第7話 馬鹿と思っていてすみません

 後日、魔法石を補充してもらうためにエイリークと魔道具屋へ向かう途中、例の令嬢が突然絡んできた。


「貴女が余計なことをしなければ、グレゴオール様と知り合いになれたの!彼は好感度が他は80%台で殿下を90%台まで上げた時だけ出てくる隠しキャラで調整が難しいのに、未だに紹介されないってどういうこと!?帰っちゃったじゃない!殿下に紹介して貰えるはずだったのに!」

 何を言っているのか全くわからなかった。グレゴオールって隣国の第一王子じゃなかったけ?


「選択肢は全部合っていたはずなの!脳筋野郎の好感度を上がり過ぎないようにするのは大変だったし、魔法馬鹿のつまらない話を一生懸命聞かなきゃいけなかったし、陰険眼鏡はとにかく面倒な性格だし、殿下は話が通じなくて本当に大変だったのに!」

 二人して全然意味がわからないので顔を見合わせた。その様子を見て、泣きながら走って行ってしまった。

 何か、ごめんね?


「ところであの方、どこのご令嬢かご存知?」

「いや、知らない。興味がなかったから」

「でも、私達がつけていたあだ名と同じだったわね?案外気が合うのかしら?」

「いや、どう考えても仲良くなれないタイプだと思うよ」

「そう?」

 いくらなんでもあんな意味不明な人間は無理だろう。会話が成立する気がしない。しかも、神経質眼鏡じゃなくって、陰険眼鏡って言ってたし。


 その日の夕食から、エイリークはちゃんと俺を名前で呼んでくれるようになった。


「急にどうしたの?」

「ありもしないことを捏造されては困るから、一応お互いの為に敢えて名前を呼ばなかったの」

 最初からエイリークと殿下が色々と考えていたことが分かった。


「ねぇ、今日の本題はそれじゃないの。魔法石に魔法を刻む技術、特許登録しない?」


 驚いて詳しく聞くと、貧乏性の俺が少しでも魔法石が長持ちするように必死に考えて刻んでいた魔法は、かなりの技術になるらしい。

 特許登録ができれば、かなり高額で安定した収入を得られることになると聞いて、二つ返事で手続きをお願いした。


 手続きに関する知識も、それに必要なお金も俺にはない。商品化するノウハウもないので、全てエイリークと伯爵家にお任せすることにした。

 エイリークは騙したりするような人間ではないので、丸投げだ。ますます伯爵家への借金が膨らんでいくように思うが、収入が欲しい。自力でご飯を食べたい。試行錯誤万歳。


 学院卒業直前に、殿下からの発表がされた。内容は思っていたより具体的で酷かった。


 陛下と王妃様がまだ幼かった黒いお兄様とエイリークの命を盾に伯爵を脅迫した話とか、伯爵家が王家との婚約に感謝して自ら差し出したとしていたが、実際は書類提出の際に役人に賄賂を渡し、伯爵家とエイリークが同意したように偽装していたとか。


 しかも、今後の特許もエイリークから奪う為に、殿下の名前で特許登録を目論んでいた。

 それを殿下やその協力者が妨害したために、エイリークが特許を取った商品から少しでも利益が増やせるよう、工場長などの関係者を買収して粗悪品にすり替えていたことまで。

 陛下と王妃様の悪行が出るわ出るわ。


「よくあの両親で殿下はまともな人に育ったね」とエイリークに言ったら、「お二人は子育てなどする気はなく、乳母や側近に育てられたと殿下は言っていたわ」と返事が来た。


 親の愛情を貰えなくて寂しい幼少期だったかもしれないけれど、あの親に育てられずに良かったね!碌な死に方をしない王子になってそう。

 殿下はこれまでの非常識な行動は婚約破棄の為に必要で、周囲に誤解を与えたことを謝罪した。

 また、今回の婚約破棄、伯爵家への特許料の返還や他の支払いで合法的に陛下と王妃様の引退が決まったと言った。


「どういうこと?」

「法律で国の財政を極端に傾けたり、私欲に走った王族を断罪できるのよ」


「へぇ。婚約破棄する前から出来なかったの?」

「書類は完璧で証拠は私たちの証言だけだったから、難しかったの。でも、今回の件で二人は借金まみれ。法律を適用できるようになったのよ」


「なるほど~」

「それで殿下が実権を握って、過去の犯罪を暴いたってわけ。証拠は陛下や王妃様の私室、陛下と王妃様直属の人から集めたそうよ」


 殿下は商人などにも協力を要請したようで、陛下や王妃様のコレクションをオークションなどにかけて売り払うので、興味のある方はご参加をとこの発表を締めくくった。

 売却して出来たお金は、粗悪品に騙された顧客への返金対応と被害者である伯爵家へ支払いするお金に回すとも言っていた。


 オークション後にそれなりの額になったと伯爵家へ支払いもあったそうだが、まだまだ足りない。陛下と王妃様は今はただ引退した前国王と前王妃でしかないけれど、既に予算はゼロ。

 今後は裁判が行われ、二人の悪事に関わった人も含めた全員が労働刑に処されるでのではないかとの事だった。借金の返済をしなきゃいけないもんね。


 しかも裁判には伯爵家側の証人として、殿下も出廷すると聞いた。

 殿下は特許料に一切手を出してはいないが、同じ王族として責任を取るとして、自分にあてがわれる予算からも伯爵家へ返済をしている。

 本当にただの馬鹿だと思っていてすみませんでした。


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