第32話 イルティス大洋航海(後編)

 僕たちが眠りについて6時間程が経過した時、客船全体に鈍い音が連続して響く。それと同時に大きく揺れて、寝ていた3人はベッドから落ちた。その際僕が1番先に落ちた為、後から落ちてきた2人の下敷きになる。


「うぉっ! 何だ? あ、クアメルごめん。大丈夫か?」


「一体何が…… あ、ごめんなさい」


「大丈夫だよ。それにしても一体何があったのだろう?」


 落下の衝撃で目が覚めた僕達は、この出来事の原因は何なのかを考えていると、客船のスタッフが部屋に飛び込んできた。


「大変です! シーネス13頭とウィンディス3頭が同時に襲いかかって来ました!」


 強力な魔物が複数襲撃してくるか…… こりゃまた厄介な事になった。


「現在空中では鳥人族の方々が奮闘して押しているのですが、海の方がかなり苦戦をしている状況ですので、お客様の中で水中戦闘が得意な冒険者の方を探しております。適切な報酬は出ますし、冒険者の方であればギルドの緊急依頼扱いで戦果によってはランクが一気に上がります。乗船していたギルド職員に聞いた為間違いありません」


 それを聞いた僕は、それはお得じゃないかと思った。それに、僕はロクに依頼を受けていない為ランクはギルドカードを貰った時のままである。上手く行けばランク一気に上げることも可能であると聞けば、このチャンスを上手く生かそうと思った。


「私行きます。水中行動は得意なので」


「そうですか。ありがとうございます!」


「と言う訳で2人とも、行ってくるね」


「そうか。頑張ってな」


「大丈夫だとは思いますが、気を付けてくださいね」


 2人に声を掛けた後、部屋に入ってきたスタッフに襲撃された場所まで誘導して貰った。



 ~イルティス大洋 水中 魚人戦闘団~


 シーネス襲撃の報告を受けた魚人戦闘団は、直ぐに水中に潜って、13頭もの群れと対峙したが、只でさえ強力なのにそれが


「くそ! 数が多すぎる!」


「援軍は来ないのか? このままじゃ不味いぞ……」


「隊長が客船のスタッフに水中戦闘が出来る冒険者を探してくれって頼んだらしいが、何人来るのかわからん。最悪誰も来ない可能性があるぞ……」


「頼むから水中戦闘長けてる冒険者が1人でも来てくれ……」


 そう願っていたその時、上から誰かが猛スピードでこちらに近づいてきた。


「そらぁ!」


 その誰かの叫び声と同時に放たれた水色に輝く槍は、目の前に居たシーネス1頭に当たって爆発した。まともに喰らった為か、瀕死の状態になっていた。


「よし! 今だ!」


 これを好機と見た俺達は、集団で襲いかかって1頭を討伐した。


 その後先程の攻撃の主の方を見ると、凄いスピードで水中を移動するシーネスに追い付くスピードで移動し、手に持っている水色に輝く剣で振り向き様に強烈な魔力を纏わせて薙ぎ払っていた。すると、高速移動する自身の速度と刀を振るう速度が合わさって、まるで柔らかいものを剣で斬るように真っ二つにされていた。


 その調子でどんどん数は減っていき、彼女が討ち漏らした瀕死の奴を討伐しつつ50分後、遂にこれを全滅させることに成功した。


「何と言ったら良いんだこれ?」


「奴が来てから戦況が180度変わっただと……」


「とにかく、これで海の危機は去った。喜ばしいことじゃないか!」


 討伐完了したのでその報告を船に居る人達にした所、みんなで叫んで喜んでいた。今回の1番の立役者である白髪の女性は、船の上に上がったとたん周囲の人達から詰め寄られて疲れていそうであった。今更気づいたが、空中のウィンディスはもう既に討伐されていた。



 ~クアメル達の船室~


「ただいま~」


「お疲れ! 上手く行ったか?」


「うん。ただ、水中探知の範囲が1kmだから時間がかかったけどね。あ、そう言えば後3時間後位にティーテン王国の軍用超速魔法船が20隻来て客船の乗客を運んでくれるって」


「そうなんですね。じゃあ予定よりかなり早く到着しそうですね」


 そんな会話をしながら3時間半後、僕らの部屋にスタッフが来て『ティーテン王国の超速魔法船が来ましたのでそちらにお願いします』と言ってきたので、スタッフ誘導のもと超速魔法船に移る。



 ~ティーテン王国軍 超速魔法船内~


「広いな……」


「確かにそうですね」


 船の外側から見た大きさは大したことはなかったが、中に入ってみると想像を越える広さの船内を見て驚いた。何らかの魔法で空間を広げているのだろうか。


 そんな感じでこの軍船に感心していると、『皆様、本船はティーテン王国に後6時間程で着きますのでしばらくお待ち下さい』とのアナウンスが流れる。


「後6時間だってさ。予想以上に早く着くね」


「そうですね。外の景色でも見ながらのんびり待ちましょう」


 それで、のんびり景色を見たり話をしながら6時間待っていると、目の前に沢山の船が行き交う発展した港町が見えてきた。



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