古代の武器は石

「ここはどこだ?」

「ここはユーラシア大陸中央、ジョージアあたりね」

「僕とハガーが渡ってきた大陸のことですよ」

「ぬう⁉︎ 日の本ではないのか!」

「磐さん、遅れてますね。今はグローバルの時代ですよ、グローバル」


 高天原たかまがはら愚弄把留偉羅命グローバルエラのみことと呼ばれる名前の神が産まれたが、三柱は知る由も無い。


「おじちゃま、アレを見て!」


 彼女柱かのじょの指差す先には棒に尖った石を括り付けた槍、謂わゆる尖頭器せんとうきを持ったヒト達がいた。おおよそ十名くらいの集まりでイノシシを追っている。


「ウホホ、ウホッ! ウホウホホ!」


 ヒト達はイノシシを追い立て隘路あいろに誘い込む。そして、逃げ場を失ったイノシシにヒト達が次々と槍を投げつた。ブスブスと槍が刺さり、剣山の様になったイノシシは悲痛な声を上げて“ドズン“と倒れた。


「見よ、アレぞ石の力ぞ!」


 その光景を見て、磐造狒々命いわつくりひひのみことが歓声を上げた。


 彼らの正体はホモ・サピエンスである。東アフリカで誕生した彼らは食料を求め北上し、この地に辿り着いた。彼らは他の猿人と異なり小柄ではあるが、高い知能と空想を活かした統率力を持っていた。


 その彼らが待つ最新兵器は"石"であった。


 旧石器時代、彼らの生活に石は欠かせない存在であった。


 彼らが持つ尖頭器は、黒曜石を木の棒に括り付けて槍にした打製石器である。黒曜石は衝撃を与えると剥離して破断面が鋭くなる性質を持つ。そして、鋭くなった黒曜石は高い殺傷能力を持っていた。まさに旧石器時代の主役を担う最新兵器と言っても過言ではない。


 それに、石は兵器の側面以外に情報記録媒体の役目もあった。

 石は恐ろしく信頼性が高く、何万年もデータを保存できる最強の記録媒体である。その信頼性は、フランスのラスコー洞窟やスペインのアルタミラ洞窟に見られる壁画が証明している。ハードディスクの寿命が5年程度と考えると、信じ難い信頼性を持つ。


「......と言うわけよ。ね、おじちゃま」

「磐さん、流石ですね。何というか年の功というか」

「然り! 石はヒトが繁栄するに至る始原の物である! 万物の起源である」


 最後の一言は誤っている。だが、磐造狒々命いわつくりひひのみことは誇らしげであった。青銅焔神せいどうのほむらかみの無礼な言葉にも寛容だ。


「大昔の石はこれくらいね。じゃあ、次の世界に行くわよ。タイムワープ!」

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