第19話 龍の巣の目から鱗

西崎「すげぇとこだったな。日本で言ったら猊鼻渓?のもっと凄い感じ」


真壁「岩手の?」


西崎「そう!行ったことないけど」


関守「明日は船下りしましょう」


西崎「いいっすね!あ、それから昼に会った子に明日案内してもらう約束したんですげど、どうします?」


真壁「えー?時間合うかなぁ?でも地元民情報は凄い有力情報だしな」


関守「じゃぁ、可能ならぁ、船下り込みの終日観光ガイドとしてお願いできないかなぁ?」


西崎「親の許可も必要だろうしね。もう今日は遅いし、明日の朝に聞いてみますね」


《バタン》


西崎「悪い、起こしちゃった?」


真壁「出掛けてたの?珍しく早起きじゃん」


西崎「あの女の子、朝にここの食堂に野菜の配達の手伝いで来るって言ってたから今日のガイドの話して来たんだ」


関守「どうでした?」


西崎「OK!ちゃんと親にも話してきたから。とりあえずガイド料半分は親に前払いしたきた。残りは終わってから女の子に渡すことにしたよ」


真壁「おー!手際いー!」


西崎「まーねー!」


関守「時間は?」


西崎「朝飯食ったらすぐ。8時にロビーでね」


《バタン》


西崎「疲れたなー。楽しかったけど」


真壁「女の子喜んでたな」


関守「ガイド料とは別に内緒のお小遣いあげましたからね」


西崎「それから、またグミもあげたし。グミ好きみたい」


真壁「しっかり収穫もあったしな」


西崎「やっぱあの道路の先が怪しいよな」


関守「まず間違いないでしょうね。ナビのログデータと地図アプリのマッブと照合してみましょう」


西崎「さっき女の子に聞いたんだけど、あの道路の先に行ったことあるんだって。ミャオティンも洞窟の入口は見たことあるって」


関守「あの検問所は24時間体制みたいだったから正面突破はまず不可能でしょうね。もう少し女の子に話聞きたかったですね」


西崎「そう来ると思って明日もガイドお願いしときましたー」


真壁「流石ぁ!今日は珍しく冴えてるねー!」


関守「でも流石にあの検問所は通過できないょ。女の子が地元民でも」


真壁「どうでしょうね?あの検問所の監視員は地元のオジサンがアルバイトしてるような感じだったから女の子一緒ならナアナアの顔パスって訳にはいかないかなぁ?」


関守「監視員は地元民アルバイトだとしても監視カメラも設置してあったから当局が遠隔で見てる可能性高いですよ」


真壁「監視カメラありました?良く見てましたねぇ、気付きませんでしたよ」


西崎「何難しいこと考えてんの?女の子一緒なんだからさぁ」


真壁「だから、女の子一緒でも検問所通過は難しいって!」


西崎「何で検問所通らなきゃなんないの?世の中何でも表があれば裏もあるでしょ。陰と陽でしょ!違うか…」


真壁「裏って、おまえ…」


関守「おぉ!なるほどぉ」


西崎「ミャオティンに行く道は一つだけじゃないってこと!車で行くには確かにあの道路しかないかもしれないけどね。地元民しか知らない元々の生活道路は無数にあるみたいだよ。獣道かもしれないけど」


真壁「あの女の子に何か聞いてんの?」


西崎「えへへぇぇ、ただ闇雲に明日もガイド頼んだりしてないよ。怖いオジサンが見張ってるからあの検問所の先には行けないねって話たら、別の道から回って行けばいいじゃんて言われたんだよ。女の子に」


真壁「マジか?!」


西崎「今日見ただろ?スパイダーマンショウ。同じ集落の知り合いのお姉さんなんだって。元々は見せ物のためにクライミングしてんじゃなくて崖の途中にあるツバメの巣を取ったり、山中の薬草を取ったりするためにこの一帯の方々を歩き回ってるみたい。それは伝統的にこの集落の若い女性達の仕事なんだってさ」


