第4話 古事記との出会い

 私はさっそく神話のことが知りたくて、古事記を注文することにした。この本もまた岩波文庫で結構安価に購入することができた。

「こじきならもっと詳しいことがわかるかも知れないよ」と朝のテレビを見ながらおいしそうにピザトーストをかじっている美知に声をかけた。

「えっ、乞食になるの?」私は憮然として答えた。「おいおい、いくら父さんの給料が安いって言ったって、乞食になるつもりはないよ。ほら、これは神話なんかが載ってる古事記っていう本さ。」

「へえー、なんか難しそうな本ね。これで何がわかるっていうの?」

「この本は魏志倭人伝なんかと同様に太古の昔から日本の皇室のことを記録した歴史書でもあるんだ。」


古事記は、上巻の序段の記述によると、第四十代 天武天皇の命によって稗田阿礼 が口に出して何回も読誦していた皇室の記録「帝紀」と、神話や伝説を記した「旧辞」を、第四十三代 元明天皇の命によって太安麻呂が記録し、西暦712年に献上したものとある。日本の有名な歴史書としては、この他に「日本書紀」という歴史書があり、この古事記と日本書紀の各々の末尾を合わせて、「記紀」と呼んだりする。日本書紀は、日本最初の正史として、舎人親王らの編纂により、西暦720年に完成したが、その成立の経緯は明らかでない。

古事記の構成は、上巻と中巻と下巻の三巻構成になっており、上巻は序段と日本創造の神話、中巻は初代神武天皇から第十五代 応神天皇までの天皇の略歴とエピソードをまとめた記録、下巻は第十六代 仁徳天皇から第三十三代 推古天皇までの天皇の略歴とエピソードをまとめた記録である。


「何となく構成はわかったけど、取っ付きにくい本に変わりはないようね。」

「そうだなあ、でも、まず知りたいのは、神話の話なんだ。魏志倭人伝に記された時代と古事記に記された時代にはどこかに接点があるはずなんだよ。僕の感では、魏志倭人伝に登場する卑弥呼と、古事記の神話に登場する天照大御神は同一人物じゃないかと思っているんだ。」

「だから、この前、父さんは伊勢神宮に行ってお札もらって来たのね?」

「そのとおり、というか、伊勢神宮で不思議な体験をしたんだ。だから・・・」私は、美知と文江にそのときの夢と囁きの話を掻い摘んで話した。

「邪馬台国を調べ始めたと思ったら今度は神様のことを調べだしたのね。なんだか不思議な話だけど、どちらも導かれてるってことなのかしら。」文江が訝って言った。

「でも神話って架空の話じゃない? 歴史と接点なんてあるの?」美知も怪訝そうに言った。

「昔の偉人は、真実を神話や昔話などのカプセルに暗号として組み込んで語り継がせ、理解できる人物や社会環境が整って初めて明らかになるようにしたと思われるんだ。ダビンチコードって映画知ってるかい?」

「知ってるわ。ラングドン教授がダビンチの謎を追う話ね。だから、卑弥呼らしき人は、『隠された歴史の扉を開くのよ』って言ったのね? 」

「そうだと思うんだ。」

「何だかおもしろくなってきたわね。」

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