vs『星』(後編)

「さて、作戦会議だ」


 風呂から上がった黒龍騎士団一同(とララ)は、誰が言うともなく、会議室に集合していた。


「そうね。

 何か、案は見つかったかしら?」

「ああ、見つけたぜ。

 そっちは?」

「うふふ、備えているわよ」


 撤退時とは打って変わって、全員が意気揚々としていた。


     *


 ブリーフィング終了後、黒龍騎士団の面々は各々の格納庫に向かって――いなかった。

 正確には、龍野、ヴァイス、ディノ、そしてシュシュを除く全員は、本社で待機していたのだ。


「援護は任せろ。

 行ってこい!」

「ええ!」


 もっとも、ララの周囲には155mm砲弾と460mm砲弾が山積みされているのだが。


 龍野達四人は、それぞれの鋼鉄人形に搭乗し、“エルダードラゴンハイランダー”に転移した。


     *


「さて、リベンジマッチと行くか」


 再び、ヒトガタを見据える。

 醜悪な外見を前にしても、燃える闘志が拒否反応を阻止していた。


「まずは、仕掛けねえとな!」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)とリナリア・ヴァイスリッターの2機が、素早く加速する。


「――――――――!」


 ヒトガタが腕を乱暴に振るい、払おうとする。

 だが、大振りな一撃は、大気をかき混ぜるだけだ。


「取り付いたぜ!」

「わたくしもですわ!」


 当然のように、2機は取り付きに成功する。

 と、表面を紫電が走った。


「この程度……!」

「無駄ですわよ!」


 が、電撃対策を十分に施した2機に、通じはしない。


「行くぞ!」

「ええ!」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)とリナリア・ヴァイスリッターがお互いのマニピュレーターを掴んだ。

 そして、そのまま機体とヒトガタが、輝き始める。


「決着を、付けようぜ……!」


 数瞬のち、2機とヒトガタの姿が、完全に消滅した。


     *


「さあ、思う存分やってやれ!

 なあ、ヴァイス、シュシュ!」

「ええ、もちろんよ!」

「言われなくても……!」


 龍野達が到着したのは、『魔術師』との戦いで破壊した基地の、跡地であった。


 ランフォ・ルーザ(ドライ)とリナリア・ヴァイスリッターは取り付いたまま、機体を輝かせ始める。


「では、シュシュ」

「ええ、お姉様!」


 二人はどちらからともなく、息を合わせて唱えた。


『呪われた生命いのちよ、ただ眠りなさい。

 安らかに、とこしえに』


 そう唱えた途端、ランフォ・ルーザ(ドライ)とリナリア・ヴァイスリッターのマニピュレーターから、氷が発生し始める。


 ヒトガタが、自らへの異常を察知する。

 だが不思議な事に、帯電以外は何もしなかった。


『全ての罪は、全ての苦しみは、間もなく浄化されます』


 ヒトガタは自らを構成する人間を増やしつつあるが、増えたものごと、氷に包まれる。


『眠りなさい。

 全てを忘れて……』


 やがて、ほとんど全身が氷点下、いや絶対零度に包まれた。

 わずかに残った人間が抗うも、氷に包まれ。


『さようなら』


 そうして、ヒトガタは構成要素である人間を全て、氷の彫像にされた。


「よくやった!

 退避するぞ!」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)とリナリア・ヴァイスリッターは、ヒトガタから即座に距離を取った。

 十分離れてから、龍野がララに連絡する。


『ララ殿下!

 全力砲撃を!』

『了解した!

 離れていろよ!』


 全力で砲弾を投擲し始めるララ。

 次元転移により、投擲後ただちに着弾する。


 155mm砲弾、そして460mm砲弾の雨あられ、加えて規格外の再生能力は絶対零度により封印されている。


 ヒトガタは何の断末魔も上げずして、およそ1分を費やしたのち、バラバラに砕け散った。

 よしんば生きていたとしても、二酸化炭素の大気では遠からず窒息死するだろうし、ましてや魔術の氷は容易には溶けない。


『作戦完了だ。

 撤収する』


 かくして、黒龍騎士団は“リブート”の一つ、『星』を撃破せしめたのである。


     *


 フーダニットのいる本社に戻って早々、龍野はあるものを目にした。


「終わったぞー……ん? どうした、フーダ?」


 プリントを手にしたフーダが、大急ぎで駆け寄って来る。

 遅れて、黒龍騎士団の面々とララも来た。


「騎士様、それにお姫様、これを……!」

「見せてくれ」


 龍野がプリントを受け取り、目を通す。

 と、見る見るうちに、表情が険しくなっていった。


「……………………何だこりゃ」


 怒りをこらえるように、小さい声で発した言葉は、しかし全員にはっきりと届いていた。


「総員、鋼鉄人形に搭乗して待機!

 これより“スクールデイズ”に向かい、クソ野郎どもを叩き潰す!

 その前にフーダ、全員にプリント寄越せ!」

「はっ、はいっ……!」


 いつになく本気で激怒している龍野。


 その後、手渡されたプリントを見た黒龍騎士団の面々は、それぞれ、感想を抱いた。

 ある者は「女性の敵め」と憤り、またある者は「あーあ、やっちゃったな」と憐憫を抱き、またある者は「叩き潰す」と戦意をあらわにしていた。


「俺とヴァイス、それにディノは、打ち合わせだ!

 それ以外のやつらとは、後で共有する!」


 龍野は団員達にそれだけ言い残すと、作戦準備に向かった。

 ……鬼神の如き表情を、携えたまま。

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