コロナ恐怖と自己免疫疾患

 人類とコロナウイルスの戦いが続く中、我々自己免疫疾患を抱える者の恐怖は、人一倍である。それは、ニュースで散々言われている、「高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高い」というフレーズの「基礎疾患を有する者」に該当するのでは、という懸念があるからだ。

 ナショナルジオグラフィックの記事に、基礎疾患別新型コロナ感染症致死率という統計が載っている。そこであげられている基礎疾患は以下の通りである。

 心血管疾患

 糖尿病

 慢性呼吸器疾患

 高血圧

 がん

 ここに、難病、膠原病、皮膚筋炎、は入っていない。だからといって、膠原病が基礎疾患ではないということになるのだろうか? 難病を統計に入れるには、患者数が少なく一般的ではない病気のため、このリストには入っていないだけだと推測する。日本心臓財団の定義づけによると、基礎疾患とは、さまざまな疾患の原因となっている病気を指す、とある。では疾患とは何かというと、病気、と辞書には書かれている。鶏が先か、卵が先か、という話になってきてしまうが、通常の健康を保てないほどの体の不具合をもつ我々は、基礎疾患を有する者、ということになるだろう。

 膠原病などにみられる自己免疫疾患は、自分を守る免疫系自衛隊が、自身の正常な一部も敵と間違えて攻撃してしまう病気だ。自分の免疫力が下がっている我々は、コロナウイルスが体内に侵入したときに、どれだけ抵抗できるのだろう。寛解状態ではあるけれど、人並みの体力はない。COVID-19を発症したら、一気に重篤化してしまうのではないだろうか。

 3月29日に志村けんが亡くなり、日本中に震撼が走った。あんな有名人でもあっという間に亡くなるのだ、という衝撃が日本人ひとりひとりの心に突き刺さった。私も例外ではなく、今まで心のどこかに捨てきれずにいた、楽観視というものが、一気に吹き飛んだ。

 それに加え、ニューヨークに住む旦那や友人から、現地の情報が毎日タイムリーに届く。タイミング悪く、今年2月に肺がんが見つかった義母は、手術をすることができない。病院がコロナ患者であふれているからだ。同じ家に暮らす旦那は、自分はCOVID-19にかかることよりも、自分から母親に移してしまうことのリスクの高さに戦々恐々としている。死体が病院から溢れているというニュースを、同じ土地に住みながら聞き続けねばならない友人。人っ子ひとりいないマンハッタンの五番街を、スーパーマーケットに行くために独り歩く友人。皆、怖いとは言わないが、心の中は恐怖心でいっぱいに違いない。

 毎日状況は悪化していく。数週間前までは、日本のほうが感染者数は多かったのに、一気に状況は加速した。しかし日本政府は、アメリカの状況も、ヨーロッパの緋想も、対岸の火事として認識しているかのような、なんとものんびりした対応をしている。英国の首相さえ感染した病気に、何故日本の官僚は、他人事としか思えないのか。自分の中で不安な気持ちが、がどんどん膨らんでいく。

 この1週間、恐怖心が増幅しすぎて、文章を書くことができなかった。おそらく我々難病患者は、死を健常者よりも近くに感じている。病気と闘い勝ち取った、不完全だけれどそれなりに生きていける体に迫る、未知のウイルス。かかったら、どうなるのだろう。巷で言われている通り、基礎疾患持ちは重症化するのか。そもそも医療崩壊が起きつつあるこの日本で、入院し治療してくれる保証はあるのか。私は苦しんで死ぬだけなのか。怖い、怖い、こわい。

 心が病むと、体が病む。我々は、難病と闘い、勝ち抜いてきた。恐怖心は既に味わってきたものだし、それに耐えてきたという実績がある。恐怖の穴に落ちてはいけない。心から先に落ちたら、体も次に落ちてしまう。だから私はこうする。

1. 毎日少しでも運動

2. 三食きちんと食べる

3. 毎日十分に寝る

4. 好きなことをする

5. もしCOVID-19にかかったときのために、指示書を書く


1. について。家の中いつもやっているストレッチ、20分程度。夜の散歩。近所をサイクリング。人込みを避け、マスクをして、帰ってきたら、すぐに手洗いをする。

2. について。好物は積極的に取り入れる。あれほど旺盛だった食欲も、気が滅入りすぎると減退する。だから好きな物を積極的に3食食べる。

3. について。ちゃんと寝る。睡眠剤は相変わらず手放せないが、とにかく毎日十分に寝る。

4. について。好きなことを探すのは難しい。しかもインドア・オンリーだ。休職期間に映画やテレビはあらかた見た。しかし無理やり探すのだ。ネットフリックスで、いろんなドラマを視聴してみる。5個に1個くらい、好きなドラマにいきつく。自分を楽しくさせるには努力がいる、というのは変な話しかもしれないが、努力はここで使うべきだ。

5. について。自分が動けなくなったら、代わりに誰かが動くことになる。家族や友人、行政の人。その人たちが少しでもスムーズに物事をこなせるよう、私は下記のことを書いた。


* かかりつけ病院の連絡先。保険証の保管場所

* 勤務先の人事担当者と電話番号

* 主人への連絡方法(メールアドレスなど)

* お金の保管先(どこに通帳があるか、など)

* 自宅マンションの管理会社の契約書等の保管場所

* パソコン・携帯電話のパスワード

* 最悪の場合には、Lineの履歴から友人へ連絡してほしい旨

   

 これを書いておけば、対応する人は多少スムーズにできることだろう。加えて、母親と姉にはこのメモの存在を話し、具体的な内容も説明しておいた。メモはダイニングテーブルの上に置いてある。コロナ問題が収束するまでおいておく予定だ。遺書のようで不吉だと思うかもしれない。しかし、現実に備えることは、安心につながる。私はこのメモを用意したことで、多少ほっとしている。

 人生、耐えるしかない時がある。今がその時だ。不安を完全に取り除くことはできない。コロナウイルスがない世界へ行く、という選択肢はない。決して負のパワーに飲み込まれない忍耐。人生なるようにしかならないが、それでもできるだけコロナにかからない努力と、心を健全に保つ努力はできる。持病もコロナウイルスもコントロールできないが、努力は自分自身のコントロール内である。

 共に、耐えよう!

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