第3話 卑弥呼との対話

 久しぶりに友人の多歌志からラインのメッセージが届いた。彼はナゴヤドームの中日・阪神戦ナイターのチケットが手に入ったからいっしょに野球観戦しないか?とのことだった。私はあまり野球に興味はないが、松坂大輔が登板するとのことで、それには私も心が動いた。それにスタンドで飲むビールも格別だし、二つ返事で快諾した。

静岡からだと名古屋でナイター見て帰るのはしんどいし、名古屋のホテル予約と新幹線のチケットを購入し、会社には明くる日の有休を出して、準備OK。

 球場に着くと、多歌志はすでにスタンドに陣取ってビール片手にほろ酔い気分だ。「こんな夏の夜はナイターで一杯やるのが最高だね。」

途中からの合流となった私はまだ付いて行けない。さっそく売り子のお姉さんからビールをいただくと、マウンドの松坂に目をやった。今夜は背中を痛めてからの復帰戦ということで期待が膨らむ。4対2で中日リードの6回、フォアボールや高橋周平のタイムリーヒットなどで一挙に4点、8回に阪神が3点返したが、9回終わってみると8対5と中日の勝利に終わった。二人は上機嫌で球場を後にし、栄の夜は更けて行った。


その夜、私は夢を見た。卑弥呼(いや卑弥呼らしき女性)と球場で野球観戦していた。すると彼女が言った。「次のバッターがホームラン打つわよ。」

確かに2ランホームランだった。「どうしてそんなことがわかるんだい?」

「私は伊勢の神様に仕えているから何でもわかるの。」

「伊勢の神様って?」

「天照大御神よ。」

「君は伊勢の神様とどういう関係なんだい?」

「神は私たちの中にいるの。私は神であり、巫女なの。」


明くる日は暑く焼けつくような日だった。朝食を済ませた私は、昨夜の夢が忘れられず、伊勢まで足を延ばし、伊勢神宮に参拝しなければならないと思った。名古屋駅で伊勢市までの切符を買うと、伊勢神宮に向かっていた。外宮に参ってから内宮に参るのが通例らしいのだが、私は天照大御神に会いたくて、まず内宮に向かった。

鳥居を潜って宇治橋を渡り、参道を進むともう汗だくになった。何とか手水舎まで来て、木立ちの中を進むと急にさわやかな風が火照った身体を癒してくれる。本殿の階段を上り、作法どおり二礼二拍手一礼で手を合わせ「私は貴方様に会いに来ました。これから何をすべきかお教えください。」といったようなことを念じてそこを退いた。


少し小腹が空いてきたので、おかげ横丁で冷やし伊勢うどんを食べると、今度はおはらい町で赤福のセットをいただき、一休み。


バスに乗り、次は外宮に立ち寄る。ここは天照大御神の食事のお世話をしてくれるという豊受大御神が祀られている。私は、内宮と同様に本殿にお参りし手を合わせた。すると木立ちの中から昨夜の夢の卑弥呼らしき彼女の声が『隠された歴史の扉を開くのよ。』と微かに聞こえたような気がした。私は、もう一度耳を澄ませてみたが、それっきりで小鳥の鳴き声にかき消されてしまった。


私は、外宮を後に、帰宅の途に就いた。新幹線の中でまどろみながら車窓を眺めていると、ふと頭に浮かんだことがあった。「天照大御神が卑弥呼なら、豊受大御神は台与ではないだろうか?」

魏志倭人伝には、卑弥呼の死と、それを十三歳で受け継いだ台与のことが記されている。豊受大御神と台与のいずれも「とよ」ではないか。私は、魏志倭人伝と神話が重なり合って行くのを感じた。

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