関守「凄いっすね。あ、この集落の女の子達じゃなくて、西崎さんの情報収穫能力!」


西崎「まーねー!」


真壁「たまには役にたつな…」


西崎「去年の春に薬草採りに山に入ったとき、ミャオティンの奥の山の方まで行ったら何か凄いもの見つけたらしいんだわ」


真壁「だとしてもミャオティンは地下洞窟だぜ。船でしか行けないじゃん」


西崎「待て待て!洞窟ってことは天井があるでしょ?洞窟の天井の上は何よ?」


関守「あ!」


西崎「そーです!私が変なオジさ…、じゃなくて、天井の上には普通に地上がある訳ですよ!」


真壁「そっか!どの地面の下にミャオティンの洞窟があるか位置関係特定できれば別の入口あるかもしんねーな!」


西崎「そう!その手掛かりになりそうな話をさ!女の子がしてた訳よ!」


真壁「おめー!冴え切ってんな!流石!裏モノには強いな!」


関守「西崎さぁぁぁん!ナイスですねぇぇ」


西崎「山開き?そろそろ春の時期の薬草採りが始まったみたいだから明日は薬草採りに行きましょう!女の子にはもう言ってあるから」


真壁「観光客のすることじゃねーなぁ」


関守「まぁ、ほら、私達は東洋医学の従事者ですから漢方薬の勉強って体で、観光も兼ねてって」


真壁「う~、少し無理矢理な感もあるけどなぁ。でも仕方無いか。あれ?でも、おまえ、あれだ、地元民の山歩きって、崖登りすんじゃねーだろうな?スパイダーマンクライミング!」


西崎「あはは、さぁ、どうでしょう?そこまでは聞いてない…当たって砕けろ!」


関守「わたし、、高いとこ苦手なんですよねぇ」



格凸河風景名勝区の一帯はあちこちに大小の洞窟が点在し、中でも高さが100mを越えるものなどは圧巻である。

三人は初日の午後に、少しでも早く現地の土地勘を得るため、格凸河風景名勝区の入口である大穿洞まで出掛け、その巨大な天然のアーチ門と、その下に広がる200mを越える長さの洞湖などを普通に観光してきた。


二日目。

西崎が前日に出会った現地の女の子と接触するために、珍しく早起きして今日のガイドの約束を取り付けてきていた。

中国でも有数の観光地であってもやはり地元民の暮らしは裕福とは言えず、小学生位の子供であっても家の手伝いは当たり前の生活習慣となっている。

兄弟の面倒をみながら家事の手伝いをし、家業の手伝いもし、いつ学校に通っているのかと心配にもなる。

この女の子はこの地域でも珍しい家系のようだが普段は農家として、現地の飲食店やホテルなどに採れたての野菜を毎日配達して回っていた。この日の朝も西崎達のホテルに配達があると聞いていたので早起きして会いに行っていた。

配達はかなりの力仕事なので女の子の父親と一緒だったからガイドのバイトの許可を取るのも容易にできた。バイト代の半分を父親に前払いしてきていたのだった。


朝食を終えた三人は早々に女の子と合流してミャオティンのある小穿洞の観光スポットを目指した。

格凸河風景名勝区の主要な観光スポットを結ぶ道路は概ね舗装整備されており、場所によっては道幅が狭いところもあるが移動は意外と楽。

その道路は殆ど川沿いであるため船下りのアクティビティを利用しながら周囲の道路や地形を直に見て探ってみた。

道路の道すがら、建造物は殆ど無いのだが一ヶ所だけ周囲とは雰囲気の違う建物がある。検問所だ。

船下りの航路もこの位置以降は行くことができずにUターンとなった。当然怪しい。

船下りを終えた三人と女の子は再び歩いて検問所の手前まで行ってみた。さも何となくここまで来てしまった感を醸し出しながら。

見ればゲートは手動の簡易的なもののようだが監視カメラが設置されており、守衛なのか監視員なのか、しかしながらどう見ても現地のおじさんアルバイト感のある二人が建物の手前にパイプ椅子に座ってこちらを見ていた。

その場から立ち去るときに女の子に手を振っていたので多分同じ集落に住む現地のおじさんアルバイトで間違いないと思われる。

西崎は、いずれにしてもこの道路の先には陸路も水路も突破は無理であろうと、思わず女の子に怖いオジサンにかこつけて呟いたら、女の子の口からは思いがけないサプライズが。

三人共に視野が狭く頭が固くなっていたので目から鱗だった。

ミャオティンの洞窟入口まで車で行くためには確かにその道路を使うしかないが、この周囲一帯には他にも現地民の生活道路が縦横無尽に広がっており、ほば獣道に近いがミャオティンのある場所まで行ける道があるとのことだった。

現地の若い女の子達はツバメの巣や薬草を採るアルバイトで家計を助けている子が多く、昨年の春の薬草採りのときにミャオティンがあると思われる辺りで何か不可解なものを偶然に見つけたとのことだった。

そうなればもうどんなに険しい道で困難が待ち受けていても、どうやらその道を行くより他に選択肢はなさそうだ。

従って、明日も女の子の案内で山歩き、いや、山登り、単なる観光では済まない探検となることを何となく覚悟した三人であった。正面突破が無理なら裏の手を!




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