vs『愚者』ユージョ=メニーマネー(後編)

 シュランメルトは短く告げたのち、Asrionアズリオンを疾走させる。

 走りながら光線ビームを放ち、スライムの体を削り取る。


「そこだ!」


 そして、スライムのコア目掛け、大剣を一閃する。

 瞬く間に、スライムが死体と化した。


「さて、まさかAsrionアズリオンの装甲が溶けはしまいが……。念には念を入れるか」


 すぐさま、Asrionアズリオンがブースターを叩き起こし、空中へ飛翔する。


「次は貴様だ」


 狙いを定めたのは、ラングストだ。

 搭乗者ごと複製されていたそれラングストは、Asrionアズリオンの軌道を読み、手痛いカウンターを食らわせようとする――が。


「盾を盾だと思ったか、愚か者が」


 Asrionアズリオンは隠していた手の内、“盾からの光線ビーム”による射撃を行う。

 想定はしていたが信じきれなかった甘さにより、何発も命中する。

 ようやく回避機動に移るが、地上を想定しない機体設計により、Asrionアズリオンの動きに対応しきれなかった。


「容赦はせん」


 次の瞬間、Asrionアズリオンは大剣と大盾を同時に、上へと振るう。

 遅れて、ラングストの前脚2本が、同時にどさりと落ちた。


「トドメだ」


 立て続けに、全体重を乗せた大盾での刺突を胸部に浴びせ、操縦席ごとラングストを貫く。

 搭乗者を失ったラングストが、擱座した。


「残るは貴様だけだ、異形の蜥蜴トカゲよ」


 Asrionアズリオンはぐるりと頭部を回すと、アル・デリアス・ベノムを睨みつける。

 生物ではないアル・デリアス・ベノムは、しかし恐怖に似た何かを感じ取り、一歩、二歩と後ずさったのである。


     *


 その頃、召喚したモンスター達の壊滅的惨状を目の当たりにしたユージョーは、大いに動揺していた。


「何でだ、何でこの世界に入れたんだよ! しかもだと!? クソッ、あの黒騎士はいったい、何だってんだよぉ……!」


 本来あるはずの、乱入ペナルティ。

 それが、シュランメルトにも龍野にも、そしてユージョーにも、適用されていなかったのだ。


 まるで、


「ッ、クソッ、クソがっ! 何で、俺の夢は……ッ!?」


 その時、ユージョーの目が信じがたいものを見る。


 アル・デリアス・ベノムが、両腕両脚、そして尻尾を叩き落されてから、頭部を切り落とされたのであった。


     *


「この程度か。まさか唾液がAsrionアズリオンの装甲に浸透するとは思わなかったが、すぐに直るだろう」


 たやすくアル・デリアス・ベノムを屠ったAsrionアズリオンは、ユージョーを剣の切っ先で指す。


「さて、愚かにも私利私欲を全うし、世界の秩序を乱した者よ。貴様を殺す者の道が、今開けた」


 その一言に合わせ、龍野が全力全開で魔力を噴射し、ユージョー目掛けて迫る。


「チクショウがっ! カード『カンガルー』!」


 ユージョーが自暴自棄になりながらも、最後のカードを発動する――が。


「お別れだ、ジークフリート……いや、全ての元凶、ユージョ=メニーマネーッッッ!!!」


 自らのカードに払った代償で、ユージョーは動けない。

 当然、龍野は超高速でも、大剣を外しはしない。


 一瞬のち――ユージョーの心臓部が両断され、中途半端な上半身と下半身が分離し、どさりと音を立てて地面に落ちたのであった。


     *


「はぁ、はぁ……。終わった、ぜ……」


 龍野は息を切らしながら、天を仰ぎ見る。

 いつの間にか、ユージョーの召喚したモンスター達の死体は、そしてAsrionアズリオンは、見えなくなっていた。


 と、そこに声が響く。


「よくやった」

「助かったぜ、シュランメルト……」

おれおれの為すべき事を為しただけだ」

「そうかよ……。いずれにしろ、ありがとな……」


 シュランメルトもまた、龍野の隣に寝そべって天を仰ぎ見る。

 空には、亀裂が入っていた。


「この偽りの世界も、間もなく崩壊するだろう。安心しろ、お前達は……ユージョ=メニーマネーとやらが標的にしなかった者も含め、全員無事だ。アルマガルム・アークエグゼも、首尾よく進んだだろう」


 シュランメルトは、龍野に向かって呟き続ける。


「元の世界に戻ったら、お互いを呼び合え。普段の呼び方で、な」

「分かったぜ」

「そしておれは、お前達を祝福する。そのように、Asrielアスリール……いや、おれの母親からも言われた上、何よりおれ自身もそう願っているからな」


 龍野とシュランメルトの見る空は、亀裂が大きく走っていた。


「そろそろお別れだ。おれ達はここでは別れるが、また会える。再会を願おうではないか」

「そうだな。また会いたいぜ」

「ああ。お前達の未来に幸多からん事を祈っている」


 その会話を最後に、龍野の意識は途切れたのであった。

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