第18話 海底の宝箱探し
リンクルと別れる。海底から宝箱を引き上げるための装備を売る道具屋に行く。
足ヒレ、潜水スーツ、ライト付き潜水帽子、自動で充填される魔法の空気タンクを揃える。
最後に二十個の浮力玉を買って、合計約二十五万リーネの出費となった。
翌日、ログインすると、マンサーナ島は晴天に戻っていた。
(晴れている、晴れている。やっぱり、マンサーナ島には晴天が似合う)
遊太はパンツを海水パンツに着替えて、上からシャツとズボンを着ておく。
港に行くと、茨姫が待っていたので合流する。
「今日は海底を探索して遊ぶ。手伝ってくれ」
茨姫は元気よく遊太の誘いに応じた。
「行きましょう。船長。面白い遊びなら大歓迎ですよ」
船を出して、魚群探知機を海底探査装置に交換する。
荷台に魔法の空気タンクを積んで、港を出る。
「俺は海底探査装置の画面に集中したい。船の操縦を頼めるか? 操縦は難しくない」
「こんな広い海なんだもの。衝突の危険性はないでしょう。いいわ、船は私が操縦は任せてください」
遊太は海底探査装置の画面を注視する。
海底探査装置の真っ黒な画面に、魔力の流を現す黄色く薄い帯が見える。
帯が乱れる場所に何かが眠っている。
漁船を操縦しながら茨姫が話し掛けてくる。
「人数が二人で、貨物船もなしだから、目当ては宝箱ですよね?」
「そうなるな。沈没船の荷を引き上げても、ヴィーノの街まで持って行く手段がない。品物を集めて、貨物船を持っているプレイヤーを探そうにも、マンサーナ島の貨物用倉庫は復旧していない」
倉庫には貨物用倉庫と荷物用の倉庫屋の二種類がある。マンサーナ島にある大きな物や重い物を入れられる貨物用倉庫はまだ復旧していなかった。
荷物用の魔法の倉庫屋は復旧していた。魔法の倉庫屋は預けた品を別の倉庫屋から引き出すことができる。ただし、貨物用と違い、大きい品や重い品は倉庫に入れられない。
茨姫はむすっとした顔で話を続ける。
「仮に貨物用倉庫が復旧していても、マンサー島ではオルテガ・バンクが強い影響力を持っていますからね」
「オルテガ・バンクは、貨物用倉庫の利用を喜ばない」
「貨物を持って行っても、何かと理屈を付けて、貨物用倉庫の利用を断わられる可能性が高いですからね」
「漁師ですら支配下に置こうとするんだ。オルテガ・バンクにしたら、海底に目を向ける奴は、面白くない」
話していると海底に小さな反応があった。
「よし、船を止めてくれ。反応があった。海底に潜ってみる」
「海底って言ったって、ここはまだ、マンサーナ島に近いから、水深十mもないですよ」
「ものは試しだ。潜ってみるよ」
海水パンツ一丁になる。足ヒレ、潜水スーツ、潜水帽子を装備した。次いで浮力玉の入った袋を腰に下げて潜水する。
ゆっくりと、海底へと向かうと、水圧で体が押される。また、光もだいぶ弱くなった。
(水深十mで、これか。三十mの作業なら、もっと大変だ。そんな悪条件で沈没船を引き上げるんだから、さすがは海洋冒険クランを名乗る
潜水帽子のスイッチを入れると、海底を照らす光が灯る。
砂地の地面を隈なく捜索すると、朽ちた金属鎧が沈んでいた。
(見るからに、ゴミだな。価値がないけど、海底の美観を確保するために拾っておくか)
遊太は腰の袋から浮力玉を一個取り出す。浮力玉はゴルフ・ボールより一回り大きく、青白い球形をしている。
浮力玉が鎧に吸い付く。浮力玉が仄かに発光すると、鎧に魔法の浮力が働き、浮いていった。
遊太もゆっくりと海面へと向かう。
海上に鎧と一緒に浮かぶと、茨姫の手を借りて鎧を引き上げる。
茨姫はちょっとばかし渋い顔をする。
「どんなお宝と一緒に上がってくるのかと思えば、ゴミでしたか」
「しばらくは、こんなゴミ拾いにも似た宝探しが続くだろう。だが、我慢して付き合ってくれ」
茨姫はつんとした表情でやんわりと意見する。
「すぐに結果は求めませんが、あまり結果が出ないと、考えますよ」
「とりあえず、やってみる態度だ」
茨姫は船を走らせる。遊太が海底探査装置の画面を見る。
反応を見つけて、潜って、ゴミを引き上げる。そんなやりとりが五回も続いた。
茨姫はつまらなさそうに不平を口にする。
「これは
「俺も、うんざりしている。だが、こうなってくると、一つは宝箱を引き上げたい」
諦めずに、海底探査装置を使う。再度、宝箱を探すが、その日は収獲が零だった。
島の道具屋はやっていないので、ガラクタの買い取りはしてくれない。
ガラクタとして売るには、ヴィーノの街まで行くしかない
魔法の荷物用の倉庫屋は復旧しているので、遊太はマンサーナ島の倉庫屋にガラクタを入れる。
マンサーナ島で入れたガラクタをヴィーノの街の倉庫屋で取り出して、売りに行くつもりだった。
夕日を見ながら、茨姫が嫌になった顔でぼやく。
「結局、今日は海底のゴミ掃除をしただけでしたね」
「そう愚痴るな。初日から何から何まで上手く行ったら、気味が悪い」
茨姫の表情は暗い。
「でも、儲けがマイナスは、やる気がしませんよ」
「そうだな。ガラクタを売っても二万リーネも行かない。ヴィーノの街と往復だけで売り上げは消える。消耗品の浮力玉を買い足すから、今日は完全に赤字だ」
茨姫はしょんぼりした顔で気弱に発言する。
「やっぱり、浪漫なんて追いかけなければいいのかな」
「追いかける、追いかけないは、人それぞれだから、否定しない。俺に付き合いたくなければ、別れてもいい。これは、ゲームだ」
茨姫が寂しげな表情で語る。
「私ね。この八百万で稼げるプロ・プレイヤーになりたいんですよ」
「現実的な職として、八百万をやりつもりか?」
茨姫は真面目な顔で答える。
「そうです。八百万は現実と比べて自由で、それでいて、楽しい。そんな楽しい世界でお金を稼げたら、最高だと思いませんか」
「さあね。理想はわかるが、共感はしない。月並みな言葉だけど、面白いことを仕事にすると、面白くなくなる。現に今日は二人で遊んだけど、金銭面からすると、面白くなかったろう」
「今日の稼ぎは八時間以上ログインして、零です。ファースト・フード店でポテトを揚げていたほうが、稼ぎはいいですね」
「ここはゲームだが、決めるのは自分だ。俺はまた明日もログインして、宝箱を探す。一緒にやりたければ、港に来てくれ」
「来ますよ。一日で結果を求めは、しません。そこまで、お金に困っているわけでもありません」
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