第23話「カイさんあなた疲れてるのよ」

 カイさんに呼ばれるまま着いていくと、鬱蒼と茂る森がありました。


 地下だよね?ㅤここ。


「この先だ。もうちょっとだけ歩くが、疲れたなら休むかい?」

「あ、ありがとうございます……。たぶん大丈夫です……」


 殺人チェスのあいだずっと座ってたから、まあ、そんなには疲れていない。

 地下水をたたえた湖が、ヒカリゴケを反射して湖畔の緑を照らしている。

 地下ってなんだろう。


「ここの水を汲んで洞窟の奥に溜めて喫煙所にしたり、物好きなヤツらはたまに泳いだりしてる」

「へ、へぇ……」


 カイさんの説明に、微妙な反応しか返せない。ここ、もしかしてもう地上に出てたりしない……?


「……あ、来たッスよ」


 後ろを黙って着いてきてたユージーンさんが前方を見る。

 メイド服を来た猫耳の女の子……男の子、かも?が出迎えに来てくれた。


 被り物とかじゃない本物の猫耳。

 ガチの、猫耳。


「お疲れ様です!ㅤお迎えにあがりまゃしっ……ごめんなさい噛みました!ㅤやり直します!」


 そしてドジっ子かなー!?ㅤ可愛いなぁ!?


「ぼくはジューン!ㅤケイトさまが趣味で呼び出した精霊です!」


 恵子、何してるの?ㅤあと、趣味で精霊って召喚できるものなの?

 ほんとになんでもありだね。このカタコンベ。


「先程キリシマさまが来て、お菓子をくれゲフン色々と教えてくれました!」


 そっか、ジューンちゃん……ジューンくん?お菓子貰えたんだね。良かったね……。

 確かに性別を超越してる。というか、この世の理を超越してる。

 そもそもこのカタコンベが全体的に色々とぶっ飛んでる気はするけど!!


「アーベルさまとノエさまは音楽性の違いでトラブルにならないよう、1号館と2号館を用意してます。……そして、ケイトさまが指定したのはアーベルさまの方です!」


 出た。音楽性の違い。よくあるやつ。

 死んでまで音楽性の違いで争うのがアーティストってものなの……?


「……って、おいおい。1号館と2号館を日によってどっちが使うか決めてるんだろ?ㅤ2人で個人的に遊んでる時もあるし……」


 あ、これ音楽性違っても程よい距離感で仲良くしてるパターンだ。……じゃなくて、それ、どっちに行けばいいのか分からないってことだよね?


「……そこで、ケイトさまからの言伝です!『当たったら本人に会えるよ!ㅤだけど、外れたら……ふふふ』とのことです」


 ふふふって何!?ㅤ恵子のことだからめちゃくちゃ不安だよ!!


「コインで決めたらどうッスか」

「待て待て、『ふふふ』だぞ、『ふふふ』。もうちょっと慎重に考えようぜ」


 さすがカイさん。わかっていらっしゃる。

 っていうか、むしろ私がカイさんのこと何も知らないくらいですね。ごめんなさい。


「アーベルの方ってのがたぶんヒントだ。心当たりねぇかユージーン」

「さぁ……。あ、でもノエは今日2号館行くって言ってたッス」


 なら消去法で1号館……?

 でも、さっき2人で遊ぶこともあるって言ってたような……。


「ふむぅ……アーベルのやつ、今朝はノエと遊ぶとしか言ってなかったしなぁ」


 あの、すみません、それもう答え出てます。


「分からねぇな……絞り込むには情報がちっとばかし足りねぇ」


 すみません、もう充分ですけど!!

 カイさん、ひょっとしてうっかりさんかなー!?


「……あー、頭が回らねぇ。昨日忙しかったからなぁ。アーベルの野郎、色々と準備があるってんで、しゃあねぇから2号館の改装手伝ってたんだ」


 もう充分なくらい答え出ちゃってるよ!?

 気付いてカイさん!!


「……あれ?ㅤ俺がおかしいんスか?ㅤ答え出てる気が……」


 首を捻るユージーンさん。

 たぶん、今、彼と私は同じ感情だろう。


 数分後、カイさんは自分で気がついてました。疲れって怖いね。

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