情景レベルで用いて欲しいということだと私は考えてる。例えば【最後の一つ】というお題は、別に文中にそのものの言葉が出てこなくても結果として1つ残されたものがあればお題は満たせるはずで……」

 生物室の広い机の上に片足だけあぐらを組んだまま語り続ける部長はすごく楽しそうだ。奇行が目立つ部長だが、創作に関わる話題のときだけ無防備で無邪気な姿を見せる。普段との落差もあいまって、ぶっちゃけ可愛い。ずっと見てられる。恥ずかしいから言葉にはしないけど。

「んじゃ、とりあえず順番考えずに全部の要素が入ったストーリー、ってか世界観を考えてみるってことでいいっすか」

「おう、いいぞ」

 ニッと笑う。

 可愛い。

 これに気づかなければとっとと部活辞めてたんだけどなあ……まあ、後の祭りか。とりあえず創作に精を出そう。

「ちょっと要素が多いんで似たお題をまとめてみますね」

 ノートの左端に書き写しきったお題のリストから4つを選んで斜線を引いた。それからあらためてその4つを右側に書き出して、大きく丸で囲ってみる。


 ・砂時計

 ・砂

 ・ガラス瓶

 ・棚に陳列


「とりあえずガラス製の砂時計やガラス瓶が棚に並んでる風景を出せばこの4つのお題は達成っすよね。つーか、【砂時計】を出せば自動的に【砂】も達成したことになりますよね、これ」

 ちょっと呆れ気味にそうこぼした俺の言葉に、しかし部長は否定気味だった。

「いや、個別に出してきた理由は分からんでもない。砂時計という言葉から受けるイメージと砂という言葉から受けるイメージはまったくの別物だ。

 砂漠を舞台にした空虚で無常な世界観の物語なら【砂】というお題にふさわしいかもしれんが、【砂時計】が物語の中心にあるからといって同じ印象は受けんだろう? 最終的には主催者しか分からん話だが、やっぱりそこはきちんと別として扱いたいな」

 分かったような分からんような。

 でも、まあ最終的にこれは部長の物語だ。

「部長がそう考えるんであれば【砂時計】と【砂】はちゃんと別々にクローズアップしたいっすね。例えば……ある特定の地域の砂しか用いない砂時計なんすよ。それでオープニングは、視界いっぱいを占める棚に、無数の【砂時計】が綺麗に隙間なく陳列されている風景からスタートするっす。ただそこに黒い小さな染みのようにぽっかりと1箇所だけ、砂時計1つ分のスペースが空いてるんです。本編は、そこに置かれるべき最後の【砂時計】を作るために主人公が空の【ガラス瓶】を持って月の砂漠に【砂】を取りに行く物語になるっす」

「月の砂漠?」

「適当に言ったんで流してください。えーと、次は……」

 今度はお題のリストから5つを選び斜線を引く。そして先ほどと同じように右側へそれら5つを書き出してこれまた大きく丸で囲った。


 ・百個

 ・百人

 ・死亡

 ・生存

 ・最後の一つ


「常にメンバー数が【百人】で固定されている組織があるんすよ。組織に加わるには今いるメンバーの1人と決闘してその座を奪わなければいけない、みたいなパターンっす」

「目新しくはないが、だからこそ分かりやすいな。いいぞ。続けろ」

「んでメンバーに加わることに成功すると、証として何かアイテムを授かるっす。1人1個なんで全部で【百個】っすね。そのアイテムが【砂時計】ってことにしてもいいですし、なんか別のアイテムでもいいんで、とりあえずそこは保留にするっす」

「うむ。許す」

 許された。

「物語の冒頭では、その百人評議会が……」

「百人評議会?」

「いや、別に何でもいいんすけど、名前がないと不便なんでとりあえず」

「分かりやすさは美徳だ。許す」

「冒頭でまずこの百人評議会が襲撃されて皆殺しにされた……と思いきや生き残りが1人だけいた、っていう展開か、もしくは1人ずつ殺されていって最後に1人だけ生き残った状態から話をスタートっていう展開なら【死亡】と【生存】のお題がクリアできるっす。その最後の生き残り以外の99人からアイテムが奪われてれば、自動的に主人公の持っているアイテムが【最後の1つ】のお題を満たせるってことで」

「ん? それだと100人全員が死亡してなくないか?」

 部長がクキッと大げさに首をかしげる。

「え? なんか問題なんすか、それ」

「いや、うーん、100人の生きてるキャラがいたり、100人が死んでたりしないとなんかお題を満たしてないような気がして……誰かしら死んでるだけで【死亡】ってお題を満たしてる、って言われると……お題が緩すぎる気がするんだが? そんなこと言ったら大抵の話は1人くらい死んでるだろ」

