第2話 テレパシー

 プルル プルル


「あっもしもし、後輩? すまない、渡すはずだったプリントをすっかり忘れてたんだ。申し訳ないのだが部室まで……ってありゃ? 電話かかってなかったか。電話しちゃったよ、はずいな」


 電話できなかったのに、先輩は電話してるつもりで話した。しかも挙げ句の果てに電話できてないくせに「電話しちゃったよ」発言。だから……


「こんなことになるんですよっ! 先輩は少しくらい気をつけてください!」


「本当にすまない」


 なんと! 先輩の声が聞こえてくるようになったのだ! どこにいても、だ!


「テレパシーというやつだろうか」


「ええ、おそらく。先輩の声がやけに聞こえてくるのはマジ勘弁です。たとえ尊敬している人の声でも、声優さんでもない限り耐えられませんっ!」


「何度も言う、本当にすまない」


「謝って済むなら警察は要らないんです!」


 怒りながら僕はその場を去っていくのだが……。


(本当に悪かったと思っている。すまない、後輩)


 やっと離れたのに話しかけないでくださいよっ!


(そんなこと言われてもなあ)


 あのですね? 先輩に悪気がないのもよく分かってはいるんですが……ってなんで僕の声まで先輩に届いてるんですかっ!?


(おそらくさっきテレパシーと表現したからだと思う)


 さらに厄介にしないでくださいよっ!


 * *


 ここで多くの人は思うかもしれない。ならそうやって実現してしまったことを「なかったこと」にすればいいのでは? と。


 しかし結論は無理だ。それは言葉には責任があるからである。どうやらこの能力にもその考えは当てはまるようで、一度実現した言葉は決して消すことはできないのだ。


 なら永遠にこのままなのか……? そう思うかもしれないがそこは安心してほしい。


(後輩……。お前はさっきから誰に話しかけてるんだ?)


 別になんでもないですよっ!


(何か悩みがあるなら聞くぞ?)


 ありがとうございます! でも大丈夫ですからっ!!


 ……で、話は戻しますけど、この問題に関しては大丈夫なので安心してください。なぜなら今回は『有限』の実現だからです。


(それは俺から説明しよう。誰に説明してるかは謎だが……)


 ノーコメントですっ!!


(俺の能力は主に二つに分かれているんだ。『有限』の実現と、『無限』の実現の二つだ。どちらが発動するかは正直発動してからじゃないと分からないのだが、いずれはそのどちらになるのかの条件を発見したいと思う。ちなみに残念ながらラーメン屋の事件は、無限の方である)


 でも! あのラーメン屋の店主さんだって、もう一つの夢を叶えられて嬉しそうだったし、そんなに気にしないでください、先輩!


(そう励ましてくれると嬉しいが……やはりあの事件は忘れられない。でもまあ、今語りたいのはそれじゃないし、話を戻そう。要するに、無限の方は二度と消えないんだ。一方で有限の方はある程度時間が経つと消える。先ほど後輩が「一度発言した言葉は決して消すことはできない」と言ったが、消えないとは言ってない。消せないと言ったんだ。まあつまりだな……今回のテレパシー事件は有限の方だから大丈夫ってことだ!)


 その通りですっ! さすが先輩! 説明がグレートですっ!


(ハハッ、照れるな)


 まあ今回は先輩のせいですけどね。


(すまない)


 反省してるようなので責めませんが。


(そう言ってくれるとありがたい。後輩にはいつも迷惑ばかりかけている、謝罪の気持ちとして今日の放課後に美味しい……


 えっ、美味しい……なんですか?


 おーい先輩ー! 返事してくださいよー!


 くそっ、有限が終わった! タイミングが悪すぎますっ!! 美味しい……何なんですか! グレート気になるじゃないですか!?

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言ったことが本当になる系能力者の言い間違いが酷い。 またたび @Ryuto52

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