第15話 ノート page14

「パパはおまえの言ってることがよくわからんのだけど……」

「簡単に言うとね、惰性で大学に行くのが嫌なの」

「勉強するのが嫌なのか?」

 心配そうな顔で訊きました。

 私は、パパの言葉に小さく首を振りました。

 勉強が嫌いで拒絶してるのではなくて、社会の濁流のように押し流されそう風潮に対しての抗いでした。

「おまえがそう決心したのなら仕方ないけど、パパとしては出来れば行って欲しいなあ」

「どうしてそんなに大学に行かせたがるの?」

「やはりいまどきは、大学ぐらい出てないとな」

 パパは私の将来を思ってそう言ったのです。

 しかし、いくらパパの思い遣りでもこればかりは素直に受け入れることができませんでした。

 私が頑固だったからです。

「そういう考えが嫌なの。将来とか就職のためとか、結婚の条件にするとか……」

「わかったよ。亜由珂がそれほどまでに言うんなら、パパ諦めた」

「わかってくれたの?」

「ああ、おまえの意思の強いのにパパ負けたよ」

 嬉しくてなって、物わかりのいいパパに思いきり抱きしめて欲しい気持になりました。

「ありがとう、パパ」

 目を細めて言いました。

 パパは、うん、うんと頷きながら、台所で洗い物をしているママにお茶の催促をしました。

 しばらくしてママがお茶を搬んで来ると、いつもと同じお茶なのに、とてもおいしそうに啜ったのです。

 湯呑を置いてパパが

「それとも……」

 と言いかけました。

「なあに」

 私は訊き返しました。

「……短大も嫌なんだ?」

 パパは遠慮がちに言いました。

 私はパパがよき理解者だとばかり思い込んでいた私は、

「短大って、なんか中途半端じゃない?」

 と警戒心を持たずに答えてしまいました。

「2年なんてすぐだもんな」

 そのときパパのペースに嵌まり込んでいるとはまったく気づきませんでした。

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