第2話『王都炎上!火焔転移砲の業火』

 パルパティア軍本陣は喧騒に満ちていた。

 望遠鏡、コンパスなどの計測器具が机に散乱し、テントを将校が怒号を上げて歩き回る。国王エアハルトと言えども穏やかではない。

「目視にて目標を確認! ……なんだあの数は!」

「報告! 魔界軍カラドボルグ級殲滅型重戦艦一千隻、沖合に巨大な陣形を形成中。間もなく陣形完成する模様。完成と同時に火焔転移砲を発射する砲台となります!」

 思わずエアハルトが後ずさる。先の大戦で先王アーノルトとアルベルトの命を奪った、艦隊陣形による合体技で撃つ火焔転移砲だ。

「か、火焔転移砲の射線に位置するものはなんだ!?」

「お待ちください…………簡易計測完了! ──!?」

 将校が恐怖に震える。

「どうした!?」

「──火焔転移砲、パルパティア王国王都に照準されています!!」

「何だと!!?」

 問いただしたのは宰相ローラントであった。元海軍大将であり武官であったが、アルベルトの推挙により今の職にある。

「被害予想は!?」

「先の大戦で撃たれたのが百隻によるものでしたから、単純計算で十倍、いや、おそらく魔界軍のことですからそれ以上でしょう……!」

 エアハルトが音を立て歯ぎしりする。

「会談の時間を利用して、敵に布陣する時間を与えてしまうとは!」


 ……紅蓮のマーキングが施された魔界艦隊一千隻は中央に隙間をつくり布陣し、その隙間には深紅の魔方陣が徐々に速く回転し、火の玉が生まれる。

 火の玉はまるで怒りを溜め込むかのごとく電撃を纏い、火花を散らし膨張する。種火だ。

 火焔転移砲の火蓋が切られようとしていた──!


 カウントが開始される。

「発射まで、十、九、八、七、六──」

 火焔転移砲の種火がくすぶる。

 同時に、そのカウントに被せて数える者がいた。

「五、四、三、二、──」

 とある軍艦の舳先に青色の魔方陣が回転する。青。これは高貴なる精霊魔法の証だ。つまり──方舟の火焔転移砲だ!

「──一、発射!」

 

 ──業火の奔流が魔界艦隊一千隻に襲いかかる!


 ……黒煙が青空を汚す。

 魔界艦隊は黒焦げになり、溶岩のように赤黒く燃え盛る。

 一瞬だが、着弾は方舟側の火焔転移砲の方が早かった。

 エアハルトが目を見開く。

「こ、これは!?」

 彼は側近の侍従武官に振り向き、問いただした。

「一体誰が撃ったんだ!? 攻撃許可は出していない!」

 側近らが顔を見合せる。

「そう言えば軍務大臣閣下はどこだ!?」

「報告入りました!」

「読み上げたまえ」

「『こちらパルパティア王国海軍連合艦隊旗艦『アポロノーム』。軍務大臣デルラード』……」

 アポロノームとは女神アポロニアにあやかり命名された戦艦だ。元連合艦隊司令長官ローラントが構想した防御魔法結界『イージスシステム』に守られている。

「『先制攻撃により魔界艦隊一千隻の消滅を確認。これより軍務大臣兼陸軍元帥デルラードは敵残存戦力を殲滅する。近衛師団は国王陛下の御身を守られたし。女神アポロニアの微笑みがともにあらんことを』」

 デルラードは強硬派、猛将で知られる若き軍務相である。

「やりすぎだ」

 エアハルトは力任せの軍務大臣に憂い、拳を握りしめた。


     *    *


 アポロノームは艦体腹部からカノン砲を撃ち、無力化された魔界艦隊に斬り込む。もはや敵は無抵抗であり、一方的な掃討戦だ。

ほふれ!」

「軍務大臣! 右舷敵カラドボルグ級殲滅型重戦艦に動きあり!」

「カノン砲発射用意!」

 見れば、重戦艦は溶岩のように赤熱し、火花を散らしながら海を突進している──とてつもない加速だ!

 デルラードは正面に手を振りかざし、叫んだ。

「撃てえ!」

 凄まじい速度にカノン砲が追いつかない。

「撃てえぇっ!」

 怒気を込めて二度目の射撃号令をかけるが、重戦艦には通用しない。

 重戦艦は赤の魔方陣を周囲に展開し、閃光を放ち消え失せた。

「敵消失!」

「敵がどこへ向かったかわかるか!?」

「おそらく国王陛下のいらっしゃる本陣でしょう……!」

 古参将校の進言に、デルラードは色を失った。

「緊急事態だ! 狼煙を上げろ!」


     *    *


 古参将校の進言の通り、カラドボルグ級殲滅型重戦艦はパルパティア王国本島の目と鼻の先に出現した。

「沖合に敵艦転移魔法にて出現!!」

「何だと!?」

 エアハルトは身を乗り出す。

「望遠鏡、肉眼で確認しました。この重戦艦は火焔転移砲陣形から生き残ったカラドボルグ級殲滅型重戦艦と思われます!」

「イージス艦はどうなっている!」

「迎撃を試みていますが……!? 突破されました!」

「敵はどこを目指しているんだ!?」

 観測担当の手から望遠鏡がすべり落ちた。

「…………ここです!!!」

「……あ、ああっ……」

 エアハルトは椅子にへたりこんだ。無理もない。彼は文官なのだから。


 超高速で魔界軍カラドボルグ級殲滅型重戦艦がパルパティア王国本島に迫りつつある!


 ──その時だった。

 パルパティア王国の英雄。最後の希望が現れたのは。

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アルベルト戦記 Ⅱ 外山康平@紅蓮 @2677

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