零 原稿用紙

逢瀬の涙

逢瀬ノ涙(仮)

              秋叢あきむら 晴太 はるた


 それは遠い宇宙の果てに、美しい機織りの「おりひめ」と、牛飼いの「ひこぼし」がいました。二人は一年に一回、「おうせ」という名前のデートをしていました。そのデートは天の川をまたいでしていました。それを、地球という星の日本の人々は、七夕といって、年に一度きりのお願い事の日としていました。

 そしてその地球でまた、一人の少年と一人の少女が、七夕のお願い事をしていました。

 ある一族を治める長の息子であった伸介しんすけという少年は、夜空を見上げて、お願い事をしていました。

「僕も将来、立派な長になりたい!」

 また、別の一族の農民の家の少女は、同じ空を見上げてお願い事をしました。

「今の戦いが、平和な形で終わりますように」

 実は今、この二人の一族は戦いをしていました。原因はおいしい実のたくさんなる木が多く生えている場所をどっちが治めるかというものでした。伸介はこのような戦いをやめて一緒に治めたらいいと長に言ったものの、長は、「共に治めるなら、必ず奴らは裏切って全ての実をかっさらっていくに違いない」の一点張りでした。そのうちとり返しのつかないことが起こる、そう思っていた伸介でしたが、長を止めることはできませんでした。

 翌日、長は心臓を射抜かれ、亡くなりました。

 戦いには負け、伸介の一族は実のなる土地を奪うことはなく、戦地に送り込んだ農民たちだけを失いました。そのため、伸介は急にその日、若くして族の長にりました。そして、相手の族に降参の文言を書いて送り、戦は終わりました。伸介にはまだ一族の長としてみんなを引っ張っていける自信がありませんでした。伸介はその日の夜、茅葺き屋根の上に登り、星を眺めていました。あれが彦星。で、あれが織姫。今頃あの二人はどうしているのかな。そんなことを想って、伸介は茅の上に寝転んだのです。

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