「そりゃーまあそうかもしれませんけど、99人も死んでればインパクト的に十分じゃないっすかね。細かく考え過ぎな気がするんすけど」

「そうかあ? そうかなあ?」

 机の上に座ったまま不満そうに体を大きく左右に揺らす。どうでもいいが部長は髪の毛もバッサリ短く切ってるし、胸もないので、それだけ大きく体を振っても何も揺れない。

「……お前、今どこ見て何考えてた?」

 やべ。

 話をそらそう。

「まあ、そこらへんは部長に任せるっす。俺が書くわけじゃないんで適当に変えてもらっていいっすよ」

 俺はあくまで案を出してるだけだ。

「そうだなあ……考えてみたら主人公の代わりに抜けた奴がいるわけだよな。そいつがそもそもの100人目なわけだ。どうしようかな。冒頭で予言っぽい詩でも入れて、100人の死の暗示でもしてみようかなあ……」

「ああ、見立て殺人的なあれっすね。個人的にそういうの好きです」

「私も好きだぞ」

 なんか面と向かって笑顔でそう言われるとドキドキするな……いや、そういう意味じゃないの分かってるけどさ。

 自分の顔が赤らむのを感じて、慌てて話をそらす。

「この全滅寸前になる百人評議会の設定と、最初に話した棚に砂時計が陳列されてるっていうオープニングとを絡めるなら……どうしましょうかね。99人を殺害した犯人が、その戦利品である99個のアイテム……つまりは砂時計を1つずつ棚に陳列していくシーンがオープニングなんすよ。犯人が綺麗に血を拭った99個目の砂時計を置いて、殺し損ねた100人目の砂時計を置く予定の棚の空白に感情の無い目を向ける」

「それだと最後の1個はもうすでに存在する砂時計にならないか? これから作る、ってのとはイマイチ合わない気がするぞ」

「そっすね。じゃあ、ちょうど新入りの百人目が加わる直前だったってことでどうっすか。彼は……まあ彼女でもいいんですけど、ちょうどその『自らの砂を採取しに行く試練』に出かけていて不在だったがゆえに襲撃を免れたんすよ。これから犯人に追われるっす」

「ふむ。整合性は取れている気がするな。よし、続けろ、ジャック!」

「ジャックじゃないけど、続けます」


 ・制限時間

 ・時間操作

 ・刻属性

 ・水とか資源の残量


「【制限時間】っすか……主人公に課せられた試練には期限が切られてるってことでいいんじゃないっすかね。【水とか資源の残量】は……砂漠に出かけるに際して所持できる飲み水の量が制限されてて、その水の残量を適宜描写することで満たせないっすかね」

「資源っていうのか、それ。上手く言えないが、なんかこう……飲み水だと所持品か、よくて財産って感じしかしないんだが」

「もっとマクロじゃないとそれっぽくないってことっすか?」

「手持ちの飲み水を資源だと言い張るのはちょっと抵抗がある」

 正直、俺はなんら抵抗感もないが、依頼主がそういうならしょうがない。

「じゃあこうしましょうか。百人評議会の存在理由、それはこの乾いた世界における水を初めとした資源の管理なんすよ。どう管理しているか? それこそまさに評議会のメンバーにのみ行使が許された【時間操作】の能力によって管理されてるわけで」

「お、来たな、時間操作」

「各人の持っている砂時計が媒介になっていることは確かなんすけど、評議会の砂時計があれば誰でも時間を操れるかというとそんなことはなくて【刻属性】の人間だけが砂時計によって自身のパワーを増幅させて時間を操作できるっす。評議会は10年おきくらいで領地の端から端まで人を派遣して、各地の子供たちの属性資質を測るんすよ」

「属性資質を測る?」

「こう……何かで測るっす」

「何かで……まあいいや。そこは適当に考えるわ」

「ラジャっす。好きに決めたってください。んで最近欠けた百人目の穴を埋めるために王国中に派遣された調査隊の……」

「おや。舞台は王国だったのか」

「時間操作やら砂時計やらやってる時点でもう西洋風ファンタジーかなあ、と思って王国にしたんすけど、ダメっすか」

「いや、よく分かるぞ、やはりジャックとしてはキングとクイーンを立てないわけにはいかんしな」

 心底分かる、みたいにうんうんと頷くの止めてくれ。

 そんな意図あるわけないだろ。

 つうか、その場合、エースってどうなるんだ? 主人公か?

