CHAPTER 16


 GRIT-SQUADと機甲電人六戦鬼は、互いに狙いを絞り熾烈な激闘を繰り広げている。その余波による轟音は、絶えずこの地に響き渡っているのだが。


「さすが、魔人以上だなんて大ブロシキ広げるだけのことはあるぜ。大した火力じゃねぇか、あのデカブツ」

『ギィィィイゴオォオッ!』


 KNIGHTナイトVファイブ-STARスター”とFORTRESSフォートレス-LAUNCHERランチャーの一騎打ちは、その内容故か一際激しい衝撃音を放ち続けていた。


 両腕の多連装砲から雨あられと撃ち出される、弾頭の嵐。その猛襲に晒されているV-STARは、血と煤でボロボロになりながらも、手にした桃色の大盾で弾頭を凌ぎ続けている。

 彼は自らが聖霊剣セイレイケンと呼ぶ短剣を、「魔法」らしき力で大盾に変えていた。その背後で桃色の翼を広げていた天使の影といい、異世界の聖騎士パラディンが見せる戦いはまるで、ファンタジー映画のようである。


『ギィ、ゴォオッ!』

「……だがな、見立てが甘いぜヘンドリクス。この程度の火力じゃあ、魔人には遠く及ばねぇ。見せてやるよ、騎士戦闘術ファイブスター流の真髄をなァッ!」


 やがて、多連装砲の連射が止まり――FORTRESS-LAUNCHERが再装填の動作に入る瞬間。大盾を短剣に戻したV-STARが、一気に動き始めた。

 その勢いにたなびく桃色のマントが、緑色に変わる瞬間――彼の背後に浮かんでいた天使の姿が消え、代わりに緑色の甲虫カブトムシらしき生命体が現れる。


「アイエンゼル、お疲れさん! 行くぜフウカブト! 聖霊召来、スタート・オンッ!」


 走りながら、背後に浮かぶ生命体に声を掛けるV-STARは――右手の手甲ファイブレスターを操作し、その手に握る短剣を緑の大弓に変化させた。

 原理も何も理解できないことばかりだが――どうやら彼は「眷属」のような存在であるあの生命体達を使役し、それぞれの特性に応じた武装を自在に展開・収納する能力を持っているらしい。

 確かに、あの仕組みを科学的に解析し、複製出来るようになれば、機甲電人すら時代遅れになるほどの新兵器が実現するかも知れない。大臣がクーデターを起こしてでも、欲しがるわけだ。


 ――だからといって、これ以上このような悲劇を続けていいわけがない。私は理解できないなりに、せめて彼らの勝利を祈るしかなかった。


「今までは防御に徹して、あんたの手の内を見せて貰っていたわけだが……再装填に掛かる時間は、約10秒程度と見た。あんたにとっちゃあ短いのかも知れないが……こっちとしては長過ぎるくらいだぜッ!」


 短剣を大弓に変身させたV-STARは、走りながらその弦を引き絞り――FORTRESS-LAUNCHERの右腕の砲口に、矢を放つ。内部の砲弾に矢が直撃し、誘爆を起こしたのはその直後であった。


『ギィゴォォオッ!?』

「それじゃあ右腕は使い物にならねぇだろッ! フウカブト、退がれ! 頼むぜ、ガンガイアッ! 聖霊召来、スタート・オンッ!」


 そこから間髪入れず。V-STARは手甲を操作し、そこに嵌め込まれた黄色の宝玉を展開すると――マントを同色に変化させ、己の背後に岩の巨人を出現させる。

 だが。その追撃が始まる前に、FORTRESS-LAUNCHERの再装填が終わってしまった。先ほどのお返しとばかりに、左腕に残る多連装砲から、無数の弾頭が降り注いで来る。


「上等! ガンガイアの力、見せてやるぜッ!」


 だが、V-STARは全く躊躇うことなく走りながら。短剣を黄色い巨拳へと変貌させ――その大質量に違わぬ轟音と共に、全ての弾頭を薙ぎ払ってしまう。

 両者の間合いは、すでに目と鼻の先であった。これほど接近されては、遠距離砲撃型のFORTRESS-LAUNCHERは、その真価を発揮することは出来ない。


『ギゴォォォオッ!』

「ごはぁあッ!?」


 それでも、ただ死を待つ鉄塊に成り下がったわけではなかった。多連装砲では対処できない間合いまで踏み込んできたV-STARに対し――FORTRESS-LAUNCHERは、その下半身を構成するキャタピラに物を言わせた、重量任せの「体当たり」を敢行したのである。

 岩巨人ガンガイアの力を宿した巨拳でさえ、凌駕する圧倒的な馬力。その凄まじい迫力を前に、V-STARの優美な身体は瞬く間に弾き飛ばされてしまった。


『ギィゴォオッ!』

「……へへっ、やるじゃねーか。てっきり、撃つしか能のねぇヤツだと思ってたぜ。そういう往生際の悪さ、嫌いじゃねぇよ」


 彼の全身を覆う白銀の鎧が、さらに傷付き剥がれて行く。それでも彼は、薄ら笑いさえ浮かべて、立ち上がっていた。


「だがな、オレだって倒れるわけにはいかねぇんだ。こちとら、あの日・・・からずっと決めてたんだよ……もう誰にも負けやしねぇって! テメェの正義を、今度こそ勝ち取るってなァッ!」


