第31話 イルティス大洋航海(中編)

 船の甲板のレストランで溺れていた子供を助けた後、残っていた食事を済ませて僕たちは船室に戻った。


「クアメルお疲れ様です」


「突然海に飛び降りたときはビックリしたけど、無事に見つけられて良かったな! でも、その子供を何で直ぐに見つけられたんだ?」


「それはね、『水中探知』って魔法を使ったからだよ」


「水中探知?」


「うん。半径1km内の水中に居る生物とか無機物を探知する為に特殊な魔力の波動を円形状に放射する魔法なんだよ」


「へえ~。でも、半径1kmって探知範囲にしちゃ小さくないか? 今回は運良く見つけられたけど、時間が経ってたらと思うと恐ろしいな」


「……その通りだね。探知範囲を広げるためによりいっそう努力をするようにする」


 ミラの言う通り、今回はたまたま探知範囲内に子供が居たから良かったものの、もし見つけることが出来なかったらと思うと恐ろしい。下手すれば何らかの責任を取ることになっていたかもしれない。


「まあ、とにかく無事に助かって良かったですよね」


「確かにな。ところで、これから何する? 今日特にやることないよな。寝るにはまだ少し早いだろうし」


 窓の外を見てみるとまだ夕方と言った所で、確かに寝るにはまだ早いだろう。かといってまたレストランに行って食事をする訳にはいかない。食べたばかりで全員満腹だからである。


「外の景色でも見に行く? 部屋の中でじっとしているよりはマシだと思うけど……」


「そうなりますよね。私もそうしようかなと思っていたところです」


「私もそれで構わない」


 満場一致で外の景色観賞に決まったので、早速行こうと部屋の扉を開けようとした時に扉をノックする音が聞こえる。そのあと直ぐに女性の声で言ってくる。


「すみません。入っても宜しいでしょうか?」


「はい。どうぞ」


 すると、あの時助けた娘の母親が娘と一緒に部屋に入ってくる。


「貴女はあの時の……」


「はい。ティーテン王国の王女スレシア=ルルトラシオと言います。改めてお礼を言いに来ました!」


 何だかどこかの貴族のような格好をしているなと思っていたら、更に予想の斜め上の人物だったことに僕たちは凄く驚いた。なぜなら、普通の客船に一国の王女様が乗っていたからだ。


「ティーテン王国の王女様が何故ここに?」


「実はルエルフ王国との交流イベントに来ていたのですが、着いた途端にミストラークに敵の襲撃があったので急遽切り上げて帰国することになりました」


 成る程。だとしたらヒーティルオン帝国の奴らは幸運である。仮に王女様が帝国のせいで殺されていたなんて事になれば、全面戦争は必至だろう。そうなれば、軍事力でほぼ同格で操竜技術は王国の方が上な為、帝国は大きな被害を受けることになっただろう。


「そうなんですね。あれ、でも普通はティーテン王国の軍船とかに乗って帰るのじゃなくても大丈夫だったのですか? この船普通の客船ですけど……」


「はい。私の意思で行きも帰りもこの船に乗るって決めました。警備の兵隊達も一緒に乗っているので大丈夫です」


 いや、本当に大丈夫なのか? と思ったが、警備の兵隊も居るって話だし、何より当の王女様本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫なんだろう。つくづく前世との常識の違いに驚かされるばかりである。


 その後も他愛もない世間話等で5時間程盛り上がった。


「あ、もう夜遅くなってしまいました。それでは私は部屋に戻ります。楽しい時間をありがとうございました」


「はーい。こちらも楽しい時間をありがとうございました」


 こうして王女様は自分の部屋に戻って行った。


「いや、まさかこんなところでティーテン王国の王女様に出会うなんて思わなかったな」


「ええ、私も思っていなかったです。普通王族の人達が客船に乗ることなんてないですから」


「きっとティーテン王国の王女様って破天荒で積極的な人なんだろう。普通やらないことを平気でやってのけるんだからな」


「確かに。王国の人達や王様は気が気ではないだろうけど」


 そんな会話をしつつ、もう夜遅いので寝る準備をして眠りにつくことにした。

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