第32話

 パパ、ママ、今日は海を見たよ。青くて黒くてちょっと怖かったけど、匂いがすごく気持ち良かった。でも髪はべたべたになっちゃった。何でだろう? 潮風ってそういう物だよ、と釣りをしていたお爺ちゃんに言われたけど、どうしてなのかな? 月に帰ったらニトイ先生に訊いてみようと思います。


 パパ、ママ、今日はタイガって言う針葉樹林を見た! すごいの、全部とげとげの樹ばっかり! なんでこんなに植えたんだろう、うーんうーん考えてたら狐さんにママのローブ引っ張られて連れて行かれそうになっちゃった。皮なのが悪かったのかな? ママももしも月で襲われたら気を付けてね。あれ? でも月で針葉樹林って見た事ないや。広葉樹ばっかり。太陽との関係なのかな、後で図書館に行って調べてみようと思います。


 パパ、ママ、今私は南国に居ます。昔はセーシェルって呼ばれてた島で、アフリカなのにヨーロッパからしか飛行機がないの。お陰で随分遠回りになっちゃったけれど、でもすごいよ! ビーチに人がたくさんいて、マーケットも新鮮なおさかなをたくさん売ってる! あれはなんですか、って訊いたらトビウオって教えてもらったの。明日はそのトビウオを見るクルーズに参加してみようと思ってます。船で酔わないと良いなあ。


 パパ、ママ、今私はヨーロッパのフランスって言う国に居ます。ブドウが凄くたくさん生ってて、食べるのが自由な農園もありました。これでも全盛期の半分ぐらいだよって言われて、ワインが高い理由がちょっと解ったり。お土産にしたいけれど、パパはお酒が飲めない人だから、やめておきます。ブドウジュースも一緒に作ってたから、それ持ってくね。楽しみにしててね。


 パパ、ママ、今日の私はロカ岬に居ます。ユーラシア大陸最西端です。観光客の人も多かったけれど、月の人も多かったみたいです。服を見ると。一生懸命人垣を掻き分けて一番前に行くと、大西洋が見えました。ちょうど夕日の時間だったので、キュムキュムに撮ってもらった写真を添付しますね。あと流石にお風呂に入りたくなってきたから、明日はイギリスに行ってみようと思います。本で読んだロンドン・ダンジョンってまだあるのかな。


 パパ、ママ、イギリスに着きました。フィッシュアンドチップスって言うお芋とお魚を揚げたのがすごく安くておいしいです。月ではおさかなってごちそうだから、こんなお値段で食べられるなんて感激です! ただ、お店によって味の違うのはちょっとしんどいです。油っこすぎたり生焼けだったり。アロおじさんの料理が恋しくなりました。アロおじさんは何でも食べられるようにしてくれるもん。そうだ、みんなにお土産買わないと。ニトイ先生のうちにあって便利な地球の物って何かなあ。万年筆のインク? 後でちょっと聞いてみようと思います。それにしてもフィッシュアンドチップスでお腹いっぱいになっちゃった。キュムキュムと半分こにしたのに。


 パパ、ママ、今私は大西洋の上を飛行機で飛んでいます! 乱気流で凄く身体が揺れるし機体も揺れるんだけど、死んじゃわないよね、と半ば涙目でメールを打っています。怖いよー、平気で半回転ぐらいする。まだ宇宙船のGの方がましだと思っていたら、隣の人が神様に祈りだして、私は何にお祈りしたら良いのか解らなくて、とりあえずアーケロンにお願いしてみたらすぐに収まりました。波を操るってこういう事かあ。すごいね、アーケロンって!


 パパ、ママ、今私はニューヨークに居ます。崩れた自由の女神の像の前で、写真を撮りました。口は三フィートあるんだよ、って教えてもらったけれど、何メートルかは解りません。でもすっごく大きいです。アメリカの人達は何とか女神像を復興するために募金に熱心だったので、一ドルコインを募金箱に入れようとしたら、それは幸運のお守りだから良いのよ、と言われました。だったら尚更必要だと思ったから、こっそり入れて来ました。アンは良い事をしましたか? でも本当、一ドルコインって見掛けないなあと、お財布の中を確認しちゃいました。


 パパ、ママ、今宇宙ステーションだよ。もう少しで帰るから、ママのカレーが食べたいな。アロおじさんの所に行くのは明日にしようと思います。ニトイ博士の所も。何はともあれ自分のベッドで眠りたいです。旅はもう疲れちゃったから、しばらくは良いです。ママにはテディベア上げるね。一番かわいいの選んできたの。パパはブドウジュースね。アロおじさんには新鮮な油とヤシの実油って言うのを。正直重いですけれど、最後までアンは頑張ります。


 ――パパ、ママ。


「ただいまー!」

「アン! おかえりなさい!」

「おかえり、アン」


 パパ達の救った世界はとっても綺麗だったよ。とってもとっても、綺麗だったよ。写真でも万華鏡でも足りないぐらいに。だからいつか今度は、三人で行こうね。アロおじさんたちも一緒で良いかもしれない。

 ただいまのキスをパパのほっぺにしてみると、薄くなった入れ墨の恐竜がにやっと笑った気がした。

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プロトメサイア ぜろ @illness24

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