第13話 タナボタ

「ガンペイ!」

「カンぺー!」


真壁兄「凄ぇーなぁ!このホテルの大ホールいっぺいじゃん!」


真壁「確かに、、日本からだけでも200弱来てるからね」


西崎「緊張するぅ、クミちゃんどこにいるかなぁ?」


真壁「折角だから色々な人と名刺交換、、あ、もうサラリーマンじゃないか、とりあえず挨拶周りしてコネクション作りしよーよ。俺、留学生スタッフの関守さんに片手無痛刺鍼のやり方もうちょっと聞いておきたいんだよ」


西崎「熱心だなぁ、俺も大阪から来ていたケイコさんに聞いておきたいことあんだよねぇ」


真壁「誰だよ?それ」


西崎「大阪鍼灸学校から参加してたケイコさん。初日の研修の実技のとき組み合った人」


真壁「何よ?手技の質問とか?」


西崎「いや、まぁ、連絡先とか、、」


真壁「クミちゃんに知れたらヤバぇんじゃない?俺知らないよ!」


西崎「親睦!学校交流だよ!帰国したあとも勉強会とか協力したりできるかもしれないじゃん」


真壁「仙台と大阪でどーやって?嘘つけ!んにゃろ!」


西崎「ガハハ!」


真壁兄「あれ!あそこ、伊藤美治でしょ?ちょっと挨拶して来っかな?」


真壁「やめとけよ!挑発すんなよ!ずっとマークしてたんだろ?少し控えとけよ!それより梁瀬社長に挨拶しに行かなきゃなんねーだろ!部外者の参加OKしてくれたんだから。タダで、、」


真壁兄「あーそーだな」


西崎「社長、まだ皆と歓談してて忙しいそうだからもう少し様子見てみましょう」


真壁「ん!社長退室しそうだぞ。トイレかな?」


西崎「追っかけましょう」


真壁兄「おう!ちょ、この春巻美味しいからもう一つ、あぅっ!」


ガチャ


真壁「社長!梁瀬社長!すみません、凄いパーティーですね。毎年こうなんですか?今少しだけよろしいですか?」


梁瀬社長「よう!真壁君!西崎君も!どうしました?ここの中華料理美味しいでしょ?いっぱい食べてますか?」


西崎「凄い美味しいです!高級ですね!こんなの食べたことありませんでした、毎日近くの食堂で食べてましたら雲泥の差です」


梁瀬社長「この辺りのローカルな食堂も美味しいですよ。かなり本格的で安いでしょ?私もたまに食べに出てましたよ」


真壁「西崎は北京市内まで北京ダック食べに行ったんですよ!自分だけで」


西崎「あーー!そーじゃなくて!」


梁瀬社長「ホホホホ」


真壁「社長!スミマセン、ご挨拶遅くなりました。私の兄です。今回部外者なのに飛び入り参加させて頂いた」


真壁兄「初めまして、弟が大変お世話になっております。今日はお言葉に甘えてお邪魔させて頂きました、ありがとうございます」


梁瀬社長「いえいえ、いいんですよ。お兄様はこちらにお住まいなんですか?」


真壁「私も偶然で驚いたんですが、出張で来てたみたいなんです」


梁瀬社長「あぁお仕事でしたか。いつまでこちらに?」


真壁兄「はい、本当は明後日までの予定だったのですが、少し難航してまして今月末まで延期になったんです。調整のため週明けまで予定が空いちゃって、今日はこんな素晴らしいパーティーに参加させて頂けました」


梁瀬社長「お兄様はどのようなお仕事で?」


真壁「兄は厚労省の役人で、東洋医学の活用のための調査研究とかしています。それなので社長にもご挨拶させて頂きたいと思ってました」


梁瀬社長「そーでしたか、何かと縁がありそうですね。今後共よろしくお願いします」


真壁兄「こちらこそお見知りおきを。梁瀬社長のご尊名は日本国内のみならず中国でも伺っておりました。今日は直接お会い出来て光栄です」


真壁「社長、それからもう一つ、お願いなんですが、明後日の帰国ですが、折角なんで私と西崎はまだ春休み中ですし、帰国を延期して兄と一緒に滞在したいと思っているのですがよろしいですか?帰りの飛行機のチケットは持ってますので明日に変更手続きしますしホテルは可能ならこのまま連泊延長出来ないかフロントで聞いてみようと考えてます」


梁瀬社長「それは構わないですよ。あとでうちのスタッフの柳君に言っておくから明日の朝に最後の研修が始まる前に私の部屋に来てください。あ、そうだ、明後日の朝にチェックアウトですが、その後の宿泊は私の部屋を使いなさい」


西崎「社長の部屋ですか?社長も帰国されるから明後日チェックアウトですよね?」


梁瀬社長「私、このホテルの部屋は年間契約してますのでいつでも使えるのです。今月は私もこちらに来ることもありませんし、スタッフとか他の人間も使う予定は無いので結構ですよ。帰国のときにフロントにキーを預けて帰ってもらえればいいです」


西崎「本当ですか!嬉しいです。社長の部屋凄かったですもんねー」


真壁「申し訳ないです!でも大変有難いのでお言葉に甘えて使わせて頂いてもよろしいですか?」


梁瀬社長「いいですよ、その代わりしっかり勉強してくださいね。あれ?そういえば伊藤君も帰国延期するってさっき言ってましたね。彼は宿泊大丈夫なのかな?」


真壁兄「え?!伊藤美治先生ですか?」


梁瀬社長「そうです。面識ありましたか?」


真壁兄「あ、いや、有名な先生ですからお名前だけは、、あとでご挨拶だけでもしたいなぁって思ってました」


梁瀬社長「そうですか、他にも有名な先生方が大勢いますから挨拶されるといいです」


真壁兄「はい、そうさせて頂きます。ありがとうございます」


真壁「社長、おトイレ行くところ呼び止めて長話になってしまってスミマセン」


梁瀬社長「あぁそうでした、トイレでした。それじゃぁ明日の朝に待ってますね」


西崎・真壁「はい!よろしくお願いします」


真壁「聞いたよな?伊藤先生もだってよ、こっちで何かあんのかな?」


真壁兄「いい情報もらったな。今日来て良かったよ」


西崎「早く宴会場戻ってご馳走食べよーぜ。ケイコさんとこにも挨拶に行きたいし!」




梁瀬社長は日本でも全国各地の東洋医学系の学校で勉強会を開催する際はその土地のホテルに滞在するが、日程が流動的で広範囲に渡るため、常宿はあるものの都度予約して年間契約にはしていない。

費用は梁瀬社長が負担するが予約手続きは各地の学校の幹事役がサポートしており、西崎達も勉強会幹事の経験があったため、まさか中国では年間契約していることに驚いた。


伊藤美治先生が研修旅行一行から離脱して単独行動する情報は真壁兄も掴んでいなかった。タナボタだ。

ただ、真壁達の動きも知られたくなかったので伊藤先生からは少し距離をおいた。

とは言え、凄い人数の参加者なので余程注意深く見ていなければどこで誰が何をしていようと分からない。場内は相当にうるさくて会話もままならない。

会場に戻った三人はおのおの違う目的で挨拶をして回ったが、西崎が他校の女子達とベッタリだったところをクミに見つかり大慌てだった。

しかも一緒に帰国しないことをまだ告げていなかったため怒りは更にエスカレートして西崎はもう宴会どころではなくなってしまった。

明日は落ち着かない地獄の一日になりそうだ、、




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