「ちなみに私としては砂時計と和風を組み合わせようとすると大正以降なイメージがあるな。時代考証したわけじゃないが」

 へえ。

 個人的には砂時計という時点ですでに西洋のイメージが強いが、確かに日本でも砂時計が使われてるわけで偏見良くない。しかしマジで日本だといつ頃から砂時計って使われてるんだろうな。ちょっと気になる。

「何にせよ王国である必要はないっすね。どうします? 共和国とかにしときますか?」

「いや、構わん。そこらへんはあとで好きにするからとりあえず王国で話を進めろ」

「ラジャっす。あと全然関係ないっすけど、個人的には、互いに暴走を防ぐため監視しあう形で機能を二分している王権派と評議会派が、表向きは協調しつつも裏では互いに主導権をを握ろうと暗躍している、みたいな感じの話は好きっす」

「それ書くのめっちゃ大変なやつだなあ」

 困ったような口調ながら妙に嬉しそうな顔をしている。

「本の冒頭に登場人物紹介が必要になる奴っすね」

 銀河英雄伝説とか登場人物紹介だけで文庫の冒頭に4~5ページくらいあったような気がする。

「つーか書くのは部長なんで」

「ふふ、ジャックもなかなか言うようになったじゃないか」

「だからジャックじゃないっす」

「それは言うようにならなくていい」

 言わせてくれ。

「話を戻すと、つい最近欠けた100人目の穴を埋めるために各地から集めた子供たちがいて、そのうちの1人が主人公。その子が試練の旅に出た直後に99人が殺されるっす。本当は出かける前にまとめて殺すつもりが、なんかの手違いか、単にせっかちな主人公が予定より早く出かけたとか」

「せっかちな主人公もいいが、手違いに見せかけた誰かの思慮遠望とかも捨てがたいな」

「いいっすねえ。ぜひ終盤で犯人に向かってその人に『あれが手違いだと思っていたのか? だからお前は私を超えられぬのだ』とか言って欲しいっす」

「めっちゃ分かる。でも主人公のキャラを立たせるチャンスも捨てがたいなあ」

「そっすね。ああ、そういえば、せっかちとか直情ってのもいいんすけど、虫の知らせとか第六感とかの危機察知系の特殊能力で危険を回避できるってのもよくあるパターンっすね。危険が近づくと靴ひもが切れたり、うなじがざわついたりするキャラいません?」

「それな。あれ? うなじがざわつくといえば……なんか最近読んだ小説にもそういうキャラいたな……ああ、そうだ、『パラサイト・イヴ』だ」

「個人的に思い出すのは『パンプキンシザーズ』っすね」

 しばらく前に漫画喫茶でまとめ読みしただけなので序盤しか知らないが、今もあの設定はちゃんと残ってるんだろうか。もう完結してるかもしれないし、今度まとめて読むか。

「その小説知らんな。どんな話だ」

「小説じゃないっす。漫画っすね。いや小説版も出てるのかもしれませんけど……とりあえずアニメ化はされてました。途中までしか読んでませんけど面白かったっす」

「ふーん。ギャグ漫画?」

 なんでそう思ったんだ。

「ギャグシーンもありますけど基本はシリアスな軍隊ものっす」

「じゃあいいや」

 ありゃ。説明ミスったかな。もっと上手く興味を引けるような説明ができた気もする……けど、まあそもそも話が横道にそれまくってるからこれで良かった気もする。

「んで、どこまで行きましたっけ。次のお題は?」

「えーと……あれ? もうこれで全部終わったな。お題は全部使ったはずだ」

「じゃあ、あとは部長が書くだけっすね。ところで締め切りってあるんすか」

「あるぞ。自主企画は必ず期限が……あれ?」

「どうしたんすか。まさかまた締め切り過ぎてました?」

 以前、自主企画のための文章を書いている最中に気づいたら期限が過ぎていて部長のやる気が失せてしまい未完のまま放置ということがあったので、またそれかと思って焦ったのだが、どうやら違うらしい。

「嘘だろ……企画なくなってるぞ、おい」

「へ?」

 部長に向けられたスマホの画面を見るとカクヨムのサイトの検索結果で「お探しのページは見つかりませんでした」の文字が大きく表示されている。

「運営に消されたんすかね」

「理由は分からんが、おそらくは主催者が企画を取り下げたみたいだな」

 期限まであと6日くらいはあったはずなんだけどなあ、と器用にスマホをクルクルとペンのように回しながら部長が残念そうにため息をつく。

 完全にやる気が失せたのが良く分かる。

 俺としてはせっかくここまで考えたんだし、企画関係なしに書けばいいのにと思わないでもないのだが、それと同時に「企画という誰かに見てもらいやすい環境」が失われたこと、加えて「締め切りという分かりやすいゴールライン」がないことがいかにモチベーションの維持に関わってくるかも理解できる。

 かくして、【百個】の【砂時計】によって【時間操作】の魔法を駆使することで【水とか資源の残量】を管理する【百人】評議会、その評議会メンバーに加わるべく、月の砂漠で【ガラス瓶】に指定の場所で【砂】を詰めるための【制限時間】付きの旅に出かけた【刻属性】を持つ主人公は、その探求を命じたメンバーが全員【死亡】しており自分が唯一の【生存】者であることも知らず、かつ、保管庫の【棚に陳列】されていなかったことで敵の手に落ちるのを免れた【最後の一つ】となる砂時計をその手で生み出そうとしていることも知らず、決して明けることのない砂漠の夜の下で今も彷徨っている。

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