 今まで、どこか飄々としていた彼の眼が、そこで一変する。白銀のマスクから覗く5色の瞳が、熱く猛るように燃ゆる時――右腕の手甲がスライドされ、蒼い宝玉が現れた。


「もう大丈夫だぜ、ガンガイア! ――出番だ、カイドラゴン! 聖霊召来、スタート・オンッ!」


 その雄叫びと共に、マントの色が蒼く染まり――岩巨人と入れ替わるように、V-STARの背後に蒼き竜が顕現する。短剣もその「切り替え」に応じ、2本の双剣へと姿を変えた。


『ギィッ、ゴォォォオッ!』

「おおっと! ――生憎だったな、聖騎士に同じ技は何度も効かねぇんだよッ!」


 先ほどの重量感に溢れた巨拳とは違い、比較的軽い剣に持ち替えたからか。軽やかなジャンプでキャタピラによる突進を難なくかわし、V-STARはFORTRESS-LAUNCHERの背後を取ることに成功する。


『ギゴォッ!?』

「こんな至近距離で、誘爆なんて狙うわけねぇ――ってか? 誤算だったな、オレみてぇなバカが相手でよ!」


 その行動には、一切の迷いがなかった。彼はなんと、双剣の切っ先を躊躇うことなく、左腕の多連装砲に突き刺してしまったのである。

 内部の砲弾にまで沈み込んだ刃先が、第2の誘爆を引き起こし――FORTRESS-LAUNCHERが全ての多連装砲を失うと同時に、V-STARも爆炎に吹っ飛ばされてしまった。


『ギィィィッ! ゴォオォオッ!』

「……へへっ、なんだ怒ってんのか? 機甲電人にも、感情ってのはあるんだな」


 だが、FORTRESS-LAUNCHERにはまだ、キャタピラによる突進という奥の手がある。対してV-STARは、度重なる負傷によりすでに消耗しきっていた。

 それでも彼は、短剣の姿に戻った聖霊剣を突き立て、立ち上がろうとしている。あの細い体のどこに、あれほどのタフネスが秘められているというのだろう。


「だったらよ……そいつを全部、オレにぶつけてみな。こっちも全力で、迎え撃ってやるからよ」

『ギィィゴォオォオッ!』

「……待たせたな、エンライオン。聖霊召来、スタート・オン!」


 そして彼は、FORTRESS-LAUNCHERとの最後の決着を付けるべく。スライドされた手甲から赤い宝玉を露出させ――恐らく最後の眷属であろう、炎の鬣を持つ獅子を呼び出した。

 咆哮を以て、主人の意思に応える彼の者が、聖霊剣に宿る瞬間。短剣だったその刀身は、真紅の長剣へと変貌し――燃えるような切っ先が、FORTRESS-LAUNCHERに向けられる。


「ケリ、付けようぜ。……あんたとの戦い、忘れねぇからよッ!」

『ギゴォォォオッ!』


 やがて示し合わせたかのように、両者が同時に突進し始める。V-STARの赤い剣か、FORTRESS-LAUNCHERの体当たりか。


 その結末を告げる、金属を断つ・・・・・轟音が天を衝く瞬間。私の眼前に、舞い飛ぶFORTRESS-LAUNCHERの上半身が映し出された。


「――SACREDセイクリッド-FINISHフィニッシュ


 呟かれたのは、「決闘の終わり」を意味する宣言。私の思考が、その結論に辿り着くと同時に――キャタピラの下半身だけとなった「鉄塊」を一瞥していたV-STARは、聖霊剣の先を地に落ちた上半身に向ける。


「地球ではどうだか知らねぇがな。聖騎士の決闘ってのは、殺した相手を晒し者にしないってのが、ルールと決まってんだ」

『ギ、ゴッ……』

「だから。その健闘を称えるためにも、あんたは跡形もなく消し飛ばす――この『霊王剣レイオウケン』で!」


 赤い剣の一閃により、FORTRESS-LAUNCHERの身体が両断された時点で、すでに決着は付いている。その上で彼は、聖騎士としての矜恃に準じて――FORTRESS-LAUNCHERに、最後の手向けを贈ろうとしていた。

 聖霊剣の刀身に集中する、5色の影。この戦いに加わっていた眷属達全ての力が、そこに結集している。


 それはやがて、短剣の先から伸びる巨大な光の刃となり――鉄塊と成り果てたFORTRESS-LAUNCHERを飲み込むほどの、眩い輝きを放っていた。


「これが次元をも穿つ、伝統の刃――霊王剣! 邪悪一掃だァァッ!」


 例えるなら、神の裁き。あまりに神々しいその閃光は、私の視界を埋め尽くすと――振り下ろした先にいた、FORTRESS-LAUNCHERを跡形もなく消し去ってしまう。


 これ以上ない、完全決着であった。


「……この世界にとっちゃ、あんた達はただの兵器で、人形なんだろうがよ。オレに言わせりゃあ……立派な1人の戦士さ」


 そして、「霊王剣」と称していた巨大な光刃が霧散し、元の短剣に戻ると。V-STARはその刃を鞘に納め、天を仰ぐ。


「もし機械にも、生まれ変わりってのがあるならよ。……次は、ちゃんと喋れるクチで生まれて来てくれよな」


 心なしか。白銀のマスクから僅かに窺える、その表情は。

 少しだけ、物憂げであった。


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