空をつかむ

空をつかむ

ふ、と空を見上げた。

何かを見つけたわけでもなく、ただなんとなく、空を見つめる。

水色に溶けていく白い雲。

開かない眠い目を擦って、ふう、と息を吐く。

目を瞑って、車の揺れに身を任せると聞こえてくるエンジン音。

「忘れ物はなかったかな。」

「…多分。」

いつの間にか鳴らなくなったスマホに、いつの間にか忘れようとした心の痛み。

そっと窓へ腕を伸ばしてみる。

窓ガラスに指先が当たって、こつりと音がした。

忘れ物はないよ、多分。

私の手は空をつかんだ。